「人生を切り売りするのが私のプロレス」“産休”を決意した旧姓・広田さくらを直撃
 不妊治療に専念するため、年内で「産休」に入るプロレスラー「旧姓・広田さくら」。37歳で大きな決断をするまでの道のりを語ってくれた。

◆「不妊を仕事のネタにするな」

 治療の話が具体的になると同時に、欠場の発表準備にとりかかった。しかし、発表の仕方をめぐって揉めてしまう。

「わたしは妊活とか、出産に向けて休業、といった形で発表しようとしたんですけど、夫は自分が原因だからそれは嫌だったんでしょう。体調不良ということにしろと言われて。でもこういう仕事でこういうスタイルでやっていたら、体調不良で長期欠場というのがどれだけマイナスイメージで、どれだけ誤解を招くか、わたしには分かるので、それだけは嫌だと言って。『不妊を仕事のネタにするな』とも言われました」

 あるとき、そんな旦那さんに変化が起きた。

「手術をして、精子がいることが分かった瞬間にがらりと変わったんです。男性の本能なんでしょうね、子孫繁栄の。突然、『言っていいよ』と言われて、え? いいの? という感じで。不妊治療のことも、男性不妊ということも、全部発表していいよと言われたんです。自分に精子があったという喜びと安心が、ものすごく大きかったんだと思います。主人も周りに相談して、不妊を発表することで励まされる人がたくさんいる、というのは思っていて、それで自分にしかできないことだと感じたみたいです。主人の気が変わらないうちにと、すぐ記者会見の段取りをしました(笑)」

 終始明るいムードの記者会見。「こんな主人と結婚して幸せです」とおのろけで締めた。会見後すぐ、会場の売店で「励まされました」と女性に声を掛けられたそう。

「プロレスを見ている人にはご高齢の方も多いので、いろんな経験をされている方がたくさんいらっしゃいます。実はわたしもそうなんだとか、親族に不妊治療している人がいるとか。『自分は遅くて治療できなかったけど応援してる』と言ってくださったり。逆に励まされますよね。『うちは何回もやって諦めたけど、さくらちゃん健康だしまだ若いから絶対大丈夫だよ』とか。楽しみにしてると言ってもらえるのは、本当にありがたいです」

◆人生を切り売りするプロレス

 年内をもって、産休に入る広田選手。12月12日、新木場1stRINGにて『産休興行』を開催する。

「メインイベントは、同い年で同期の高橋奈七永とシングルマッチをやります。奈七永はつねにプロレスの最前線で戦ってきて、今年SEAdLINNNGという団体を旗揚げしました。かたや今年社長になった人、かたや今年でプロレスから一線退く人妻(笑)。でもそれぞれ、生半可な覚悟で決めたことではないんです。まったく正反対の選択をした二人だからこそ、戦えるなにかがあるんじゃないかなと。わたしがボコボコにされるのは目に見えてるんですけど(笑)、勝ち負けではないところを見てほしいですね」

 プロレスをまったく観たことがない女性でも楽しめるだろうか?

「同じ女性が戦って、やられても起き上がる姿って、絶対共感できると思います。自分の仕事や家庭に置き換えて、つらいことがあっても頑張ろうと思えるのは、女子プロならでは。興奮しない女性はいないと思います。今回の産休興行は、コンセプトがはっきりしていて、各試合にサブタイトルもついているので、ショートストーリーのような感じで見やすいです。プライベートや人生を切り売りしているわたしがやる興行なので、初めてでも入りやすいと思います」

「人生を切り売りする」という言葉に、どきっとした。女子プロレスとは、そういうものなのだろうか。

「女子プロはアイドルと一緒なので、プライベートは謎めいていたりするんですが。わたしは男ができたらリング上で紹介するし、別れたら別れたって言うし、その一年後に結婚しますと言って違う男を上げるし、今度は産休です(笑)。レスラーはそれぞれ立場があって考え方も違いますが、わたしはプロレスって全部を出して戦うものだと思っているので。なにも隠さず、持っているものすべてをエンターテイメントに変えたいんです」

 11月12日、後楽園ホール。相手の技をしっかりと受け止め、自分からの攻撃で笑いに変える広田選手のプロレスは、なんて優しいんだろうと思った。だれも傷つけることがない。包み込まれるような不思議な感覚になる。しばらく観られなくなるのが残念でしかたない。『産休興行』で、旧姓・広田さくらのプロレスを目に焼きつけてこようと思う。

★旧姓・広田さくら自主興行『産休興行』
新木場1stRING12月12日(土) 開始:18:30(開場:18:00)
自由席3500円 ほか(当日券500円UP)
詳細は http://www.hdk-90.com/shopdetail/000000005315/
問い合わせ:隙間産業プロモート sukimahitozuma@yahoo.co.jp

<取材・文/尾崎ムギ子 撮影/安井信介>