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●「リア充」とは、相手をバカにしている言葉
大学2年生のときに、『桐島、部活やめるってよ』(集英社)で小説家デビュー。2012年には戦後史上最年少で直木賞を受賞した朝井リョウさん。就職、兼業作家時代を経て会社を辞め、小説に専念するようになったのが2015年の話だ。最新作『世にも奇妙な君物語』(講談社/1,400円+税)発売に合わせ、現在の朝井さんについて伺った。

○非リアを驚かせたい

――TVドラマ『世にも奇妙な物語』のファンで、今回の本を書かれたと伺いました

もともと『世にも奇妙な物語』が好きだったのですが、直木賞をいただいた直後だと、なかなかエンタテイメント性の強い話を書く機会がなくて。『世にも奇妙な物語』のような、メッセージというよりは起承転結が大事、といった話をそろそろ書きたいと思っていました。

――テーマをえらんだポイントについて教えて下さい

『世にも奇妙な物語』のディレクターの方とお話する機会があり、採用されやすいのは「現代風刺とどんでん返しがセットになったもの」だときいたので、そこは意識しましたね。

――『リア充裁判』というお話が入っていますが、朝井さんご自身もリア充を自称されています

リア充だと思います。非リア充の方が創作に向いているとか、一切思っていません。本を書いているくせに、「読書好き」が高尚な趣味に思われることに腹が立つんですよね。けっこう、読書好きを驚かせたい気持ちで書いたところも、あるかもしれないですね。読書好きでコミュニケーションが苦手で、と言われたら、「いや、それを個性としてないで、ちゃんと人と話せるようにしなよ」と思うので……。

――"非リア"なことで、逆に上から来る人に一矢報いたいといった気持ちが……

そうです!(笑) 苦手なのはわかるけど、ちゃんと振る舞いなよ、と思うじゃないですか。

○リア充とは?

――朝井さんのなかでのリア充の定義はありますか?

世間で言う「リア充」は、「自分よりも考えが浅い人」を指していると思っています。リア充って他称なんですよ、今や。もともとは、友達が多い人、恋人がいる人という意味だったと思うんですが、今はバーベキューをする人、スポーツバーでサッカー観戦をする人とかを、「自分より思慮深くない」という意味で「リア充」と括っている人が多い気がします。

そういった「自分は思慮深い」と思っている人を、「まさか」というところから驚かせたい気持ちはありました。僕自身、ストリートダンスサークルに所属して、クラブでダンスバトルをしながらも小説家デビューした、というのもその一環です。作家を夢見る早稲田の読書家たちが、一番脅かされたくなかっただろう人に脅かされている顔を見たかった。そういう気持ちが、直木賞をいただいても全然薄まらなかったことに絶望しています(笑)。

――朝井さんと同年代の方、特に早稲田生には「朝井リョウコンプレックス」があるらしいです

超嬉しいです。立ち直らせたくない! 一生!

……今、ただただ悪い人になってますね(笑)。僕はハロプロが好きなんですが、何が好きかというと、つんく♂さんがファンを脅かしてくるところなんです。すごく性欲のある女の子の歌を書いていたりとか。「テレビで見た肉が食べたいよう」という歌詞がある(Berryz工房『大人にはなりたくない 早く大人になりたい』)んですけど、怖いじゃないですか、そんな女の子。肉って、何の肉かもわからないんですよ! せめてハンバーグとかであってほしい。そういう歌詞にビンビンきていた少年時代だったので、脅かしたい病みたいなのはあるかもしれないですね。つんく♂さんの影響です。

――朝井さんはハロプロファンで有名ですが、きっかけはASAYANだったそうですね

TVでモーニング娘。の映像を見ていたら、なっち(安倍なつみ)が泣いていて。カメラが寄って行って「なんで泣いてるの」ときいたら、あやっぺ(石黒彩)がほめられてることに対して泣いてるんですよ。「一文字でも私のパートが減るかもしれない」と泣いている。それを見て、「超こえ〜、だけどかっこいい! 我欲最高!」と思ったことからはじまりました。

――「好きなアイドルに仲良くしていてほしい」といった気持ちは

全然思わないですね。ギスギスしていてほしいとも思わないですが、別に仲良くしてくれなくてもいいです。仕事仲間で気の合わない人がいるのは普通の現象ですからね。

●朝井リョウが30歳までにやりたいこと
○「会社に100%かけられない」罪悪感

――小説家デビューしたあとに、就職されていますが、何かそのときに身についた力はありますか?

会社に入ってからはとにかく時間がなかったので、最低限のことしか考えていなかったかもしれないですね。事務作業を片付けるスピードは身につきました、多分。前代未聞なくらい早く帰る新入社員だったと思います……(笑)。入社する前に姉に「入社の一カ月でどういう人間か見られるから、そこで無理したらだめだよ。はじめの一カ月でライフスタイルを理解してもらったらいいよ」と言われたんです。的確なアドバイスですよね。

――会社を辞めるときは、どんな気持ちで決断されたのですか?

2年目ごろから、心身ともに100%を会社に注ぐことができていないことに罪悪感を抱き始めていました。いよいよ4年目になれば部下もできるし、同期も、土日も会社生活にプラスになるようにゴルフなどに時間を使ってるのを見て、申し訳なさも募りました。

――小説に専念したいというよりも、会社に専念できないことが大きかったのでしょうか

会社のローテーション制度があって、ここで辞めないと次のタイミングで辞めづらいとか、小説の方でやりたい仕事があったとか、色々なタイミングが重なったことが一番の理由ですが、申し訳なさはありましたね。周りはそんな私のことを受け止めてくれる方々ばかりで、その優しさに甘えていいのか、と。会社の仕事は本当に楽しかったです。

デビューしたてのとき、先輩の作家さんに「会社勤め経験のない人が書いた会社員はスパイみたいだ」と言われたことがあります。実際に会社に入ってみると、けっこうみんな普通にコンビニ行ったりもしているし、毎日プレゼンしているわけじゃないし、決して「着回しコーデ2週間」みたいな生活じゃない(笑)。それがわかったのも良かったですね。

――もし小説で成功していなかったら、会社を辞めていなかったですか?

成功云々よりも、挑戦したい仕事があったことが大きかったですね。もともと会社を辞めるきっかけになった大きな仕事は、色々なトラブルが重なって消えてしまったんですが……今は別の大きな仕事に向けて準備をしています。結局、神様が色々な状態をセッティングしてくれたと思うようにしています。大きな仕事を先に誰かにやられるのも嫌でしたし。

――『ASAYAN』のなっちみたいですね

あやっぺにパートをとられるかもしれないみたいな(笑)。今から3年がかりとかで大長編を書いたとしても、まだ20代なんですよね。そう思ったら、いろいろ挑戦してみるべきだとも思いました。

○具体的な目標をたてるタイプ

――年齢の話が出ましたが、30歳までにやりたいことはありますか

すっごい具体的なことを言うと、本屋大賞ですね。30歳でちょうどデビュー10周年なので、それまでに本屋大賞をとって、単行本で実売100万部達成が具体的な目標です。たくさんの人に読まれていたい、とかじゃなくて、明確な目標(笑)。達成しなかった場合も、明確にばれるという(笑)。僕の故郷の岐阜にまで届くニュースって、本屋大賞か直木賞くらいしかないんですよ。だからそれは本当にやりたいと思います。

――目標意識が強いんでしょうか?

けっこう目標を立てて考えるタイプです。デビューも19歳までにと思っていましたし、デビューしてからも「学生時代に5冊本を出す」という目標がありました。よく「若いうちにデビューすると、そのあと本を出せない」と言われていたので、「じゃあ出してやろう」と考えて達成したんです。他にはいないだろうと思っていたら、乙一さんがたくさん出していました(笑)。やっぱり何もないとさぼってしまうので、さぼらないために目標を立てているのかもしれません。

――ラジオやTVにも出演されていると思いますが、どんな方が多いですか? 普通の会社の方と違うところなどは

パーソナリティーがわかるまで長期的に関わることがなかなかないので、一概には言えないですが、基本的に自分の好きなことを仕事にしている人が多いからか、意欲がすごいですよね。仕事って、性善説の部分が多いと思っていて……たとえば商品についても、「こういうことをしたら売れると思うんです」といった工夫は、その人次第だと思うんです。その工夫ってなくてもいいわけだし、最悪前年度の業務を繰り返すだけでも会社ってまわったりするわけですけど、TVやラジオや出版の世界には、強制されていないのに努力する人が多いのかもしれない。そういう場所にいられるのは嬉しいですね。

○ネットニュースを題材にした話も

――『世にも奇妙な君物語』では、ネットニュースを題材にした話(『13.5文字しか集中して読めな』)もありました

はじめはもっとシビアで、「13.5文字以上の会話ができなくなっている世界」の話にしようかと思ってました。書いているうちに少し変わってきましたが、みんないろいろ考えるところはあるだろうな、と思いながら書きました。

――俳優の溝端淳平さんがモデルになった話(『脇役バトルロワイアル』)についてはいかがですか

以前対談をさせていただいたときに、溝端さんに向いている話をプレゼンして、そのうちのひとつが最後の話です。これは面白いと言ってくれたので、たぶん大丈夫と思うんですが……(笑)。本人にも送っています。

今回の本は私を知らない人も読みやすくて、今まで出した本の中で一番気軽に手にとっていただきやすい本だと思います。帰省中とか、移動中とか、寝る前とか、ちょっとした読み物に触れたいときにぴったり、のはずです! だから、すべての人におすすめしたいですね。

――溝端さんファンにもおすすめですね

どう思うのかな、怒るのかな(笑)。ぜひ、溝端くんファンに読んで欲しいですね。すべての人、プラス溝端くんファンに(笑)。

『世にも奇妙な君物語』(講談社/1,400円+税)
今年二十五周年を迎えたテレビドラマ、「世にも奇妙な物語」の大ファンである、直木賞作家・朝井リョウ。映像化を夢見て原作を書き下ろした短編、五編を収録

(目黒せつこ)