朝ドラ「あさが来た」(NHK 月〜土 朝8時〜)12月1日(月)放送。第10週「お姉ちゃんの旅立ち」第56話より。原案:古川智映子 脚本:大森美香 演出:佐々木善春


56話はこんな話


はつ(宮崎あおい/崎の大は立)はついに菊(萬田久子)を説得し、眉山家は和歌山へと旅立つことになった。
一方、あさ(波瑠)は襲名披露の当日、式に居並ぶことに。女性が参加することは前代未聞のことだった。

はつ、やっぱり強い


ファッションビル・ルミネの2014年秋の広告コピーに、
「運命を狂わすほどの恋を、女は忘れられる。」というのがある。
女のメンタルのタフさを物語ったもので、SNSでも話題になったから記憶に残っているひとも多いのではないか。
56話のはつを見ていて、ふいにこのコピーが浮かんできた。
和歌山に行くことが決まった新しい朝、川の浅瀬に裸足で立ったはつは、新次郎(玉木宏)と、もしも新次郎のところに嫁いでいたらという話をしたときのことを思い出すも、「なんであないなことを」とケロッとする。
恋ではなくても、若干の気の迷いはあったはず。少なくとも、自分の不運をいくども恨んでいた。でも、それを川にすっかり流してしまったようだ。

新しい朝


「あさが来た」では“新しい朝”が何度も訪れる。
今朝のはつの新しい朝の顔はほんとうに清々しかったし、あさの新しい朝も負けてはいない。
襲名披露当日、あさが綺麗に身支度し、一家もみんなシャキッとしていく様子が映る。前向きで壮麗な音楽と、眉山家の再出発も重なって、人間は朝が来るたび、何度でも再生できるのだ、という勇気がもらえる。

おみかん、縫い物、自由自在


「弱いとこ、情けないとこ」があったとはつに言われ、「え、あったんかい」とツッコむ惣兵衛(柄本佑)。
「今はもうこのおみかんみたいにぴっかぴかや」とはつに言われるほど変化している惣兵衛は、今やすっかりひょうきんな人に。新次郎が以前言っていた「昔はおもしろかった」のはこういうところだったのか。

菊がついに意地を張るのをやめた時、和歌山のみかんをふたつ手にとる。ひとつは自分が食べ、もうひとつは簡易な仏壇に。菊のアイデンティティである大事な大事なご先祖様に和歌山のみかんをお供えすることで、菊が腹をくくったことが伝わってくる。
みかんだけでいくつでも場面をつくることができる、脚本家は料理上手(ここは演出の領域か?)。

手紙を洗濯もののようにきれいに干して並べている部屋の画もおもしろく、細やかに登場人物の感情と行動が描かれる56話で一番、やられたと思ったのは、亀助(三宅弘城)が九州で縫い物していた件(39話)。
なにやら小さなものを縫っているなと気になったが、それは女物の匂い袋で、ふゆ(清原果耶)への贈り物だったことがわかる。縫い物だけで、いくらでも場面をつくることができる脚本家は料理上手(たぶん、こっちは脚本の領域だろう)。
大番頭の座にこだわるのもふゆへの思いから。どんなに頑張っても思いは報われないんだろうなあと考えると胸が痛い。
(木俣冬)

木俣冬の日刊「あさが来た」レビューまとめ読みはこちらから