ソニーデザインの神髄は「カタチを暗黙知で伝える」、トークカンファレンスが京都で開催

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Appleをはじめ、世界のプロダクトデザインに影響を与え続けているソニーデザインとは何かを知るイベント「Sony Design: MAKING MODERN」が、2015年11月27日から29日に京都造形芸術大学瓜生キャンパスで開催されました。

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本イベントは、書籍「Sony Design: MAKING MODERN」の出版を記念して、今年春にソニービルで開催された銀座展の巡回展という位置づけ。好評だった歴代モデル展示に最新製品を加えて再編集して公開するのはじめ、書籍に使われた写真がポスター形式で展示されました。1961年の創業から50年以上続くクリエイティブセンターが手掛けてきた製品が、ずらりと展示されている姿はなかなか圧巻でした。

さらに今回はスペシャルプログラムとして、ソニークリエイティブセンターのエース級デザイナーとチーフアートディレクター6名を迎えたトークカンファレンスが28日に開催されました。企業のインハウスデザインについて、現場から直接話を聞ける機会はそうそうありません。一人あたり約20分という短い時間でしたが話の密度は相当に高く、門外不出のデッサンや資料が惜しげもなく披露され、ソニーファンのみならずデザインに興味がある人全てにとって、貴重なイベントになっていました。

最後に人の手で線を書くのが大事まず最初に登壇したクリエイティブセンターの長谷川豊センター長から「ソニーデザインの役割と深化」と題し、主にセンターの仕事ついての話がありました。「人のやらないことをやるソニーの哲学をデザインでも重視し、機能と感性の価値を交えた感動価値を提供するために、五感の気持ちよさ、冒険心と遊び心などを大事にしています」と説明する長谷川氏は、「デザインとは最終的に人の手で線を書くのが大事ではないか」と言います。

ソニー独自のデザインスタイルは歴史を通じて暗黙知で培われたものがあるそうです。現在取り組んでいるのは、住空間の中でエレクトロニクスがどうあるべきか再定義することで、UIにも力を入れています。「お客さまに商品を届けるタッチポイントまでトータルにデザインし、見えないものを視覚化することに取り組んでいます。例えば、Sony Bank WALLETでは、見た目はただのキャッシュカードですが、そこにモノ、コト、ストーリーを取り入れた総合的な観点からデザインアプローチがなされています」とのこと。

他にも、モノづくり作業ができるファブラボの社内設置や、クラウドファウンディング「First Fright」の運営し、アロマスティックなど新しい分野も開拓し、新たな領域に取り組んでいます。目指すのは次のデザインの原型を作ることで、そこにはお客さまをはじめ、様々な声を取り入れていくとしています。

次にデザイナーの沢井邦仁氏から「今に引き継がれるロボットデザイン」と題し、AIBOやQRIOからアクティブスピーカー「BSP-60」に至るソニーのロボットデザインの取り組みが語られました。

前半はQRIOのデザインを例に、まず社内からモーター技術を使った2足歩行ロボットをデザイン依頼があり、コンペで担当者が決まったことや、原則としてデザインは一人一製品を担当するといった、制作体勢に関する話。門外不出とも言えるリサーチ資料の一部や、完成まで表情を微妙に修正するなど細かな手直しが入ったのデザインスケッチがいくつも披露され、3DCGなどのツールが無い中で、いかに苦労してロボットがデザインされていたが伝わってきました。

「最近は立体造形をデザインするのに便利な道具がたくさんありますが、当時は稼働部をどうするかを説明するのも大切でした。一方で(展示コーナーにも置かれている)クレイモデルのように現物を手で触れながらデザインできたことは、制作の手助けになりました」。

QRIOでの経験を通じて、モーションとインタラクションを兼ね備えているのがロボットであると考えた沢井氏は、モノよりも人の考え方や人と人との対話をデザインするのが大事になるとし「自分の代わりをしてくれる、知らなかったことに出会うなど、相手がいてできることが、未来のロボットに求められています」と言います。そうしたカテゴリーに向けた開発はすでに始まっており、その一つがBSP-60だということです。

次にソニーの最新のヘッドホンh.earシリーズのデザインを手掛けたチーフアートディレクターの詫摩智朗氏から「アートディレクションから生まれたCMFの現場」と題し、デザインにおいてCMF(カラー/マテリアル/フィニッシュ)にどう取り組んでいるかをわかりやすく説明しました。

11月に発表されたばかりのh.earシリーズは、ソニーがあまり取り組めていない若い層に向けた製品と位置づけられています。マニアックではなくシンプルに着こなせながら、スタジオ向けのプロユースとして長年同じデザインを保っているCD900にも似た要素が取り入れられているのが特徴で、メカは一切見せず、ロゴも特別に本体になじませるようにし、機能の高さをあえて語らない抑えたデザインにしています。

「カラバリはきちんと展開し、それでいて耳にフィットしてヘッドフォンが歩いているように見えないカタチにし、小さく折りたたんで持ち歩けるようにしています。インナーイヤーにもこだわり、ソニーウォークマンともデザインを連動させています」

流行りの単色といいつつ微妙な色合いを実現するため、トライしたデザイン部材は5000〜8000パーツと膨大な数に上るとか。マニュアルなどパッケージの中までこだわり、音と色の作り込みのバランスをとことんまで追求。そのこだわりはマーケティングにも及び、ショップフロントの作り方まで徹底されています。

「たくさんある商品全てにソニーのアイデンティティを表現する必要があり、作るだけでなく、使う人の背景にも何があるかをいつも考えています」と言う詫摩氏は、ネガティブスペースと呼ばれる余白部分にも最新の注意を払います。ボタンを平面にすることで隙間を際出せるなど、使い心地と見せ方とソニーらしさが成立したデザインを追求しています。コンテクストからのアプローチで機能性も伝える「Life Space UX」シリーズを手掛けた田幸宏崇チーフアートディレクターは「コンテクストを理解し、新たなコンテクストを創造する」というタイトルにあるとおり、デザインのためのコンテクストをどう扱っているかを紹介しました。

「Life Space UX」は、業務用製品の技術を使ったインテリアライクな家電シリーズで、壁にぴたりと設置できる4Kウルトラ短焦点プロジェクターやスピーカー機能があるLEDバルブスピーカーなど4つの商品群で展開されています。会場には来年発売予定のランタンのように光と音が360度に拡がるシンフォニックライトスピーカーなどが展示されていました。

田幸氏はそれぞれの製品でコンテクストを大事にしていると言います。中でもポータブルの短焦点プロジェクターは、ポータブルと静物の共存を目指しながら、熱暴走しないよう設計されています。「方向性のない正方形」をコンテクストに、吸排気、音響、投射口を同一面にフラットにまとめ、ボタンも入出力で一つずつしかありません。さらにポールに設置して壁に投射すれば窓が増やせるといった、これまでにない使い方も提案されています。いずれも、コンテクストによって製品の方向性が決まっていることが、デザインや機能の追求につながっていると言えそうです。93言語・99カ国に対応できるオリジナルフォント「SST」ソニーは今年90種を超える言語に対応するコーポレートタイプフェイス「SST」を開発したことが話題になりました。フォントデザインを手掛けた福原寛重チーフアートディレクターからは、ずばり「なぜソニーはオリジナルフォントを創ったのか」について、制作過程からどのような目的があるのかが語られました。ソニーはこれまでヘルベチカフォントをずっと使っていましたが、Frutigerというシャルルドゴール空港専用に作られたフォントがあるように、ソニー専用があった方がいいのではないかというのが制作のきっかけでした。

「タイプディレクターは著名な書体デザイナーである小林章氏が担当し、硬質ながら読みやすく、フォント制作では非常識と言われる等幅で作られています。日本語や商品記号など異なる言語がすべて同じように見えるよう工夫し、通常は26言語程度の対応ですが、93言語・99カ国でという世界トップレベルの対応言語数で、ソニー市場のほぼ全て対応できるようにしています」。

SSTによってウェブサイトデザインの統一化もしやすくなりましたが、それでも100%カバーはできないそうです。ですが、そこは目指していないと福原氏は言います。「SSTではソニーのメッセージをロゴや商品、空間からも見えることを目指しています。何でも伝える100%のデザインはもう誰かが作っているはずなので、それよりもプラス1%を重ねるデザインを目指すのが正しいと思っています」ソニーらしさとはいったい何なのか最後にMESHやwenaなどを輩出するソニーの新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program, SAP)を手掛ける石井大輔チーフアートディレクターより、「ビジネスインキュベーションでのデザインの役割」という題でソニーがこれから新たに取り組むデザイナーの役割などを語りました。

SAPを通じてすでに様々な商品が登場しており、中でもwenaは一億円という日本のクラウドファウンディング最高資本金の調達を達成しています。「大事なのは、いきなりビジネスをスタートさせず、コンセプトを詰めること。インハウスではあまりできてなかった気付きを手に入れるため、プロトタイプを海外のイベントで発表したり、ユーザートライを重ねてデザインを含めた商品の熟成を計っています」と石井氏。そのためのサポートをトータルにデザインすることも仕事になっていると言います。

トークカンファレンスが一旦終了した後も、会場からのQ&Aが行なわれ、そこでは会場から「ソニーらしさ」に対する質問が続きました。それに対し石井氏は「極端な話をすると空間から音が鳴るということまでデザインするミニマムさがソニーらしさではないか」と説明。福原氏も「デザインしながらしていない、直接的ではなく、伝統と革新という京都のような、新しいことにチャレンジし続けることがソニーらしさ」と答えています。

詫摩氏によると、ソニーにはデザイン審議があり、会議形式で徹底的に議論するのだそうです。「審議は先人が作ったデザインを伝承するために認識を合せる場でもあり、そこで暗黙知が築き上げられているのではないか」ということです。田幸氏は「ソニーらしさとは結局、外から見た人が決めるものかもしれない」とコメント。それに対し長谷川センター長は「デザインの本質には、会社が何を約束したいかが含まれているのではないか。それが伝わることがソニーらしさと言えるかもしれない」と答えをまとめていました。

トークカンファレンス全体を通じて感じたのは、ソニーのクリエイティブデザインは一人一製品の担当とはいえ、総合的にはとても多くの人達が関わっていて、それらもまとめながらのデザインであるということ。変化の早い時代の中で、インハウスデザインのあり方も変化していることもよくわかり、これからソニーがどのような製品とデザインをカタチにしてくれるのかが楽しみになってきました。