2015年のテニスシーズンはほぼ終了。今年も世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチとセリーナ・ウィリアムズの強さが際立った。とりわけセリーナ・ウィリアムズは、年間グランドスラムをかけた全米オープンこそ準決勝で敗退してしまったが、4大大会33連勝という成績は驚異的である。

 彼女の強さの源泉は、何といっても2本の腕から繰り出される力強いショット。そのパワーを裏付けるのが、左腕の腕時計だ。

 ここ数年で、試合中に腕時計を着けるアスリートが急増しているという話は以前にも書いてきた。しかし、ふつうアスリートが求める時計というのは、軽くて着け心地に優れ、プレーを邪魔しないもの。それゆえ専用設計されたモデルや、特別な用途のために作られたスポーツウォッチを着用するのがセオリーだ。

 ところが、セリーナ・ウィリアムズが着用しているのは、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク オフショア・クオーツ」。これは世界4大時計時計ブランドの1つに挙げられる名門オーデマ ピゲのラグジュアリースポーツウォッチであり、世の女性たちからの人気も高い傑作だが、けっして競技用の時計として生まれたわけではない。

 気になることは他にもある。実はこのモデル、ピンクゴールド製のケースを使い、ベゼルにはダイヤモンドもセッティングしている。つまり豪華ヨットのデッキでシャンパンを楽しむ貴婦人に似合う時計であり、どう間違っても、テニスの試合中に着けるための時計として作られてはいないのだ。

 しかも、ピンクゴールドは非常に比重の大きい金属だ。通常、アスリートが競技中に着用する腕時計は、チタンやカーボンなどの軽くて頑強なケースを用いるのだが、セリーナ・ウィリアムズは重さを気にしない。ピンクゴールドケースの重みなど、彼女のパワーの前には少しもデメリットにはならないのである。

 ちなみに、オーデマ ピゲでは、アンバサダーに対して「どの時計を着けて欲しい」という提案はしていない。つまり、ピンクゴールドの「ロイヤル オーク オフショア・クオーツ」はセリーナ自身が選んだということになる。自分のパワーに対して絶対の自信を持っていなければ、こういう選択はしないだろう。

 少々古い話で恐縮だが、かつてボクシング漫画の傑作『リングにかけろ』に、鉛入りのリストバンド"パワーリスト"を腕に着けてトレーニングし、試合本番ではずすことでパワフルなパンチを打つというシーンがあった。セリーナの「ロイヤル オーク オフショア・クオーツ」は、まるで「パワーリスト」のようだ。この時計を着けていることで、多少なりとも相手にハンデを与えているのでは......そうとしか思えない!?

【profile】
セリーナ・ウィリアムズ
1981年アメリカ・ミシガン州生まれ。14歳でプロに転向し、17歳で全米オープン優勝。4大大会をすべて制する"キャリア・グランドスラム"を21歳で達成する。一時、不調な時期もあったが、復活し、ダブルスでもキャリア・グランドスラムを達成。オリンピックの金メダルも4つ獲得している。現在、WTA世界ランキング1位。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo