大相撲九州場所十日目に、物議を醸す取組がありました。17日に行なわれた白鵬と栃煌山の一番。ここで横綱・白鵬はまさかの立ち合い「猫だまし」での奇襲を仕掛けます。さらに白鵬は、土俵際まですっ飛んでいった栃煌山の振り向きざまに再び猫だましをお見舞い。二度の猫だましという、極めて珍しい戦いで全勝を守ったのです。

これについては「大相撲の最たる魅力とはデブとデブがドーンとぶつかるデブデブドーンである」という主張を展開する身としても、正直なところ不満は残ります。ちゃんとデブデブドーンしなさい、と。ただ、九月場所で横綱・鶴竜が見せた立ち合い変化とは、少し性質の異なるものであることも指摘せざるを得ません。

猫だましとは、主に立ち合いにおいて相手の顔の前で手を打ち鳴らし、相手をひるませる技のこと。しかしながら、これ自体には威力はなく「こけおどし」に過ぎない技です。相手がビックリしてくれれば儲けものですが、もし通じなかったときは両手が上がってガラ空きとなった脇を深く差され、一方的にいい体勢を作られる可能性もあるのです。それゆえか、奇襲としても滅多に見られない、珍しい戦法です。

「猫だまし」と「立ち合い変化」の決定的な違いは、猫だましでは勝負は決まらないということ。

立ち合い変化の場合、相手とのドーンを拒否したうえに、はたき込む動きで一気に勝負を決めようとするのが常。引っ掛かった相手は見せ場なく土俵に前のめりに落ちます。一方で、猫だましは引っ掛かろうが引っ掛かるまいが、それだけで転んだり外に出たりすることはありません。ビックリしたあとで、もう一回改めてドーンとぶつかることになるわけです。

実際に白鵬と栃煌山の取組では、立ち合いで白鵬が猫だましを仕掛け、栃煌山は下を向いたまま土俵際まですっ飛んでいきますが、それで勝負が決まったわけではありません。白鵬にしてみれば、ついでに栃煌山の頭でもはたいてやれば簡単に勝てそうな状況でしたが、そうはしませんでした。白鵬はひと呼吸置いて栃煌山が振り向くのを待つと、改めて二度目の猫だまし。ビクッと動きが固まった栃煌山をつかまえ、そのまま寄り切ったのです。

この動きを見るに、白鵬はドーンを避けたというよりは、「猫だましをやってみたかった」と見るべきでしょう。今場所は隠岐の海との取組で「やぐら投げ」を見せるなど、改めて技術の引き出しの多さを誇示する白鵬。わざわざ栃煌山が振り向くのを待って二度目の猫だましを仕掛けるあたりに、勝ち負けよりも「やってみたい」が上回る様子がうかがえます。一度目はちゃんとビックリしなかったので、もう一回やってやろうという。

確かに思い切ったドーンは見られませんでしたが、物珍しさも含めれば、相撲の魅力を損なうとまでは言い難い内容。そもそも「二度もこけおどしをしてくれたのにコロッと引っ掛かる」栃煌山にも問題があります。栃煌山がこけおどしなどものともせずドーンと行っていれば、白鵬に冷や汗をかかせることもできたわけですから。デブデブドーン論者としても、全力で白鵬に苦言を呈すのは難しい一番でした。白鵬も「してやったり」と思っていることでしょう。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)