専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第32回

 先月、山梨県の河口湖カントリークラブでラウンドしてきました。ちょうど紅葉が真っ盛りで、コース全体が赤や黄色に染まり、実に綺麗でした。

 冠雪した富士山に向かって打つホールもあり、雄大でワンダフル。葛飾北斎の浮世絵の現代版が、そこに繰り広げられていたのです。

 太宰治がゴルフをしていたら、「富士にはゴルフ場がよく似合う」と書き残したことでしょう。外国人の方が来てプレーをすれば、すごく喜ぶと思いますね。

 外国人の方が「日本を象徴するゴルフコースでプレーしたい」と言ったら、迷うことなく、富士山近辺にある山梨か、静岡のコースに連れていきます。我々も、アルプスやロッキー山脈をバックにゴルフをしたいですから、気持ちは同じでしょう。

 そんなわけで、今回はスポーツから視野をちょっと広げて、世界のゴルフ文化について述べたいと思います。

 世界には、およそ3万4000のゴルフ場があると言われています。そのうち、アメリカには約1万5000コースあって断トツ。次いで、英国、日本、カナダには、それぞれ2000を超えるコースがあって、この4カ国で全体の65%を占めています。

 なかでも主だったアメリカ、英国、日本という、世界の"ビッグ3"のゴルフ文化について話をしていきたいと思います。まずはアメリカから。

 アメリカで好まれるのは、ズバリ、ゴルフを題材にした読み物です。

 村上春樹が敬愛し、翻訳までした作家に、スコット・フィッツジェラルド(1896年、アメリカ・ミネソタ州生まれ)がいます。1920年代の「ジャズ・エイジ(※)」に活躍した人で、初期の作品に『冬の夢』というのがあって、そこに北部のリゾート地のゴルフ場を舞台とした話が描かれています。
※1920年代におけるアメリカの文化、世相を表する言葉。

 主人公は、ゴルフ場でアルバイトをしている少年、デクスター・グリーン。ある日、彼が働くゴルフ場に、お金持ちのお嬢さんが父親に連れられて遊びにやって来ました。彼は、そのお嬢さんにひと目惚れします。そこでデクスター少年は、「いつか出世して、あの生意気で美しい娘と交際できるように成り上がろう」と誓うのでした――。

 まさに"アメリカン・ドリーム"そのものでしょ。ゴルフは、富とステイタスの象徴として描かれています。

 これだけあからさまに"野心"や"出世欲"を堂々と描けるのは、アメリカならでは。目標、ターゲットに向かって、何の迷いもなくまい進する若者。アメリカの強さの源って、このわかりやすい"上昇志向"なんですよね。

 一方、ゴルフ発祥の地、英国はどうでしょうか。

 ゴルフが生まれたのは、15世紀あたりですから、社会に根ざしている奥深さは計り知れないものがあります。ゴルフは、国技に近いニュアンスで扱われているのではないでしょうか。

 そういう意味で見てみると、英国風のリゾート地には、ゴルフ場が実に多いです。旧英国領のフィジーでは、国内のありとあらゆるところに、ゴルフのエッセンスがちりばめられています。大きいホテルだと、裏庭が9ホールのミドルコースになっていて、そこはウッドも打てる本格的なものです。宿泊客であれば、驚くほど安い料金でプレーできるので、感動的でした。

 中くらいのホテルでも、3ホールくらいのショートコースがありますし、たとえコテージのような宿泊施設でも、パター練習場があったりして、とにかくゴルフ関連の施設があちこちにあるのです。フィジーのリゾートは、ゴルフ発祥国の文化を色濃く反映しているな、と思いました。

 じゃあ、日本はどうでしょう。

 先進国の中では、ゴルフ後発組です。ゴルフ文化を輸入することから始まっています。

 例えば、私が元メンバーだった鶴舞カントリー倶楽部(千葉県)は、日本を代表するゴルフコースの設計家、名匠・井上誠一(1908年、東京都生まれ)の設計です。東の4番ショートホールは、周囲をぐるりと池が囲み、美しい佇まいで有名です。バンカーをよく見ると、池との境界がない渚バンカーになっています。

 井上誠一は、1960年代に欧米にゴルフ場の視察旅行に出掛けています。その旅の途中、アメリカのパイン・バレーGC(ニュージャージー州)で見つけたのが、ビーチバンカーでした。

 パイン・バレーGCは、長らく世界第1位の称号を持っていた、世界的に有名なコースです。そのコースのアイデアを拝借して、似たようなコースを鶴舞CCに造ってみた――なんか、ロマンがありますよね。

 出版世界において、ゴルフに関する作品は漫画が多いです。小説、エッセイの類もありますけど、誰もが知っている作品は少ないです。唯一と言っていいかもしれないのが、作家・夏坂健さん(1936年、神奈川県横浜市生まれ)の作品集。英国のゴルフの文献を翻訳して、奥深くも、面白いお話をたくさん紹介してくれました。

 とはいえ、日本にはゴルフの文化的作品は少なく、「がんばれ、ゴルフ出版界!」と言ったところでしょうか。

 やはり、日本のゴルフ文化を外国人に見せるなら、富士山近辺のコースに連れていくこと。それが、一番わかりやすくて、よろしいかなと。"書より証拠"って、感じでしょうかね。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

木村和久●文 text by Kimura Kazuhisa