「らくがきTV」や「まごチャンネル」を生み出したキーパーソン達が議論、「ハッカソンのその先」とは?

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ハッカソンのその先にあるものはなにか。オープンイノーベーションの手法として2015年も多くのハッカソンが開催されてきました。ところが、そうしたイノベーティブなチャレンジを形にする、事業につなげるためには何が必要なのかは判然としません。

そんな問題意識を元に11月24日、パネルディスカッション「ハッカソンのその先へ。組織の枠を越えた感動プロダクトの作り方」が行われました。ハッカソンの成果物として「らくがきTV」をリリースした中村正敏(なかむら・まさとし)さん(西日本電信電話株式会社 ビジネスデザイン部アライアンスプロデューサー担当課長)、先日Makuakeでのクラウドファンディングを成立させた「まごチャンネル」の梶原健司(かじわら・けんじ)さん(株式会社チカク 代表取締役社長)、関治之(せき・はるゆき)さん(株式会社HackCamp 代表取締役社長)、市谷聡啓(いちたに・としひろ)さん(ギルドワークス株式会社 代表取締役)によるディスカッションの模様を紹介します。モデレーターはMakuakeの北原成憲さんです。

「まごチャンネル」に見る、プロダクトに落とし込むポイント

何か新しいものを生み出したいということで、いまハッカソンに取り組む企業が増えています。一方、個人でもクラウドファンディングを活用して事業を立ち上げるケースも増えてきました。しかし、こうして活用できる手法やインフラが増えてきたからといって、すぐにすばらしいプロダクトが生まれるかというと、決してそうではありません。

何が壁になって、何がその解決のポイントになるのでしょうか。

まごチャンネルはテレビに受信ボックスをつなぐだけで、スマホで撮影した写真や動画を配信できるというもの。これを使えば、遠く離れた実家の親に子どもの写真をその都度、簡単に共有することができます。9月14日にMakuakeにて先行受付を開始し、1月半で目標金額に対し571%の資金調達に成功という結果を出し、大きく注目されているプロダクトです(サービス開始は2016年春の予定)。

実際、まごチャンネルは、ターゲットは「離れて暮らす実家の親に孫の写真や動画を届けたいパパ・ママ」、しかし、実際に使うのは「実家の親(おじいさん・おばあさん)」というちょっと厄介なコンセプトをわかりやすく形にしています。

受信ボックス側に通信回線を入れ、自動的にインターネットに接続するようにしたことで、ITにそれほど詳しくないという人にもすぐに扱えるけるようにしたという仕様もそうですし、重要なポイントの1つはそのブレのなさにあるといえます。誰が使うのか、誰がこのプロダクトにお金を払うか、お金を払いたいと思うポイントはどこか、プロダクトを実際に使う人の手に届けるために徹底的に考えられています。

例えばば、サイトやMakuakeのプロジェクトページのテイストは完全に「ママ」を意識したといいます。周囲からは「もっと技術スペックを書いて」という声もあったそうですが、あえて「ママ向け」のアプローチを取っています。これはMakuakeの北原さんも非常に勉強になったといいます。

北原:サービスを実際に使うのはシニア層、でも、自分のお父さんにプレゼントしたいと思うような層が反応されていた。親孝行のためのプレゼントというのがデータからも見えていて、そういうアプローチの仕方がこのプロダクトはできるんだ、と。クラウドファンディングはどうしてもネット上のサービスなので、シニア層にリーチするのはなかなかこれからというところなんですが、そういうアプローチの仕方があるということは勉強になったところです。

北原成憲さん(MAKUAKE)

このブレのなさは、梶原さんの中で本当にこれが「個人として解決したい課題」で、それに対し、徹底してユーザーインタビュー、仮説検証を繰り返してきたからこそ、なのでしょう。梶原さんはApple Japanを退職後、何をやるか試行錯誤しながらも、当初はどこか自意識過剰になっている部分があったといいます。

梶原:イノベーティブでクールなものを作らないといけないんじゃないのって勝手に思って、いろいろ試行錯誤していたんですけど、全然思いつかなかったんですね。カッコいいことは向いてないなと、1年くらいして気づいて。そのときにふと、まわりからどう思われようと、もしかしたらお金になるかわからないけど、一度そういうのを全部置いておいて、個人として解決したい課題は何なのか、カッコつけずに思ったのがキッカケです。

梶原健司さん(チカク)

そして、明白になった「やりたいこと」を形にするために、仲間を集めていきました。ただ、根本的な部分で共感してもらえるメンバーを見つけるのは大変だったといいます。今回の場合、比較的に女性のほうが共感が得られやすいプロダクトです。ですが、女性のエンジニアはそもそも数が少なく、一方、男性のエンジニアで子持ちの方は「子持ち」がリクスを取れない理由になってしまい、共感を得られてもなかなか踏み込んでもらうことが難しかったのです。

そこで、梶原さんはアプリ開発の部分をGulidWorksに協力してもらうことで形にします。結果、ある程度ものができてくると、ここまでできているんならいけるじゃないかと興味を持ってくれる人が増えていったと言います。このあたりはハッカソン、ラピッドプロトタイピングが新しい製品開発の手法として注目されているのと通じるものがあります。

ハッカソンのモチベーションはどうしたら維持できるのか?

一方、ハッカソンでは確かにプロトタイプとしてアイデアを形にすることができますが、その後のモチベーションを維持する難しさがあります。特に、企業主催で何か新しいものを作り出しましょうというハッカソンの際、主催側はハッカソン後も参加したチームに開発を続けてもらいたいと期待しますが、なかなか進まないということがあります。

NTT西日本は、2014年10月にTBSと共催で「TV HACK DAY」を開催し、そこで生まれたアプリ「らくがきTV」(光BOX+のアプリケーションとして使用できるサービスで、スマホやタブレット等に保存してある画像や動画に塗り絵やスタンプなどのらくがきができるアプリ)を2015年10月にリリースしています。ざっくり言うと、大手通信会社がテレビ局と組んでハッカソンをやって、1年でアプリをリリースした(結果を出した)ということになります。

中村さん自身のモチベーションは「それをやらないと来年やらせてもらえないという危機感しかない」ということだったそうですが、一番は参加者の気持ちだといいます。

中村:普通ハッカソンって終わると、「終わったー!打ち上げだ」という感じで終わるんですが、僕はマイルストーンに過ぎないと、その後が大事だと考えています。一番大事なのは参加者の気持ち。彼らの気持ちがなければ、私もここまでになりません。定期的にFacebookのメッセンジャーを使ったり、お会いしたり、ミーティングを重ねています。また、私たちが本気で考えているだってことを理解してもらうことが大事なんです。

中村正敏さん(NTT西日本)

ハッカソン終了後、中村さん自身がグループのシステム会社の人を連れて、該当チームのエンジニアのところ(東京でしたが)に通ったといいます。

アプリのリリース自体は、OEMとすることで社内のチェックを最低限におさえたそうです。自社製にすることにこだわらない、形にしやすい方法を探り、世の中に出す、こうした考え方は非常に効率的です。こうした成功事例は次にハッカソンに参加する側のモチベーションにもつながりますし、企業側にもそうでしょう。北原さんはクラウドファンディングを利用する場合も同じだといいます。

北原:クラウドファンディングをするにしても、実行者を誰にするかというところって企業から相談を受けることがあります。開発会社を前に出して、まずは裏側のサポートとしてやっているんですよといいうことで広報的なハードルを下げる。まずは取り組んで成功事例を作ってみる。成功事例が1つ生まれれば、オープンイノベーションへの取り組みが加速していくというところはあるので。企業の体質に合わせて外への見せ方であったり、座組みをうまく活用する。そして、まずは成功事例を重ねていくというところが重要なのではないかと思います。

関さんからは運営側として、アプローチとしてハッカソンが終わった後にもう一度集まるような仕掛けやネットワーク作り、あるいは主催側の企業の中で説得できるような仕組みが必要なのではないかという意見もありました。また、北原さんからは、ハッカソンでアイデアが生まれた後にこれをどう事業化していくのかというノウハウはまた別ものになってくる、こうしたマッチングが必要なのではないかという提起も出ました。

会場からも次のハッカソンへの課題を問う声が

会場には、ハッカソンのような共創イベントを自社内(自組織内)に活用していきたいという人も多く、活発な質疑応答が行われました。

例えば、審査基準について。技術ベース、市場べース、プロダクトベース、ビジネスベースというように、さまざまな評価の軸があります。

関:まず主催者側がどんなアイデアを評価したいかに依存しますが、最近は、課題解決みたいなテーマの場合は審査員っているのかな......?と思っています。それよりは当事者を呼んできて、評価してもらう、票を入れてもらうほうがエラい人が出てきて審査するよりもいいんじゃないかなと思います。そのほうがプロダクトにとって最初のユーザーテストにもなるし、何も知らない人よりも課題を持っている当事者、現場の人たちがやるというのが良いと思います。

関治之さん(HackCamp)

あるいは知財の問題も、今後、事業化に向けたハッカソンへ進んでいく場合、重要なポイントになります。技術的な特許だけでなく、アイデアの扱いは特に難しいといえます。「その場に出たものは公知とする」、企業によってはそこで社内的な抵抗を受けてしまったりします。それについては、事前に規約などを示し、参加者に理解してもらうことだと関さん。ただ、その規約が企業側のリスクを担保することが目的にしている場合は理解してもらえないので、注意が必要とも言います。

また、市民が参加するコミュニティでハッカソンを行う場合についての質問もありました。製品開発とは異なり、何をゴールにするか、またモチベーションのキープが難しいところがあります。これには関さんからこんな意見がありました。

関:企業が主催であればアイデアを引き取るとか、ある程度、出口を作りやすいんですが、市民で集まるという場合は難しいところがある。code forの場合、ハッカソンをやるときに、まず人を集めるのが目的のハッカソンのときには、プロダクトよりも次の会への誘導を考えるし、ある程度コミュニティがある前提であれば、プロジェクト化しましょう、プロジェクト化したものはみんなで定期的にウォッチしていきましょうという形で動いています。定期的な会に参加する人が集まっていれば、中にはさまざまなスキルの人がいて、引き続き検討することができます。

これは企業主催の場合も一緒ですが、ハッカソンに来た人たちだけで最初から最後まで完結しようとするとうまくいかないことが多いんです。参加者のチームはインスタントに作られるのでモチベーションもバラバラで、たいていそのチームだけで最後までいくというのはない。その中の一人だけやる気がある人がいれば、会社のリソース、システム会社のリソースをうまく使ったり、その人と他のリソースをうまくくっつけることを考えたほうがいい。地域の市民で集まるという場合だと、地元の会社にこういうアイデアがあるんですけどとつなぐとか、チーミングを検討するほうがいいのかなと思います。

最後に、関さんは参加者に求める資質として「スキルよりも思いが大事だ」と言います。これは、今回のディスカッションの要所要所で出てきたキーワードでもあります。根性論という単純なことではなく、イノベーションを起こす要因に人と人のつながりがあるということを再確認したディスカッションでした。

大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。