現在公開中の初監督作品『愛を語れば変態ですか』で行き過ぎた博愛精神を持つ女性、あさことそれに振り回される男たちを描いた福原充則監督。劇作家・演出家として岸田國士戯曲賞最終候補にも残った福原が描く物語は、日常からはじまって大きな規模の話へと発展してゆく。この映画も世界規模に飛躍していくが、その先にはいったい何があるのか──。
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女優が走っていると、それだけで面白い


──映画化するにあたって、原作であるご自身の舞台から何か変えたことはありますか?
「後半は丸ごと変えました。舞台版では、後半で主人公夫婦が経営するカレー屋のなかで何の理由もなく土砂降りの雨が降って、その後主人公であるあさ子が地球を割って去って行くという話だったんですけど」
──地球は割らなかったわけですね。
「割るとさすがに観る方を置いてきぼりにしてしまうだろうなと。それと、前半はずっとカレー店の中というワンシチュエーションの話になるので、わかりやすく感情が昂ったときに外に飛び出していったほうがいいなと思って」
──飛び出したあと、あさ子の博愛精神がスパークして走りながら道行く人に次々キスしていくところは観ていて気持ちよかったです。
「第1稿では通勤ラッシュの電車の中に飛び込んで、100人、200人とキスをするというものだったんです。それを予算に合わせて成立させました」
──200人から……。
「3人だったかな(笑)」
──黒川芽以さんが走っている姿が美しかったですね。
「女優さんが走っていると、それだけで面白いというのはありますよね。衣装さんが、走る姿が映えるように、マントみたいになるようにと薄くてひらひらした服を選んでくださって」
──ああ、確かにマントのようでした。映画のメインビジュアルとなっているバイクのハンドル部分を持ったシーンは前半ではまったく出てくる雰囲気がなかったので、イメージカットなのかな? と思ったら思いがけないタイミングで登場しましたね。
「あのバイク、美術さんがよく作ってくれたなと思います。舞台のスタッフさんももちろんすごいんですが、舞台って見えない部分は基本的につくらないんですよ。でも映画はどう撮っても成立するように全部つくる。どっちが上とかではないですが、初めての現場だったのですごいなあと思いました」
──すぐには納得できない言動で周囲を惑わせる黒川さんが、どんどん美しく、かっこよくなっていくのがいいですね。
「言っていることがむちゃくちゃな役なので、実際の撮影現場でも面白かったですね。僕が書いたんですけど(笑)。黒川さんも『私、何言ってんだろう?』って言ってました。それを成立させてくれるだけでありがたかったです」


「えさをとられそうな野良猫のような表情で」という演出


──いちばん気に入っているシーンは?
「黒川さんが頭突きをするシーンが好きですね。それと黒川さんが走り出したあと、竹井亮介さん演じる二人目の男にキスするシーンがあるんです」
──あ、そこで竹井さんと野間口徹さんがすれ違ったとき、「親族代表(3人組コントユニット)の2人が!」と興奮しました(笑)。
「2人出したらもう一人(嶋村太一)も出せばよかったですね(笑)。そのシーンで、キスしているところを夫である野間口さんに見られているとき、振り返る黒川さんの顔が大好きで。そのシーンは『えさをとられそうな野良猫みたいにやってくれ』って言ったんですけど。そのときの表情がすごくいいです」
──演出のしかたは、舞台のときと同じように?
「僕は役者さんの芝居を観て演出していくタイプなんですよ。でも、映画でそれをやっているととてもスケジュール通りに撮りきることができない、ということに撮影に入ってから気づきまして。舞台だったら1ヶ月後にできていればいいけれど、映画はそうはいかない。『このカットはこれでいい』という決断をどこでするかが難しかったです」
──映画を1本撮影してみていま、どんなお気持ちですか?
「たいへんでしたけど、まだやりたいですね。演劇をやっている人間が映画をとって、そう簡単にうまくいくとは思っていないですけど、でも謙虚にもう1本撮りたいなあ」

タイトルと知らずにセリフを口にした黒川芽以


──この映画も、ふだんの舞台でも、福原さんの描くものって、ロマンチックですよね。たとえば『愛を語れば変態ですか』というこのタイトルも、作中で黒川さんが口にしたときにすごくロマンチックな響きに聞こえました。
「このタイトルにするって、伝えてなかったですからね」
──そうなんですか!
「原作となった舞台と同じ『キング・オブ・心中』という仮タイトルで撮影をしていたので。黒川さんにも後から『このタイトルになるんだったらもっとちゃんと言ったのに!』って言われました(笑)」
──でも、あの言い方がすごく意外で、素敵でした。ロマンチックだけど、なぜか等身大の話がとんでもないところに着地している、というのが福原作品の魅力だと思うのですが、それはどの程度ご自身で意識しているものですか?
「いつも本当のことを言おう、なるべくシンプルにしよう、と思っています。そうすると、小学生が言うようなことになっていくんですよね(笑)。たとえば恋人がいちばん大事だとしたら、他のものはすべてその下に位置すればいい。でも社会的には恋人が大事だからって、他の人を殺してもいい、ということにはなりませんよね。それはもちろんわかっているんだけど、そういう現実の話はひとまず置いておいて、いちばんシンプルなことを描こうと思う。すると、たいがい話が大きくなっていっちゃう、それが楽しい。中途半端に愛がどうこうと言っている人への意地悪な気持ちも少しあるのかもしれません」
──確かにこの作品も最後にはずいぶん大きな話になって、それがばかばかしくもどこか切実な感じがあります。
「話がでかい人が大好きなんです。ぼく、ジョン・レノンとオノ・ヨーコって、世代的にも尊敬よりも面白いなあと思いながら見ていて。ただ、言っていることは本当のことなんですよね。この映画でもそういうことが描きたくて、元の舞台では、主人公はオノ・ヨーコからとってヨーコって名前だったくらい」
──本当のことを尊重する気持ちと、それをおもしろがる気持ちと両方あるってことですね。
「真実って、ものすごくちゃんとした理屈にも見えるし、いっぽうでばかばかしくも見える。例えば仏教とかもそう。以前、仏教の舞台(『ぶっせん』)をやったときに勉強してみたら、仏教のおしえって本当にいろいろと突っ込みどころが多い。でも言っていることは何も間違ってない。きちんとした人に本当のことを言われても『まあそうですよね』としか思えないけど、つっこみどころのある人の言葉ってなんだか信用できる。“お釈迦様、隙だらけのあなたが好き”みたいな(笑)、そういう感じですかね」
(釣木文恵)


ふくはら・みつのり●1975年、神奈川県生まれ。02年、ピチチ5(クインテッド)を旗揚げし、脚本・演出を務める。その後マンションマンション、産卵シーズン、ニッポンの河川などさまざまな劇団やユニットを次々旗揚げ。09年には宮崎(正しくは大が立)あおいの主演舞台『その夜明け、嘘。』の脚本、演出を務める。俳優の富岡晃一郎と立ち上げたベッド&メイキングスではお台場の公園に劇場を建てるところからはじめた『南の島に雪が降る』や、かつて双数姉妹がやった、円形劇場を半分に分けて2つの物語が同時に進行する『サナギネ』などさまざまな表現方法を使いながらシンプルで強い芝居を上演。15年『つんざき行路、されるがまま』で岸田國士戯曲賞最終候補。映像の脚本も手がけ、12年には『琉球マブヤー THE MOVIE 七つのマブイ』で映画初脚本を手がける。現在放送中のコント番組『SICKS』(テレビ東京系、毎週金曜0:52〜)でも脚本とシリーズ構成を手がけている。

『愛を語れば変態ですか』
脚本・監督/福原充則 出演/黒川芽以、野間口徹、今野浩喜(キングオブコメディ)、栩原楽人、川合正悟(Wエンジン チャンカワイ)、永島敏行ほか
新宿ピカデリーほか全国で上映中