よく耳にする「扁桃炎」とは、いかなる症状なのか。耳鼻咽喉科クリニックを経営する遠藤雅彦院長は、次のような事例を紹介してくれた。

 会社員Aさんは、食事をするとき喉に違和感があった。次第に食べ物を飲み込むのもつらいほど痛みが増し、同時に発熱もあったが、単なる風邪だと思って市販の風邪薬でなんとかしのいでいた。
 しかし、40度の高熱で起き上がれなくなり、口から水も飲めないほど咽頭痛が激しくなった。そして、大学病院の耳鼻咽喉科で「扁桃炎が重症化して、首の奥まで膿がたまっている」と診断された。
 その結果、緊急手術となり、入院生活は1カ月近くに及んだ。退院後も、Aさんは何度も扁桃炎を繰り返すなど慢性化し、最終的に扁桃の摘出手術を受けることになった。
 「一般に『扁桃腺』と呼ばれている部分は、医学的には『扁桃』というリンパ組織で、口を開けたときに見える口蓋垂の両脇にあります。扁桃炎は風邪や体の疲れ、ストレスなどをきっかけに発症することが多く、扁桃に溶血成連鎖球菌や黄色ブドウ球菌などの細菌が感染し、それが増殖して炎症を起こすものです」(前出・遠藤院長)

 最初に扁桃炎を発症したとき、医者に抗生物質や鎮静剤などを処方してもらい、数日服用すれば症状は改善する。しかし、このときに薬による十分な治療をしないと、厄介な事態を招くことになる。
 扁桃には体を守る免疫細胞が集まっており、鼻や口から細菌やウイルスが侵入するのを防いでいる。病原菌に対する最初の関門として、常に炎症を起こしているが、健康時なら大事に至ることはない。
 ところが、風邪をひいたり、喉が乾燥していたりすると、扁桃の細菌が増殖し、炎症がひどくなって腫れ上がる。その後、扁桃の炎症(扁桃炎)は、扁桃周辺から喉の奥にまで広がり、膿がたまるようになる。
 さらに炎症は、頸部から食道へ、食道から胸へと広がっていく。最初は“ぼや”程度だったものが、次第に大火になっていくというわけだ。
 「扁桃だけの炎症なら、抗生物質で対処できるかもしれませんが、扁桃の周囲にまで炎症が広がり、膿がたまる『扁桃周囲膿瘍』になると、以降は抗生物質の処方に加え、切開して膿を取り除く手術が必要になります。入院は数週間に及ぶこともあり、場合によっては、どんな手もうまくいかずに亡くなられる方もいるのです」(前出・遠藤院長)

 手術後も肉が腐っている患部は、細菌が繁殖して膿がたまりやすい状態になっているので、胸腔内にチューブを置き、圧をかけて胸腔にたまった膿を吸引する、胸腔ドレナージが必要になることがある。
 また、扁桃の炎症が頸部から脊柱、脊髄へ広がることもある。この部分には手足につながる神経が通っているので、手足にマヒが出て寝たきりになる悲惨なケースもある。