タイガー・ウッズのホスト大会で勝利したバッバ・ワトソン(GettyImages)

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 “タイガー・ウッズの大会”、ヒーロー・ワールド・チャレンジは、ウッズの引退示唆とも受け取れる発言で開幕前は落ち着かない様子だったが、この人、バッバ・ワトソンも開幕前からやけに落ち着かなかった。だが、終わってみれば、ドタバタ劇をくぐり抜けてきたそのワトソンがチャンピオンに輝いているではないか。いやいや、ゴルフは本当に何が起こるかわからないから面白い。
日本でもプレーを披露したバッバ・ワトソン
 そもそもワトソンは、この大会に出るつもりも出る予定もなかった。世界のトップ5に数えられる選手ゆえ、もちろん出場資格は満たしていたが、米ツアーのプレーオフシリーズ終了後、アジアへの遠征等が続いたため、「家族とゆっくり過ごしたい」という理由で今大会の出場をあらかじめ辞退していた。
 だが、11月半ばに第2子が生まれたジェイソン・デイが、その直後にヒーロー出場を辞退すると、逆にワトソンは「やっぱりヒーローに出る。家族と一緒に過ごす場所を自宅ではなく(大会開催地の)バハマに変えればいい」と思い立った。
 一度は出場辞退(WD)した身ゆえ、ワトソンは出場の意志を示しても、まずは補欠扱いになった。だが、出場できるはずという確信を得て、大慌てでバハマ行きの支度に取り掛かった。
 次なる問題は、養子縁組によってワトソン家の第2子になった娘のダコタちゃんのパスポートが未取得だったこと。ワトソンの妻アンジーは、これまた大慌てで手続きに奔走し、ぎりぎりで長男カレブくんを含めた家族4人全員がバハマに旅立てる準備が整った。
 しかし、強風が吹けば、かなりの難コースと化すアルバニーGCで水曜のプロアマ戦をプレーしたワトソンは、いきなり自信を失い、キャディに「オレは、ここで戦えるとは思えない」と弱音を吐いたそうだ。
 急な予定変更と家族のパスポート問題。不慣れな難コースと強風。心が乱される要素はすでに勢揃いしていたが、さらなる問題は、肝心のスイングもショットも、かなり狂っていたこと。とりわけ“バッバ・カット”と呼ばれる最も得意なカットショットが乱れがちで、フェアウエイを外す場面が目立った。
 しかし、これだけ悪条件が揃ってしまっていたというのに、ワトソンはいつも以上の集中力を発揮したのだ。
 「自分のショットに集中した。フェアウエイやグリーンを外したときはトリプルボギーやダブルボギーを叩かないことに集中した。ミスしたら無理をしないことに集中した。そして、パットを決めた」
 最終日を2位に2打差で迎えたワトソンは、出だしの7ホールで4バーディを奪い、最後は3打差をつけ、通算25アンダーで米ツアー8勝目、世界9勝目を達成。
 ワトソンはエモーショナルな激昂型で、ミスすれば怒声を上げ、マナーが悪いと批判されること、しばしば。だが、優勝争いの真っ只中に入ると、彼はむしろ無口で静かなプレーぶりになる。ミスしてもグッドショットを打ってもポーカーフェース。その「静」の度合いは、彼の集中力や忍耐の度合いと比例している。
 そして、勝利を決する決め手の一打を放ったとき、あるいはウイニングパットを沈めたとき、勝利を確実にしたその瞬間、抑えてきた感情を解き放ち、「静」が「動」に変わる。
 ドタバタ劇を経て挙げた米ツアー通算8勝目、世界通算9勝目。大慌てした甲斐は大いにあったと言えそうだ。「僕の人生における“素晴らしい1週間”が、これで9週間になった。自分のゴルフを毎年少しずつ向上できたら、いいなと思う」
 勝利を挙げたときのワトソン自身も、勝つたびに向上し、少しずつ、より良きゴルファー、より良きパパになっているなと思う。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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