『「デジタル遺品」が危ない そのパソコン遺して逝けますか?』(ポプラ社)

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「終活」という言葉が使われるようになって久しい。葬儀の執り行い方や、財産分与の方法について、後々遺族が困らないようきちんと自分の意思を書き記しておくことが社会全体で推奨されている。

 そんな状況下、最近、故人のPCやスマートフォンに残されていたデータをめぐりトラブルが続出しているらしい。確かに、これら「デジタル遺品」のデータについては本人にしか分からないようブラックボックス化されているケースも多い。日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事にして終活カウンセラーでもある萩原栄幸氏は、著書『「デジタル遺品」が危ない そのパソコン遺して逝けますか?』(ポプラ社)のなかで、自身が出会った実例をあげながら警鐘を鳴らしている。「デジタル遺品」についての取り扱いを誤ってしまったがために、自分の死後、家族を不幸のどん底に陥れてしまうかもしれないのだ。

 萩原氏がまず紹介するのは、「愛妻家」で知られた夫(仮名:徹)の死後、知らない方が幸せだった事実を「デジタル遺品」から知ってしまったエピソードだ。

 一ヵ月に一度は近場の温泉へ、そして半年に一度は遠くへ旅行に行くほど仲の良かった夫婦。しかし、夫は急な心臓発作で他界。遺品の整理も手につかぬまま時が経ち、萩原氏に遺品整理の話が来たのだという。というのも、奥さん(仮名:雅子)は大の機械オンチ。でも、パソコンのなかに入っているはずの旅行の写真を取り出したい。そこで萩原氏は「デジタル遺品」となったPCを開くことになった。

 すると、そこには怪しげなフォルダが......。そのタイトルは「シークレット」。

〈それにしても、よりによって「シークレット」という名前をつけるなんて。徹さんは、自分以外にパソコンを操作する人はいないからと油断したのでしょうか。
 フォルダを開くと、そこには「写真」と「旅先データ」というファイルがありました。「自分でやってみます」と雅子さんがまず「写真」のファイルを開いてみると......見知らぬ女性が写っている写真が何枚も、中には徹さんがその女性の肩を抱いて一緒に写っているものもあったのです。後ろには、何やら見覚えのある風景が......。
「何なの、これは! 私と一緒に行った場所じゃないの!」
 たしかに、先ほど見た雅子さんとの旅行写真とほぼ同じ。なぜなのか、その理由は「旅先データ」ファイルを開くとすぐにわかりました。そこには、雅子さんと一緒に行った時に得た、旅先の情報が書かれていたのです。たとえば、「○○温泉。泉質は硫酸塩泉で、美肌効果あり。R美には、その説明を忘れずにする」「『▲▲そば店』は店の雰囲気がいまいち。『○○そば』のほうが味もいいらしいから、R美はそちらに連れていこう」というように。
 そう、徹さんにとっては雅子さんとの旅は、不倫相手のR美さんと旅行するための「下見」だったのです〉

 デジタル遺品の管理が杜撰だったせいで、隠し通すべきだった秘密がバレてしまった瞬間である。他にも本書では、亡き夫の行っていたFXの取引を停止しなかったばかりに多額の負債を抱えたケース、故人のブログを放置していたら何者かに乗っ取られ故人の友人が悪質アフィリエイトの被害に遭ったケース、放置した故人のPCがウイルス感染して会社の情報が漏洩したケースなどが紹介されている。

 そこまで大きなトラブルでなくとも、自動引き落としで登録している有料サイトやネットバンキングなど、存在を知らなければ自分の死後遺族に負担をかけてしまう情報がPCのなかにはたくさんある。

 では、どうすれば良いのか? そのためには、まず「エンディング・ノート」をきちんと残すことである。

「エンディング・ノート」とは、「終活」においてしばしば言及される、相続・葬儀・延命措置を望むか否かなどを書き記すノートのこと。遺言のような正式な文書ではないが、遺族の負担を減らすために書き残すよう推奨されている。

 この「エンディング・ノート」に、普段使っているサイトのIDやパスワード、扱っているネットバンキング・株・証券などの情報も遺族のために整理して残しておく。萩原氏は〈私は、成人を過ぎたらぜひエンディング・ノートを書いておくことを、おすすめしています〉と綴っている。

 また、もう一つ必要なのが「墓場まで持っていく」秘密の処理だ。前述した不倫関係もそうだし、そんな大きな秘密はなくとも、日記や、あまり他人に見られたくないデータ(エロ動画など)も「墓場まで持っていく」情報に含まれるだろう。

 そこで萩原氏がオススメしているのが、一定期間パソコンを起動していない場合に遺しておきたくない書類を自動削除する機能を備えたソフトを入れること。

 また、あらかじめ「家族に見られたくないファイル」を指定しておけば、自分の死後、デスクトップ上にある「遺言」を誰かがクリックした瞬間自動的にそれらが削除される機能をもつ、いわゆる「遺言ソフト」を入れることも効果的であると言う。

 人生、「一寸先は闇」だ。きちんと準備をしたうえで旅立てればいいが、必ずしもそうとは限らない。愛する家族や友人を守るため、「デジタル遺品」の取り扱いについて考え直してみてはいかがだろうか?
(田中 教)