ディープな銀座を知るオーナー2人が語る。“銀座”という街とは?

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国産のビールや天然氷のかき氷を出す「麦酒屋るぷりん」と、ビルの倉庫をリノベーションしてオープンしたバー「月のはなれ」。オーナーの2人は、銀座育ちで、海外在住経験も。世界から見た銀座、そして昔と今の銀座を知る2人が語る、“銀座”という街とは?◆育てる店と守る店、銀座を支える粋な関係/麦酒屋 るぷりん店主・西塚晃久さん


「麦酒屋 るぷりん」は、全国からセレクトした国産の樽生クラフトビールと、有機野菜など素材にこだわる料理が食べられる、居酒屋的雰囲気のあるバー。店主の西塚晃久さんは30歳を迎えたばかり。銀座の店のオーナーとしてはひときわ若い部類に入るだろう。そして、同ビルの階下にある、日本料理の名店「馳走 卒啄(そったく)」の店主を父に持つ。はじめは銀座のトラッドな雰囲気が苦手だったという西塚さんも、オープンから3年半を経て気持ちに変化が訪れたという。「あんなに苦手だったはずの銀座に、今では店も僕も育ててもらっています。銀座のお客さんはスマート。知識をひけらかしたりしないし、酔い潰れるまで飲んだりもしません。去り際も見事」


一方で、歴史を積み重ねてきた老舗には、技術を次世代へとつなげてきた人たちがいて、そんな存在が骨子となり、銀座を支えていることも見えてきたのだとか。「父の店では年末になるとおせちのオーダーが大量に入るため、料理学校の生徒をバイトに雇います。正直なところ彼らは即戦力にはならない。それどころか教えながらの調理は時間も手間もかかります。それでも『おせちには日本料理のいろはと知恵が詰まっている。誰かが次世代へ受け継いでいかないと』。父はそんなふうに言います」

本物を見極める舌も、後世にバトンをつないでききたいという気概も、確かにここに受け継がれている。

◆本物が息づく場所で文化の成熟を願って種をまく/月光荘サロン 月のはなれ店主・日比康造さん


昼のバルコニーは風そよぐカフェ、夜は星空の下のバーに。毎夜20時から行われる生演奏に身をゆだねながら食事が楽しめるのは、8丁目にある「月のはなれ」。この店のオーナーでもあり、音楽家でもある日比康造さん。画材店「月光荘」の創業者の橋本兵蔵さんは、母方のお爺さんにあたる。純国産にこだわった絵の具や、カラフルな表紙と豊富なサイズのスケッチブックなどオリジナルの画材を扱ってきた「月光荘」は、創業当時、文化人が集うサロンのような場所でもあったという。


本物や芸術に触れる機会にも恵まれる中で、自然と音楽の道を志すように。そして、19歳でアメリカに渡り、旅をしながらさらに感性を磨いた。「月光荘が2017年に100周年を迎えるにあたり、月光荘の原点であるサロンを限定によみがえらせることが、銀座へのひとつの恩返しになると思いました」

創業当時と同じように、自由に文化の交流ができるようにしよう。音楽とお酒があり、演奏は生がいい。壁にはアートを飾り、おいしい料理も。そんな思いでできた「月のはなれ」は、音楽家にとっての舞台でもあり、聴き手にとっても音楽との新しい関係を築くレッスンの場にもなっている。月光荘の画材が絵描きを支えるものであるように、日比さんも生演奏の文化を根付かせるためにこの街で種をまいている。