松尾スズキ「男女が全裸で戦争してるんだよ」漫画家・河井克夫「合作の極意」を考える

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宮藤官九郎さん脚本のNHKドラマ『あまちゃん』に俳優として出演したことでも知られる、漫画家の河井克夫さん。かつては劇団「大人計画」の常連出演者でもあり、松尾スズキさんとのコンビ「チーム紅卍(くれないまんじ)」としての活動もよく知られています。


かつて松尾スズキさん命名による「金紙&銀紙」の片割れとして、共著(『似ているだけじゃダメかしら?』)を出したこともある「金紙」こと枡野浩一が、相方である「銀紙」こと河井克夫さんに初のロングインタビュー。


ひと癖もふた癖もある複数の表現者たちと、長年にわたって一緒に仕事することができるのはどうしてなのか?
2015年に刊行された著作2冊はいずれも「共著」だが、いったいどのような経緯で制作されたのか?
題して、『合作の極意』。阿佐ヶ谷にある私の仕事場「枡野書店」から、前後編に分けてお届けします。インタビューの前に、「金紙&銀紙」の活動を振り返って雑談しましたので、興味のあるかたは動画をご覧ください。(映像や音声が一部乱れていてすみません!)



───改めて、どうぞよろしくお願いします。
河井 どうぞよろしくお願いします。今回のインタビューのテーマが『合作の極意』ということで、今まで出した本を調べてみたら、半分以上が共著だったんですよ。
───これが、今年刊行された『女神たちと』。「コミックビーム」に掲載された作品ですね。


河井 これはね、自分で言いますけど面白いです。私と、七人の女性との共著ですね。オムニバスに近いのかな。どういう本かっていうと短編漫画集なんですが、僕が原作を書いて六人の女性作家に漫画を描いてもらいました。もう一本漫画が入ってるんですけど、それは映画監督の横浜聡子さんに原作を書いてもらって、僕が漫画を描いた。この一本だけ、役割が逆転してるんですけど。
───近藤ようこ、やまじえびね、二宮亜子、おくやまゆか、安永知澄、原百合子、そして横浜聡子監督(敬称略)。豪華ですね。
河井 絵が皆さん個性的なんで。雑誌みたいに、一冊で色んな絵が楽しめます。僕も色んなタイプの話を書いたので、一冊で色んな楽しみ方ができる本だと自負しています。
───女性たちは河井さんの指名ですか?
河井 編集部ですね。もともと「コミックビーム」編集長の岩井さんの発案で、その岩井さんが担当だったんですけど。基本、参加してくださった漫画家さんは、すでに「ビーム」に描いていたりとか関わりのある作家さんで、「次、だれだれさん、どうですか?」って提案されていった感じです。前からゆるゆる準備すすめてたんですが、いちばん大きかったのは、近藤ようこさんにダメモトで原作を出したら「描きますよ」って言ってくれたことですね。それで企画が回りだしたんです。
───近藤ようこさんは面識あったんですか?
河井 近藤さんもその時点では面識はないです。面識あったのは、3人だけですね。やまじさんも、横浜さんも、いまだにお会いしてない。「コミックビーム」では、じつは漫画はあまり描いてなくて、原作ばかり二冊やってるんですよ。
───そうでした?
河井 最初にやったのが安永知澄さんの『わたしたちの好きなもの』。これは安永さんが絵を描いていて、僕と、上野顕太郎さんと、しりあがり寿さん、漫画家3人が原作を書いてるという。これが出たら、わりと評判がよかったんです。で、そのあとが市川ラクさんの『金の靴 銀の魚』。流麗な絵を描く方なんですけど、彼女のデビュー直後くらいのころに、「じゃあ河井と組ませたらどうだ」っていうことで、こちらは一冊まるごと僕が原作で市川さんが絵、ということで出してもらいました。そういう意味で、原作者としてのキャリアはあったんです。

絵を仕上げるのはつらい


───河井さんは色々な仕事をされていますけど、どういうことが得意とかありますか。
河井 得意なのは……。絵を描くのは、嫌いじゃないですけど、大変だし、下手だし、やっぱり、人が描いてくれるのはいいですよね。
「ネーム」っていう作業があるんですけど。話を考えて、コマ割りして。なんとなく漫画のかたちになるところまでが楽しい。それをブラッシュアップしていく作業が、つらくてしょうがないですね。ペン入れしたり、スクリートーンを貼ったりとか。そういうのはもう「作業」になりますから。「だれかやってくれたらいいのに」って(笑)。
───程度の低い話で恐縮ですけど、学校の図工で鉛筆の下がきはきれいにできたのに、絵の具を塗ったら台無しになる、みたいな?
河井 そうそう、そういうことです。人が台無しにしてるぶんには、たぶん気にならないんですよね。それを自分がやると……。(インタビュー前の雑談で)枡野さんが、「自分がちゃんと動けば回避できたかもしれないミスがあることが耐えられない」って話をしてましたけど、そういう局面が漫画の作業には、いっぱいあるから。「ここから先を人がやってくれたらいいのに」って。人がやってくれて、変わっていくぶんには、気にしないんです。だから、向いてるのかもしれないですよね、原作を書いて人に絵を描いてもらうの。
───コマ割りとかも、面倒くさそうですが。
河井 俺はコマ割りまではね、大丈夫。そっからが嫌。なんだかんだで二十年くらい、漫画まわりの仕事してますけど、複雑なものですよね。話をつくって、絵も描かなきゃいけないし。そのうえで、コマ割りだのなんだのは、また別の才能ですからね。

漫画の仕事と文章の仕事


───文章だと、いくら体調悪くても、時間をかけて少しずついじれば不調がバレないように仕上げられる感じがあるんですけど、絵だと肉体的なものがそのまま残りそうですね。
河井 それは、枡野さんが、文章にいちばん親しんでるからじゃないですか?
───いや、中島らもさんみたいにアルコール中毒でも、文章はそれなりに書けるような気がするけど、漫画も描けるんでしょうか?
河井 絵が得意な人は、どんな体調悪くても、やっぱり描けますよ。俺はできないけど。もちろんそういうとき本人は、「ああこれ、よっぱらってたから、こんな絵になっちゃった」って言うけど、それをほかの人がみても、「え、どこがちがうの? これはこれでいいじゃん」みたいなことだったりするから。
───年齢を重ねて、体力がなくなったのか、絵が変になっていく漫画家さんていませんか。
河井 変になっていく、っていうか。色々でしょうね。ほんとに弱っていく人もいるし。よかれと思ってやってる場合もあるし。リアルを追求した結果、どんどん絵が硬くなっていったりとか、アートみたいになっちゃったりとか。それはね、象徴的な話があって。蛭子能収さん。僕は蛭子さんの漫画大好きなんですけど、「ガロ」で描いてた初期の漫画とか、すごくいいんですよ絵が。劇画とはちがいますけど、それなりに構図がぱきっとしていて、横尾忠則さんとかに影響された絵で。だから、そのころの蛭子漫画のファンは、「蛭子さん、ちゃんと描けばいいのに」って言ったりするんですけど、でも、蛭子さん本人は「いや、今の絵のほうがうまい」って言ってるんですって。はたから見たら、とてもそうは思えないわけですよ。でも、やっぱり若いころに描いた絵には、変ながんばりだったりとか、余計なあれがあって。今のほうが、ご本人はそういう言葉つかってないけど「洒脱」っていうか、ぬけがいいっていうか。今のほうが自分はちゃんと絵が描けてる、っておっしゃってる。それは本人が言うんだから、そうなんだろうなって思いますよね。
───なるほど。
河井 あとは、まわりの読者が、「いや、80年代のころの絵のほうが好きだった」とか、おのおの決めればいいんじゃないですかね。
杉浦幸雄さんていう、亡くなりましたけど90歳くらいまで現役で描いてた漫画家がいて。戦後の風俗のことをずっと描いてたんですけど、晩年は線もへろへろでしたけど、見るとやっぱり「おお」って思いますもんね。ご本人がいいと思ってるかどうかは別として。それはもう、気にしなくていいんじゃないですかね。衰えてるのは衰えてるんでしょうし、それを気にするなら、「じゃあもうやめます」って話じゃないですか。

松尾スズキさんとのコラボレーション


───今年は松尾スズキさんとの合作も出ましたね。
河井 『ニャ夢ウェイ』。これは松尾スズキさんが原作ですね。四巻目にして完結しました。「ロッキング・オン・ジャパン」で十三年やってました。


───文庫化もされた第一巻には、枡野も離婚話しかしないキャラクターとして出させていただいています。この漫画、どうやって役割分担してるのか、全然わかんないですよね。
河井 これはねえ、べつに……種明かしすると……。っていうほどのことでもないんですけど。
───言えないなら、いいですよ。
河井 いや、明かしていいんですけど。要は松尾さんが、そういうシナリオを書いてるんです、「どう役割分担してるのか、わからないようなシナリオ」。俺がそれを、損なわないように絵にしてるだけ。
───ええっ、そうなんですか?
河井 ほんと、バラバラなんですよ。松尾さんが、すごいきっちりシナリオを書いてくるときもあるし。電話一本よこして「だいたいこんな感じで、あとよろしく」ってときもあるんですけど。この中に「男女全裸戦争」っていう話があって、これは喫茶店で三十分くらい話しただけですね。「男女が全裸で戦争してるんだよ、河井くん」「そうですか」って(笑)。で、俺がメモとって、「こういうセリフいれましょうか」って、打ち合わせしてできたものなんです。ほかの漫画は、わりとちゃんとシナリオっぽくなってるテキストをもらって、それをそのまま漫画にしてるっていう。だけど、毎回の印象はあまり変わんないわけですよね。
───凄いですね。
河井 たぶんこの作品に関して、スタイルがもう、できたってことでしょうね。「猫」とか、漫画のキャラクターである「松尾」とか「河井」が出てきてなんかやる、っていう。そういう世界観が松尾さんの中にあって、ずっとやってるから。そんなに説明しなくてもそれをかたちにできる、っていう。
───これはいわゆる「猫漫画」であり「エッセイ漫画」なんですけど、松尾さん本人が描かずに河井さんが描いているし、二人がキャラクターとなって漫画に登場するという、ほかで見たことのない芸風ですよね。三巻なんかは、ほかの漫画家のパロディが頻出したりして、もうかなりの「実験漫画」でしたし。
河井 そうですね。陸奥A子さんの絵とか。
───もっと評判になってもよかったですね。
河井 そうですよね。
───漫画ランキングとかでも忘れられてる。
河井 やっぱり、「このマンガがすごい!」とかが取り上げてくれる本って、どうしても漫画を出してる出版社のものばかりですよね。
───ああ、ロッキング・オンですもんねえ。
河井 漫画業界に無視された本ではあるんですけど。漫画の棚に置いてないですからね。
───たしかに。松尾スズキさんのコーナーに置かれてます。地味な演劇コーナーとか。
河井 色んな問題がありますよね。これ、四巻けっこう高くて千二百円なんですけど。漫画のコーナーに置こうっていったら、普通は千二百円の値はつけられないですよね。だから、こういう本がちゃんと出るっていうのは、逆に、漫画業界から離れていたおかげかもしれないし。ちょっと、それは、一長一短というか。
───そうですね。これ、連載が終わりましたけど、終わっちゃうしかなかったんですか?
猫がいなくなっても、また飼えばいいのに。
河井 わりとじつは、「猫いない時期」長いんですよ。松尾さんの家の事情で、猫飼ってない時期っていうのがあるんです(笑)。初代のオロチっていう猫は、早々にいなくなってるんですけど、いるふりして描いてた時期が、けっこうあるので。
───どのくらい? 全四巻の、半分とか?
河井 わりと、そう言ってもいいくらい。最初は猫の生態を描くエッセイ漫画だったんだけど、猫いないから生態のさぐりようがないし。いたところで、たかが知れてますよね、猫のすることはね(笑)。おのずと、「猫じゃない部分」が増えていったと。
───新しい猫が途中から来たりしましたが。
松尾 途中から来た猫も、いなくなってしまって。今後、松尾さん、また飼うかもしれませんけどね。四巻の巻末で、坂本美雨さんていうミュージシャンと鼎談させてもらってるんですけど。あの方は無類の猫好きで。「猫、また飼えばいいのに」って、しきりにすすめられたりしてましたけどね。
───松尾さんとのコンビも長いですよね。
河井 長いですね。
───「テレビブロス」とかもありますしね。
河井 「テレビブロス」は単に松尾さんがコラムを描いて、それに僕が4コマとかの漫画をつける、っていう。来た原稿に、僕が後出しでどんどんつけていく感じ。これも十何年やらしてもらってますけどね。最初この仕事をもらって僕がやりたかったのは……伝わるかな?「山藤章二」がやりたかったんですよ。
───ああ! イラストレーターの。
河井 むかし「夕刊フジ」っていう夕刊紙で、色んな作家がコラムを書いてて。筒井康隆とか吉行淳之介とか山口瞳とか。
───中島梓とか。
河井 そうそう。新潮文庫でけっこう本が出てるんですけど。とにかく作家が夕刊紙で百回コラムを書いて、その横に山藤章二さんが、関係ないものをかく。ちょっとは関係してるんだけど、直接は関係ない絵と文をかく。っていうのをずっとやってて。僕は小中学校それをずっと読んで育ってるんで。これはもう「山藤章二をやろう」って。
───言われてみれば、わかります。これ、松尾さんの原稿を待たないと描けないですよね。松尾さんはシメキリ守るほうですか?
河井 守るんです。申しわけないけど僕のほうが、原稿ちょっと遅れたりしますね。松尾さんはシメキリ、すごく守る人です。
───金紙&銀紙の本の中で、私が短歌をつくって河井さんが自由に漫画にしてくれたことがあるんですけど。あっというまに、凄い完成度の漫画が出来てきてびっくりしました。
河井 順番がはっきりしてたら、大丈夫なんです。「原作があります、これ漫画にします」っていう、トップダウンって言うんですか?(笑)そういう方向がはっきりしてたら、あとはもう、シメキリを守るとか、がんばって描くとか、そういう問題なだけで。そんなに齟齬はおこらないですよ。枡野さんとの合作の場合、枡野さんが短歌かいてくれたのを僕がつなげて漫画にしたんですけど。これ、枡野さんが喜んでくれたからいいものの、「いや、こういうことじゃないんだけど」って言われたら、やっばりそれは、ストレスになるというか。
───なるほど。でも新鮮で面白かったです。
河井 これまでやってきた漫画化作業に関しては、そもそも僕が絵を描く人をイメージして「あてがき」してるせいか、あんまりそういうのはなかったですよね。僕の原作を渡して、ネームかいてもらったあと、「ここはこうしましょうか、ああしましょうか」って、こちらが色々言ったりすることはあるので、向こうにはめんどくせえな、あいつ、と思われてるかもしんないですけどね。
(枡野浩一)

明日(12/16)公開予定の後編に続く