「閉塞性動脈硬化症」(ASO)という病名を聞いて、直ちに理解できる人は少ない。しかし、「脚の動脈硬化症」となると、少しは分かりやすいだろう。
 昨年に実施された、タクシー乗務員560人を対象にした医療機関の意識調査によると、ASOの可能性がある人は全体の16%に上ったが、そのうち70%がASOについて知らなかったと答えている。
 東邦大学医療センターの大橋病院循環器内科に勤める担当医が説明する。
 「まだ理解がされていないようですね。血管の狭窄や閉塞による動脈硬化は、全身のどこにも生じますが、中でも下肢の動脈硬化は重篤な症状に至るケースが多い。ASO患者の30%が、発症5年以内に心筋梗塞や脳卒中などの血管障害を併発し、死亡するというデータが出ています。血流が著しく悪くなると、足先が壊死に陥り、切断に至るケースもある。靴ずれや水虫など、ほんのちょっとしたきっかけが壊死につながるので要注意です」
 これほど怖い病気にもかかわらず、知名度が低い理由の一つは、自覚症状がほとんどないことにある。

 こんな症例がある。Aさん(57)は、駅から会社まで20分ほどの距離を歩くのが困難になっていた。1年ほど前からだ。歩き始めはいいが、次第に両脚のふくらはぎの辺りが鈍く痛む。少し休むと痛みが消え、なんとか歩けるようになるが、5分ほどたつと再び激痛が走る。そのため、会社の近くに自費で駐車場を借り、自宅から車で通勤するようにした。
 整形外科で診察を受け、これまでの経緯を話すと、担当医の診断は「腰部脊柱管狭窄症」だった。にわかには信じられず、Aさんが別の内科医を受診したところ、今度は「下肢の動脈硬化症ではないか」と診断され、すぐに治療を始めたという。
 「Aさんの言う、歩行の際にふくらはぎ辺りが痛み、休息すると痛みが軽減するという症状は、一般に『間欠跛行』と呼ばれています。しかし、これを自覚しているのは患者さんの10〜30%ほどです。しびれや極端な冷えを伴う場合もありますが、こちらも自覚症状を訴える患者さんは少ない。原因疾患としてASOが考えられます」(前出・担当医)

 ASOの患者は、たとえ間欠跛行を自覚していても、脊柱管狭窄症などの別の病気と間違われることが多い。これは“同様の症状”を持つ病気のリスクが、ある一定の年代から高くなることが理由だ。
 「Aさんのように誤診のケースは珍しくないし、同様の症状を持つ病気を併発していたら、なおさら分かりにくい。ASOの可能性を調べるためのチェックポイントは3つあります。そのどれかに該当するようなら、一度、検査を受けた方がいいでしょう」(前出・担当医)

●65歳以上の人。
●糖尿病、喫煙習慣のいずれかに該当し、50歳以上の人。
●間欠跛行がある。あるいは、脊髄管狭窄症と診断されたことがある。
 以上のチェックポイントに該当する人は、ABI検査(足関節上腕血圧比)を健康保険適用で受けられるので、ぜひ受診していただきたい。
 ABI検査とは、上腕と足首の血圧を測る方法で、足首の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った数字で判定する。動脈硬化が進んでいなければ、血圧は足首の方がやや高く、足首の方が低い場合はASOの疑いがある。

 ちなみに、「家庭用の血圧計でも上腕と足首の血圧差を調べられるのか」という質問が時々あるが、答えは「できない」そうだ。
 「現在、一般的に使われている血圧計は、あくまで上腕で測定するタイプで、足首では測定できません。昔ながらのポンプ式で圧を送るタイプなら、足首の数値も測ることが可能なので、ASOかどうかおおよその予想はできます」(前出・担当医)