2015年12月14日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

誰もがスマートフォンを持ち、ゲームやアプリによる遊びに興じ、友人知人や有名人が今何をしているかに一喜一憂する時代。アプリを配信するプラットフォームとして強大な権限を持ち、生態系の頂点に立つAppleとGoogleにはだれも逆らえなくなりつつあるし、ソーシャルメディアのトラフィックを自在に動かし、企業と消費者の間に立つ仮想空間の仲買人となったFacebookもまた、権勢を大きくする一方である。

我々は、彼らの一挙手一投足を多くの企業が注視し、その行動に対して異議を唱える自由なく、彼らの思惑に必死に合わせようとしているのが現状だ。

かつてMicrosoftを悪の帝国と呼び、自由なコンピューティング環境と多様性を実現しようとした多くの企業がいたが、いまやMicrosoftt全盛期よりもガチガチに制御された世界に我々はいるようだ。

普段は思い出すことは少ないが、このところ、我々がどれだけコントロールされているかを思いしらされる事件が相次いで起きた。

■AppleにiOSアプリデベロッパーアカウントごと抹消されたNagisa

アプリ開発事業を営んできたスタートアップ、Nagisaが「2015年10月7日における、米アップル社運営 App Storeの弊社デベロッパーアカウント停止措置に関連して、アプリケーションのサービス運営終了及び、当面の弊社iOS アプリケーション事業の方針に関してお知らせ致します」というアナウンスを、プレスリリースしたことが、業界内で衝撃をもって受け止められている。

彼らは「マンガ無双」や「マンガ姫」などの人気アプリを持つ、著名アプリメーカーのひとつであったが、マンガ配信アプリがApp Storeの審査を通ったあとに、アダルト系の作品の表示が可能になるような不正を行っていたことが原因らしい。ちょうどフォルクスワーゲンが、米国の排ガス規制試験通過後に、規制違反の状態に戻せる不正ソフトを使っていたことに等しい、悪質な手口なわけだ。

事実関係は明らかではないが、原因が真実ならば、処罰の厳しさもやむをえないところだろう。しかし、アプリごとの配信停止ではなく、開発アカウントごと抹消されるのは死活問題であり、似たような手口を行っている業者は震え上がったことだろう。

実際には、多くの業者は誠実にApp Storeの定めるポリシーや基準に合わせて開発を続けているが、それでも予告なく審査基準を変えてくるApp Storeに対して不満を持つところは少なくない。今回の事件で、Nagisaに対する同情の声が意外に多いのもその表れだと思う。

僕が「企業はアプリ開発より、Webでメディアを作れ」と主張するのも、こうした環境に対する不満の表れであるとも言える。

■自社都合を徹底して優先するFacebook

Appleの場合は、まだ理屈がわかるが、よりひどいのはFacebookだ。Facebookは企業に対してFacebookページを使うメリットをあれだけ強調し、多くの企業がFacebookページの開設をするに至っており、そして消費者からの「いいね」集めに多くの投資を行わせたが、最近のFacebookページへの冷遇はあまりに露骨だ。

2010年にタブアプリを廃止して、多くのソーシャルアプリ開発業者を廃業に追い込んだことは記憶に新しいが、今月に入ってから、FacebookのAPIに準じて開発された投稿アプリ経由でポストされたコンテンツの、ニュースフィードへのリーチ数が激減するようにアルゴリズムが改変されているようだ。

つまり、Facebook、Twitterなどへの同時投稿アプリなどからの機械的な投稿は、一般ユーザーにほぼ見てもらえなくなるということだ。

これはまだ正式にアナウンスされていないが、僕が実際に試してみたところ、同じコンテンツ(URL)を、アプリ経由でシェアした場合と、WebのFacebookページでオーガニックにシェアした場合でのリーチ数の違いは、100倍以上違う。仮に後者で1000リーチ/日とするなら前者のアプリ経由では10リーチ/日、という惨状になる。もう少し調査を続けたいが、Facebookの投稿代行をしているような企業や投稿ツールの開発企業は廃業に追い込まれるのではないだろうか?

■Twitterがリツイート数の表示を停止

2015年11月から、各Webサイトに設置されたTwitterのリツートボタンから、リツート数の表示が消えた。Twitterがどういう理由でこれをやめたのかはわからないが、Twitterでのシェア、リツート数を人気のバロメーターにしていたサイトは多く、多くの憤懣と怨嗟の声がネット上にあがっている。

これらの例は、氷山の一角だ。あまりに強大になったプラットフォームたちの自己中心的な振る舞いに多くの関係者は戸惑い、苦しんでいる(こうみると、Googleが天使に見えてくる人も多いのでは?)。

この状態を逃れるすべはあるか? やはり我々はWebに回帰するべきなのではないか? 営利企業に管理されたプラットフォームではない、民主主義的なプラットフォームは、やはりWebだけなのである…。

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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