『寝起き女子』『寝起き男子』、女性のヌードを被写体にした『脱いでみた。』シリーズなど、多彩な作品で注目されるフォトグラファー・花盛友里さんへのインタビュー後編。

前編では、『寝起き女子・男子』が生まれた経緯や、印象に残ったモデルの特徴、素人でも良い写真を撮るコツをうかがいました。後編では、理想の女性・男性像や、仕事と家庭の両立をどう感じているかをうかがいました。

【前編はこちら】『寝起き女子』の写真家が教える、印象に残る女性の特徴

撮影の知識より“撮った量”が勝る

――フォトグラファーとして、自分にしかできないことや自信を持っていることはなんでしょうか?

花盛友里さん(以下、花盛):この質問すごく悩みますね(笑)。けど、やっぱり「写真が好き」って気持ちだと思います。カメラマンさんの中には仕事として写真を撮るだけの人もいるかもしれませんが、私は趣味も写真。仕事に関わらず、毎日写真を撮っていて最近は子どもばっかり(笑)。「写真が好き」って気持ちは、撮った写真にも出る気がします。あと心がけているのは、現場をとにかく楽しく盛り上げること。私自身、写真を撮っているのが楽しくて仕方ないので、その気持ちを前面に出してハッピーな空気感を作ります。技術面に関しては、知識をつけるよりも撮った量の多さが勝ると思います。私は「光を使うのが上手ですね」とよく言われるんですが、それは勉強したというより、高校生ぐらいから撮りつづけていたら自然とわかるようになりました。

――撮影の最中に一番気をつけていることは、なんですか?

花盛:いい写真をとるために一番大事なのは“現場の空気感”だと思っています。たとえば緊張感を出すスタッフさんがいたりすると、現場全体に緊張が生まれて、それが写真にも表れてしまうことも。だから、どんなときもモデルさんのテンションが下がらないように心がけて、「めっちゃいいやん!」などと声をかけたり。細かい指示や調整が入る長時間の現場では、モデルさんが疲れないようシャッターを切りすぎないなど、気をつけています。そして、どんなに疲れても最後は全員が笑えるようにがんばります。

素敵な人の特徴は「自分を客観的に見られる」

――花盛さんが考える理想の女性像・男性像を教えてください。

花盛:見た目は、自分に似合うものを着ている人が素敵だなと思います。私も着てみたいと思って試着しても全然似合わなくてやめることがあるんですが、似合わない服を無理して着るより自分に似合うスタイルを探すことが大事かなって。よくお腹が出ている男性がピチピチのTシャツを着ているのを見かけるんですが、「なんでそんなTシャツ着るの?」って心から質問したくなる(笑)。やっぱり自分を知って、客観的に見られる人が素敵だと思います。あとは若くいようとか、キレイでいようと思う気持ちも魅力的です。

内面は、まずグチを言わない人が理想。ついつい、心のなかでは「今日めっちゃ疲れた」とか言ってしまうけど、できれば「こういう日もあるさ」って思えるようになりたい。ストレスを感じない人。あとは、人をバカにしない人が好きです。年をとればとるほどいばるようになって、若い人の考えを“若いから”というだけで無下にする人もいますが、本当にすごい人って絶対にバカにしないと思います。どんな人の話でも誠意をもって聞くし、自分の知識もきちんと説明してあげられる。池上彰さんみたいな。ああいう人は素敵だなって。

――ご自身が理想の女性になるためにしている努力とは、どんなことでしょう?

花盛:やっぱり、グチや悪口を言わないこと。あとは仕事ができなくなるのが怖いから、できる限り家のこともしっかりやる。周りの人には「仕事も子育ても家事もこなしてえらいね」って言われたりしますが、私は仕事ができなくなったら気が狂ってしまうと思うので、仕事ができているからこそバランスを保てているのかも。ただ、今までは仕事も趣味もすべて写真だったんですが、そこに今「子ども」って時間ができてちょっと変わりました。最近は子どもとも思いっきり遊べるキャンプが好きで、やっとほかの趣味ができたかなって。テントに泊まって、朝起きた瞬間に見る富士山とかめっちゃ好きです。

出産で休んでも忘れられないための努力を

――家庭を持つとき、どんな悩みがありましたか?

花盛:子どもができたとわかった日、ものすごく泣きました。仕事ができなくなる恐怖感や不安におそわれて…。フリーランスって休むことで仕事が減っていくので。だから休んでいる間も忘れられないように、出産前に『寝起き女子』の写真集出版を決定まで進めたくて、がんばりました。出産してからも不安はずっとありましたが、息子が1歳4ヶ月になった今、仕事も安定してきて、ようやく不安も消えてきました。子どもは本当にかわいいです。

――お子さんができてから、仕事への向き合い方に変化はありましたか?

花盛:今は、仕事を“させてもらっている感”があるかもしれません。だから、余計にグチを言わないように意識しています。仕事にこだわらなければ、カメラマンという職業でなくたって生きていけるけど、あえて長い時間働いているのは私の勝手な望みだから。子どもが生まれてから仕事ができなかった数ヶ月間は、正直つらすぎて……。妊婦の間もギリギリまで仕事をしていて、出産後2ヶ月からゆるやかに仕事をはじめて、8ヶ月で本格的に復帰しました。もう保育園すべてを抱きしめたいぐらい感謝感謝です(笑)。

とはいえ、実際家庭との両立はホンマに嫌になることもあります。でも、両立しない=仕事をやめるってことになるのでそれだけは嫌です。一日中家事をするなんて無理だから。専業主婦の人のほうが尊敬します。この仕事はあくまで自分がやりたいからやっていることだという意識が生まれました。

毎日グチるほど嫌な仕事は、辞めてもいい

――今後の活動予定を教えていただけますか?

花盛:来年の2月に、『脱いでみた。』シリーズの個展を渋谷にある「ギャラリー・ルデコ」の1Fでやります。そして、個展と同時に『脱いでみた。』シリーズの写真集も発売予定です。場所にはすごくこだわって、あえてギャラリーっぽくないところを選びました。飾る作品の点数も膨大ですし、写真集もかっこよく仕上げますので、どうぞお楽しみに!

――自分の名前で個展を開くことにプレッシャーはありますか?

花盛:めっちゃあります。毎回めっちゃ緊張します。でも、ひたすら耐える(笑)。ただ、当日までにできる限りのことはしますね。お世話になっている方にひとりずつ手紙を書いてお知らせしたり、いろいろな場所にDMを置いてもらえるよう直接出向いてお願いしたり、来てもらえるように最大限の努力をします。そして、やれるだけの準備をしたら、あとは耐えるのみ(笑)。期間中は、できる限りギャラリーにいますし、土日は息子も連れていこうと思っているので、ぜひお気軽に会いに来ていただけると嬉しいです!

――ウートピ読者には働く女性がたくさんいます。仕事がつらいこともあると思うのですが、何かアドバイスはありますか?

花盛:私はたまたま恵まれていて仕事が楽しいって思えるけど、そうじゃない会社員の方たちも、たくさんいらっしゃると思います。それならば、無理やり仕事を楽しむよりも、日々の仕事が楽しくなるように打ち込める趣味を持つとか、別の楽しみを探すといいんじゃないかなって。

でも、毎日グチを言うぐらい嫌な仕事は辞めたらいいと思います。家庭を持ってしまうと転職も難しくなりますが、独身のうちならある程度、自由に動けると思うので。それこそ、「半年間海外に行ってきます」っていうのも全然アリ。人生一度きりなので、「心から楽しいと思えるなにか」を貪欲に探してみてください。

■個展開催情報
日程:2016年2月16日〜21日
場所:ギャラリー●ルデコ(公式サイト
住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-16-3 ルデコビル
時間:午前11時〜午後7時/月曜休廊日
TEL:03‐5485‐5188
FAX:03‐5485‐5199
E-Mail:ledeco@ledeco.name

■関連リンク
公式サイト
『寝起き男子』

(小林香織)