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○技術的特異点を迎える2045年

ビジネスシーンの変革というキーワードで我々が思い出すのは、19世紀の産業革命ではないだろうか。多くの農民が賃金労働者に転職し、英国を中心とした周辺国の労働バランスを著しく変化させた。同様の流れは社会情勢に合わせて日本でも発生してきたが、英オックスフォード大学のMichael A. Osborne准教授とCarl Benedikt Frey博士の共著論文「The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation?(2013)」(論文PDF)では、さらに過酷な状況を示している。

「コンピューターの技術革新により、人類が担ってきた多くの業種がなくなる。米国労働省のデータと照らし合わせると、今後10〜20年程度で47パーセント、702の職種が自動化される」と論じている。同様の調査を野村総合研究所も行い、日本の労働人口の49パーセントがコンピューターで代替可能と発表した。抜粋すると学校事務員、行政事務員、スーパーの店員といった職種が目につく。他方で今後も安全な(=代替されることがない)職種として、各種デザイナーなどのクリエイティブな職種や、編集者などのメディア系業種、医師などが並んでいる。

この背景にあるのは、我々が今目にしているICTイノベーションと「2045年問題」である。米国の著名人で現在はGoogleで大脳新皮質のコンピューター化を目指す「Neocortex Simulator」を研究しているRay Kurzweil氏の著書「The Singularity Is Near(2005)」から2045年問題は始まった。

同書ではICTイノベーションの進化が、人類の持つ知識レベルを凌駕するTechnological Singularity(テクノロジカル・シンギュラリティ: 技術的特異点)が21世紀末までに発生すると述べている。その後Kurzweil氏はICTイノベーションの加速を踏まえて、その時期を2045年に改めた。これが2045年問題といわれる起因だ。

すでにAIが人間を凌駕するシーンは多くの方が目にしている。例えばIBMのDeep Blueは1997年5月に当時のチェス世界チャンピオンを倒し、同じくIBMが開発したWatsonは2011年2月に米国のクイズ番組で総合優勝した。その後もWatsonはガン患者のDNA分析を行うことで効果的治療を行う医療分野や、ユーザーの質問に応じて関連する法令条文や回答文を返答するシステムなど法分野にも進出。すでにAIは多くのビジネスシーンに浸透し、巷で"AIのビジネス利用"が叫ばれている理由を理解できるだろう。

当初はSF的空想未来と思われていたTechnological Singularityだったが、問題視しているのはKurzweil氏だけではない。例えばコンピューター科学や人工知能の父と呼ばれる故Alan M. Turing氏は1951年の段階で同様の問題を投げかけていた。近年ではMicrosoftの共同設立者であるBill Gates氏も「当面は問題視する必要はない。だが、数十年後には懸念すべき存在となる」と海外のBBSで回答している。

だが、Gates氏のお膝元であるMSRA(Microsoft Research Asia)の洪小文(Hsiao-Wuen Hon)氏はAIの進化に対して「悲観的になるのはおかしい」と語っていた。洪氏は1950年代の「TIME」を引用し、当時からAIに対する危機感は語られてきたと説明しながら、「あくまでもコンピューターはルーチンワークを処理し、人はアルゴリズムを考える役割を持つ。まだコンピューターが新たなアルゴリズムを生み出すという科学的根拠は登場していない」と現状を説明している。

さらに「制御できないという観点からみれば、飛行機も悪人が使えば危険な道具だが、飛行機もコンピューターも自覚はない。これが楽観的な考え方を持つ理由だ」と、超人間的知性の一翼を担う知能強化(Augmented Intelligence)を促進させる方向性を示した。

このように人によって2045年問題はさまざまな捉え方があるものの、確実なのはAIが成長目まぐるしいビジネス市場であることだ。EY総合研究所は2015年9月にAI分野の国内市場規模について、2015年は3兆7,450億円に留まるが5年後の2020年には23兆638億円、そして15年後の2030年には86兆9,620億円まで拡大するとした研究結果を発表している。30年後の未来を軽率に語ることはできないが、我々のビジネススタイルが大きく変化するのは確実だ。

阿久津良和(Cactus)

(阿久津良和)