今年9月に世界発表されて、最近では"プロトタイプという名の初期生産車"をメディア露出させるなど、周到な事前キャンペーンを繰り広げてきたトヨタの新型プリウスが、ついに正式発売となった。

 というわけで、価格は従来より額面でおおよそ20万円ほど高くなったが、お世辞ぬきで高級感が大幅アップしたインテリアや、オートブレーキなどのハイテク安全装備の充実を考えると、割高感はない......というか、実質値下げといってもいい。

 最大の注目点である燃費でも、ギリギリで大台(40km/L)か......という大方の予想を、さらに超えた40.8km/Lのカタログ燃費をうたう(これは素直にスゴい!)。もっとも、そのEグレードの内容はリアワイパーまで省略して軽量化した"燃費レコード更新専用グレード"というほかなく、普通の人にはオススメしにくい。この価格にふさわしい内容の主力グレード(FF車)では、燃費は37.2km/Lまで落ちるが、それでも従来の市販車最良燃費車だったトヨタ・アクア(第26回参照)やスズキ・アルトをきっちりとぬいている。

 発売当初は注文が殺到しているようだが、最終的な国内販売台数は先代ほど伸びない可能性は高い。いまは、以前存在しなかったアクアという弟分がいるからだ。そのいっぽうで、アクアがあったからこそ、新型プリウスもここまで高級になれた......ともいえる。

 プリウスにとって燃費は最大のツボではあるが、そこに驚きはあまりなく、新型プリウスの本当のツボは別にある。「燃費日本一」という最低限のノルマ(?)を達成したうえで、前記の高級感も含めて、トータルで"いいクルマ"だということである。

 これは豊田章男トヨタ社長がかかげる「もっといいクルマづくり」という社是に沿ったもの。この種のお題目は表層的にすぎないケースもなくはないが、さすがは創業者一族出身にして、世界でもトップクラスのクルマ好き社長だけに、この社是はピュアでマジなのである。そして、それに従う開発チームも意地とプライドにかけて、いいクルマをつくろうとしているのは彼らに直接インタビューするとヒシヒシと伝わってくる。本当だ。

 新型プリウスはほぼ全身がゼロから新開発されたクルマであって、"TNGA=トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー"と名づけられた骨格構造は、今後5〜10年間のトヨタ主力車種の土台となるべく開発された。

 それは低重心で剛性も高く、そしてダブルウィッシュボーンという複雑で凝ったリアサスペンションを使う。燃費をほとんど悪化させない新機軸の4WDもつくって、最新鋭のリチウムイオンバッテリーを手がけつつ、オーソドックスなニッケル水素バッテリーもあえて新開発した。さらに「カタログ燃費は良くても実燃費はいまいち......とは、もういわせない」と鼻息もあらい。新型プリウスの具体的なツボをいちいちあげたら、本の1〜2冊はすぐに書きあがりそうなほどだ。

 新型プリウスの開発リーダーである豊島浩二氏は「従来のプリウスは走りが良くなかった」、そして「プリウスは日本ではメジャーでも、世界ではまだまだニッチ」とハッキリと認める。「ハイブリッドくさい走りはイヤ」とも断言する。そして、プリウスにとってはいまだに壁の高い欧州でも、真正面から勝負できる走り性能も目指したという。

 冒頭のとおり、現時点ではプロトタイプ(専門用語でいう量産試作車)にチョイ乗りしただけなので、実際に販売される新型プリウスについての断定はできない。ただ、クルマの素質はとても優秀で、基本的な走りのツボをきちんと押さえていることは間違いない。

 プロトタイプ試乗会ではわざわざサーキット走行までメニューに入っていた。プリウスのくせに(失礼!)サーキットでもそこそこカチッと走って、なるほど低重心にへばりつく感覚が濃厚。それでいて、市街地レベルでは"フワピタ"な乗り心地だった。ちなみに、そのときは4WDのほうが乗り心地や手応え感で好印象。非積雪地に住んでいても、値段や用途にあわせて、あえて4WDを考慮する価値もあるかもしれない。

 プリウスは、あの大トヨタの超ビッグネーム商品ゆえに、発売後も賛否両論が巻き起こることは確実。リアルな市場で揉まれれば、改善すべきポイントも出てくるだろう。ただ、新型プリウスはあのトヨタが全身全霊で、世界に誇るべきトヨタとしてつくったことは事実。そして、今後の日本車を、いやおうなく示唆する存在でもある。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune