2020年東京五輪の自転車競技の一部が、建設コスト削減のため、都内から静岡県伊豆市の既存施設で行われることになったーーと、「ニュースウォッチ9」は伝えた。番組は続けて、武藤敏郎組織委員会事務局長の「これで100億円の節減になる」というコメント、そして地元伊豆市民の歓びの声を紹介。異なる視点を傾けようとはしなかった。

 モノの善し悪しを日本の立場や都合で語ろうとする癖を見た気がした。お金をかけず、既存施設を利用する。これはIOCも推奨する最近の五輪の流れ。それに従ったまでと言えばそれまでだが、外国から五輪を観戦にやってきた人たちには迷惑千万。東京から100キロ以上離れた場所で自転車競技を開催すれば、その日の観戦はそれに限られる。彼らは大変な移動を余儀なくされる。宿泊先の確保にも悩まされる。伊豆市周辺の宿が何とか確保できたとしても、翌日のスタートはそこから。大きな時間のロスを強いられる。1日にできるだけ多くの競技を観戦したいと考えるのが、はるばる五輪観戦にやって来た外国人観光客の心。期間中、彼らが追求しているのは、いかに効率的に動くか、だ。そのニーズに反した今回の会場変更。“おもてなし”の精神に反する決定と言ってもいい。

“おもてなし”を、東京五輪の売りにするのなら、立脚すべきは「外国人観光客ファースト」の視点。テレビの報道番組がまず拾うべきは、歓びに沸く地元民の声ではない。

 番組の制作者にはおそらく、世界的なスポーツイベントに組織の一員として送り込まれたことはあっても、個人として参加した経験がなかったのだろう。それなしに“おもてなし”の精神は培われにくい。実際に海外のスポーツのビッグイベントで、ひとりの観客として苦労した経験がなければ、五輪観戦に訪れる外国人観光客が求めるモノ、すなわち、招き入れる側に求められている具体的な中身を想像することは難しい。とすれば、少なくともスポーツイベントに求められる“おもてなし”について胸を張れる日本人は何人もいないことになる。少ないはずなのに、多くいると感じている。心配すべき点なのに、十分備わった能力だと錯覚している。開催地に選ばれた地元民の歓びを伝え、よかったよかったと次のコーナーに進んでいく日本を代表するニュース番組の姿は、その象徴といえるのかも知れない。

 前にも述べたが“おもてなし”は、自ら外に向けて胸を張るべきモノではない。「ウチのおもてなしは凄いよ」とは言わない。「あの家のおもてなしは凄いらしい」と、周囲の評判として広がっていくモノだ。「日本はホスピタリティの高い国です」と、自分から口にして得意がる姿は奥ゆかしさゼロ。厚顔無恥そのものになる。

 自分たちの立場や都合を気がつけば優先している日本。

 おもてなしロボットも、その一つ。2020年東京五輪では、会場の近くに多言語を操るロボットが外国人観光客をおもてなしすることになるだろう。あるニュース記事にはそう書かれていた。しかし、僕にはそのロボットが外国人観光客にとって、このうえなくありがたい存在にはまるで見えない。

 例えば8万人収容のスタジアムの周辺に、そのロボットがたとえ100体うろついていても、観客が遭遇する率は低い。探しても簡単には見つからない。案内役は、定められた案内所に常時、詰めていなければ、その役は果たせない。動いてしまってはダメなのだ。大きな案内所を設置し、そこに優秀な通訳を配しておけばそれで十分。

 それ以上に重要なのは、案内表示だ。1、2、3やA、B、Cは、世界中の誰にでも通じる記号だ。欧文は正確には発音できなくても、文字を見て“あいうえお化”できる。それが的確な場所に、的確な大きさで記されていれば、それで十分。無言のおもてなしになる。効果は多言語を操るロボットを大きく勝る。だが表示の重要性を認識している日本人は少ない。日本国内の表示レベルは、世界基準を満たしていない。関係者に、外国のスタジアムで、実際にひとりの観客として困った経験をした人が少ないからだ。視察はしても、優雅な団体旅行。おもてなしロボットは、いかにもそうした人たちが考えそうなアイディアだ。東京五輪を名目すれば、予算は下りやすいのだろう。

 しかし、その一方で、自転車競技はコスト削減の名のもとに、会場を伊豆に移されてしまった。

 おもてなしロボットと自転車競技の会場移転。これは世界のファンのニーズに基づいていない、自分たちの都合を優先した結果だ。観戦者ファースト。とりわけ外国人観戦者ファーストの視点には立脚していない。

 話をまとめようといささか強引に繋げば、クラブW杯で来日するバルセロナを引き合いに出したくなる。勝利と娯楽性をクルマの両輪のような関係で追求する姿勢。娯楽性をどのクラブより追求するその在り方は、すべてのサッカーファンに向けられたものだ。自分たちの都合優先ではない。「バルサは世界で二番目に好きなクラブ」という言われ方は、まさにその産物。一番目はそれぞれのファンの地元クラブ。それを除けば世界一。地元民は勝てば喜ぶが、世界のファンは勝つだけでは満足しない。面白いサッカーでないと振り向いてくれない。
 
 地元と世界の両面のニーズに応えようとした結果、それぞれの立場を越えた人気を世界で一番獲得するに至ったバルサ。勝てば官軍とは対極を成すその理念こそ、いまの日本に求められている気質だと僕は思う。