ボストン・セルティックスのアイザイア・トーマス(PG)にとって、スピードやクイックネスと同じぐらい大事なのは、「彼自身の好奇心」かもしれない――。現役選手のなかで一番小さい175センチの彼が、NBAの大男たちと戦い続けるためには、いくらパワーやスピードをつけてスキルを磨いても足りない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

「才能だけでは限界がある。このレベルにくると、みんな才能ある選手ばかりだ。だからこそ、一番大事なのはメンタル面だと思う」

 メンタル面を研ぎ澄ませるために、トーマスは偉大な先人たちの言葉や考え方を貪欲に学んでいる。それは、バスケットボール界に限らない。

 たとえば、そのひとりはブルース・リー。この夏、トーマスはツイッターで、「ブルース・リーを研究している」とつぶやいた。

「彼のメンタリティは、この世の中の誰ともまったく違う。彼の言葉を読んでみると、何かに集中してやろうとしたとき、すごく納得できる」

 なかでも、一番好きな「水になれ」という言葉は、スマートフォンに保存して持ち歩いているという。

「心を空っぽにしなさい。様式も形もなくしなさい。......水のように。コップに注げば、水はコップとなり、瓶に注げば、水は瓶になる。ティーポットに注げば、水はティーポットになる。水は流れることもでき、砕けることもできる。友よ、水になりなさい」(ブルース・リー)

 器が何であれ、周囲の環境が何であれ、自分が自由自在に形を変えることができれば、そこで生き延び、存在を示すことができる。適応すれば、そのなかで自分の力を発揮することができる。

 2011年のドラフトでトーマスがサクラメント・キングスに指名され、NBA入りしたときもそうだった。同じポイントガードのカイリー・アービングがクリーブランド・キャバリアーズにトップ指名された、4年前のドラフトである。

 しかし、トーマスが指名されたのは、アービングの59人後となる全体60番目......。つまり、この年のドラフト最後の指名選手だった。普通に考えれば、開幕ロスターに残るのさえ難しい順位だ。それでも、狭きドラフトの隙間をするりと抜けたトーマスは、開幕ロスターに残っただけでなく、シーズン半ばにはスターターに抜擢され、チームになくてはならない選手だということを証明した。

 また、チャンスのドアが開きそうだと思ったら、思い切りよく飛び出しもした。ドラフトの2年後、フリーエージェントになったトーマスは、フェニックス・サンズから4年2700万ドル(約32億1000万円)の契約オファーを受けると、すぐに移籍を決意。すでにエリック・ブレッドソー、ゴラン・ドラギッチと、ふたりのポイントガードを抱えるチームだったが、ポイントガード中心のスタイルのサンズなら自分の持ち味を出せる、と判断したのだった。

 結果的に、この移籍は失敗に終わった。「ポイントガード3人体制」がうまくいかないと判断したサンズ側が、昨シーズン半ばにドラギッチに続き、トーマスをトレードに出したのだ。ボストン・セルティックスへのトレードを告げられたときは、動揺し、落ち込んだ。

 そんなときにアドバイスしてくれたのが、大学時代からメンター(指導者・助言者)として相談に乗ってくれていた、同姓同名の名ガード――アイザイア・トーマス(元デトロイト・ピストンズ/1981年〜1994年)だった。

「これは君のキャリアを変える出来事だ。今、セルティックスはプレーオフ圏内まで1ゲームのところにいる(2015年2月19日に移籍)。チームをプレーオフに導くんだ」

 テキストメッセージで、トーマスの背中を押してくれた。

 それを読んで心機一転したトーマスは、前向きな気持ちでセルティックスに移籍。実際、トーマス加入後のセルティックスは20勝10敗と急上昇し、イースタン・カンファレンスの第7シードに入ってプレーオフに出場した。自分の気持ち次第では、「失敗に見えることも成功に変えることができる」と教えられたのだ。

 トーマスがそういったメンタリティを研究しているのは、ブルース・リーだけではない。ボクシング界の無敗の王者――フロイド・メイウェザー・ジュニアとは5年来の友人だ。ラスベガスでメイウェザー・ジュニアのワークアウトを見学して以来、同じぐらいのサイズのふたりは意気投合し、付き合いが始まった。

「僕らはふたりとも小さく、『絶対にできない』と言われてきたことをやってきた。彼が無敗のキャリアで世界を驚かせてきたように、僕も世界を驚かせようとしている」と、トーマスは共通点を語る。

 自由奔放な発言や生き方を貫き、リングでは挑戦者を次々と退けるメイウェザー・ジュニアは、「人と違い、常識外れだからこそ、参考になる」とトーマスは言う。

 一方、メイウェザー・ジュニアはトーマスに、「自分の考え方の主導権を周りに取らせるな」とアドバイスするという。周囲の評価で自分の目標を下げ、考えを狭めてはいけないというのだ。

「君は5フィート9インチ(175センチ)、本来ならNBAにいるべきサイズではない。それでもいるのだから、世界中でもっともグレートな選手のひとりなんだ。そう信じ、理解し、努力することだ。誰かが決めた枠のなかに、自分をはめようとしてもダメだ」

 メイウェザー・ジュニアからのそんな言葉を聞き、彼の戦いぶりを見て、自分も身長の低い選手としてNBAで生き延びるだけでなく、輝くために必要なメンタリティを吸収してきた。

 12月11日、セルティックスは開幕23連勝中のゴールデンステート・ウォリアーズと対戦。あと1本シュートが決まれば、ウォリアーズの連勝を止めるところまで追い詰めた。しかし、第4クォーター終了寸前に放ったトーマスのシュートはブロックされ、最初のオーバータイム終了寸前のシュートも外れ、セルティックスは2回のオーバータイムの末に敗れた。

 もっとも、それで落ち込むトーマスでないことは、翌日の試合で証明された。前日の敗戦から立ち直ったトーマスは、今季好調のシャーロット・ホーネッツ相手に21得点、そして自己最多13アシストの活躍で、チームを勝利に導いたのだ。

 セルティックスのブラッド・スティーブンス・ヘッドコーチはホーネッツ戦後、トーマスを称賛した。

「勝ち負けに本当にこだわる。私がアイザイアを好きなところだ。彼は、ゴールデンステートを倒すシュートを決めたくて仕方なかったんだ。小さいけれど、競争心が本当に強いヤツだ」

 トーマスにとって、当面の目標はNBAオールスターに出ること。ドラフトの60人目で指名されたときには考えもしなかったことでも、今の彼なら十分に手の届く目標だ。それだけではない。さらに先には、9年生(日本の中学3年)のときに決意した究極の目標がある。自分の身長がこれ以上伸びないと気づいたときに、決意したことだ――。

「史上最高の6フィート未満の選手になる。自分なら、なれると信じている。思いつきで言っているのではなく、本当にそう信じている」

宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko