米国の玩具メーカーの名門、マテルの衰退がウォール街で話題になっている。マテルはバービー人形で知られるが、このほど発表した7〜9月期決算は散々な結果で、バービー部門の売り上げが8四半期連続で減少した。マテルの株価は10月初めに2010年以来の安値を更新し、足元では減配も噂されている。

 バービー人形の部門はマテルの売り上げの4分の1程度を占め、他の商品に比べると利益率も高い。主力ビジネスの後退は衝撃的で、マテルでは今年初めにCEO(最高経営責任者)が更迭されてしまった。
 バービー人形は1959年に販売開始された。米国では、日本における「ドラえもん」のような国民的なキャラクターである。この人気凋落は、なぜなのか?
 スタイル抜群のバービー人形だが、そのブランドイメージは家庭的だ。台所や着せ替え衣料とセットで遊ぶように設計されている。バービー人形は、ディズニーが手がけた人気アニメ映画シリーズ『トイ・ストーリー』にも登場しているが、メソメソ泣くような弱さが目立つキャラクターだった。要するに、古き女性像を体現しているブランドイメージが、最近の女の子にはもう受けないのだ。
 ウォール街のアナリストによると、「バービーの売り上げ減は、米国のフェミニズムが進化を遂げている証拠」だという。「早期是正措置が主眼だった20世紀後半の男女同権運動に対して、21世紀型の切り口はリーダーシップの獲得と若年化であり、かわいいだけではもう売れない」(同)という。確かに、今年の米国では「女性の社会的成功」が大きな潮流だ。来年の大統領選挙では民主党、共和党の両方で女性が有力候補だし、ニューヨークやワシントンDCといった主要都市では、「医療分野における女性登用」「男女平等の職場作りをテーマにした会合が方々で開かれている。
 たとえば、ニューヨークの教育界で目下注目されているのが、「STEM」と呼ばれる科学・技術・エンジニアリング・数学といった理数系分野における女性教育の強化だ。STEM分野における女性の比率が低いためで、マンハッタンの小中学校では女の子へのSTEM教育を学生勧誘の売り文句にしている。
 ちなみに、女の子の売れ筋玩具といえば、ここ数年来、人気があるのが、同じくディズニーが手がけたアニメ映画『アナと雪の女王』の人形だった。アナと雪の女王は運命に引き裂かれた王家の姉妹を描いた筋書きなのだが、姉エルサも妹アナも「たくましさ」を前面に打ち出している。
 アナは、逃げ出したエルサを連れ戻すために冒険する。主題歌の「レット・イット・ゴーは、エリサが幼いころからの抑圧を解放して魔法を使える喜びを歌っている。
 アナの「勇気」とエルサの「自由」。どれも、今風の女の子が好みそうなテーマだ。
 実は、マテルはこれまで、アナと雪の女王の人形を販売していたが、来年から玩具業界のライバルである米国のハズブロが販売権を取得する。アナと雪の女王関連の販売減はマテルにとって頭が痛い。
 アナと雪の女王関連商品の販売権移転が織り込まれた1年前から、マテルの株価は、ハズブロを50〜60%ほどアンダーパフォームしている。
「どうせ玩具」と言って馬鹿にするなかれ。その売れ行きは世相を反映しているのだ。

Hajime Matsuura
松浦 肇(まつうら・はじめ)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員
日本経済新聞記者などを
経て現職。
ペンシルベニア大学ウォートン校、
コロンビア大学法科大学院、
同ジャーナリズム・
スクールにて
修士号を取得。
ニューヨーク金融
記者協会(NYFWA)理事。



※この記事は「ネットマネー2016年1月号」に掲載されたものです。