アスリートとシニアは要注意! 膝の痛みケア最前線
「寒くなると関節が痛くなる」という人は少なくありません。これは、寒くなると血管が収縮し、血流が悪くなるために起こる現象です。酸素や栄養素の循環が悪くなり、老廃物が溜まりやすくなることで、膝や腰などの関節に慢性的な痛みのある人はより強く痛みを感じやすくなります。ここでは、膝の痛みのケアについて、医学博士の須田芳正氏と、整形外科医の丸山公氏に聞きました。
一流選手を目指すために必要な知識とは
須田正芳氏は、慶應義塾大学のサッカー部の監督でもあり、最近ドイツの名門クラブチームに移籍したプロサッカーの武藤嘉紀選手の才能を花開かせたコーチとしても知られる人物。すべての運動指導者にとって選手の膝のケガのケアは大きな課題であり、特に栄養について学ぶことが重要だと語っています。
同氏によれば、スポーツ中に発生するケガの統計を見ると下半身が多く、中でも足の関節や膝のケガは重症化しやすい傾向があるそうです。運動選手によくあるケガとしては足首の捻挫も挙げられますが、これもヒザの故障につながるそうです。足首の捻挫を繰り返していると、そこをかばうことで膝の負担が増えるからです。
また、練習場の素材も選手の膝に大きく影響すると言います。天候に左右されず利用できる人工芝の練習場は便利ですが、現在の質の良い人工芝と違い、以前の人工芝はサッカーの練習時に選手の足首や膝にダイレクトに衝撃を与えるのです。このため、中学・高校と長期間にわたって人工芝で練習を続けたことで、大学入学時に膝に痛みを抱えている学生もいるそうです。
須田氏の教え子の中にも、高校時代に何度も膝のケガを繰り返し、大学では入部を諦めていた選手がいました。しかし、須田氏の指導によってサプリメントで膝の軟骨の再生を促し、また痛みが軽減するトレーニングを取り入れることで、無事サッカー部に入部し、大学在学中は大きなケガもなく活躍することができたと言います。
「膝離職」を一時は覚悟したが…
「『膝は治らない』と言われ、仕事の引退を考えました」と振り返るのは、川崎市に住む女性のKさん(62歳)。家事代行サービスとして家庭やオフィスの清掃を担当しているKさんは、5年前に発症した「変形性膝関節症」による膝の痛みが、2014年3月になって深刻化しました。
以前から、作業時に頻繁にとる中腰や前屈みの姿勢が膝の負担になっていたKさんは、症状が悪化して以前のようなサービスを提供できないと感じ、引退を覚悟したと言います。しかし、得意先に紹介された練馬区の関町病院の丸山医師を受診したことで、希望を持てるようになりました。
骨の変形は治らずとも、痛みの軽減は可能
丸山医師は、「膝の骨の変形は、残念ながら加齢や生活習慣によるものなので治りません。しかし、膝の周囲の軟骨は再生可能であることがわかっています。膝痛と上手につき合いながら、仕事や趣味を続けることは十分可能です」と語ります。
丸山医師によれば、初期の変形性膝関節症の場合は、補助具を装着して生活することで痛みはかなり改善するそうです。それに加えて、自宅でできる簡単な筋トレ、栄養指導による体重コントロール、正座や深屈伸をなるべく避けるような生活習慣の指導を行っています。
若いアスリートと中高年の膝の痛み。いずれにも共通して言えるのは、痛みには早めのケアが必要ということ。異変を感じたら、悪化する前に整形外科医やスポーツトレーナーに相談することが重要と言えます。
<執筆>
●市川 純子(医学ジャーナリスト、ヘルスケアコンテンツストラテジスト)