オランダ遠征にて、1−3でオランダ代表に完敗したなでしこジャパン。スタジアムのあるオランダ・フォーレンダム特有の強風、雨......。ベストコンディションとは程遠い環境だったが、それはオランダも同じこと。これらピッチコンディションとは無関係のところに多くの課題と収穫があった試合だった。

 両者の明暗を分けたのは、"チームの熟成度"に他ならない。先のワールドカップ決勝トーナメント1回戦で対戦した時(2−1で日本が勝利)とほぼ変わらないベストメンバーを揃えたオランダに対し、半数を若手が占める日本は活動して6日目のチーム。まだ互いの特長を探っていた。これだけでも、この結果を想定するに十分だろう。佐々木則夫監督もリスクを承知の上でのマッチングだった。

 この90分をトーナメントの1試合と考えるなら、この戦い方はナンセンスとしか言いようがない。はき違えてはならないのは、日本は残念ながらいまだ選手選考の段階だということ。この試合は、ゲームの流れに重点を置くのではなく、時間ごとに試すフォーメーションがあらかじめ決められている"テスト"そのものだった。

 最大の注目ポイントは大儀見優季(フランクフルト)の相棒となる選手のフィッティングだった。前半の序盤は、オランダで初めて組んだ有町紗央里(ベガルタ仙台)とのタッグ。ぎこちなさは拭えないが、有町が大儀見の動きを理解してポジショニングを取れるようになれば面白い形になりそうだ。何より、有町のシュート力は大儀見が太鼓判を押すほど。有町にとってまたとないチャンスだったが、ヨーロッパの強豪との初対戦で勢いに飲まれたのか、アピール成功とはいかなかった。

 25分を過ぎたあたりで佐々木監督は、宮間あや(湯郷ベル)を前線に上げる布陣にシフトする。大儀見よりも下がり目に位置する4−2−3−1。この日、もっとものゴールへの匂いを漂わせたフォーメーションだ。

 チェックの速いプレスと体を張りながらも組織された、この日のオランダの守備の質は日本のそれをはるかに凌いでいた。その相手守備陣を唯一混乱に陥れたのが、大儀見と宮間との高い位置でのコンビネーションだった。選手たちが試したかった攻撃が40分の場面。大儀見からのパスを宮間が1タッチプレーで戻し、大儀見から最後はボランチから上がってきた阪口夢穂(日テレベレーザ)へ。シュートまではいくことができなかったが、オランダで見出したこれまでにない形の攻撃だ。

 狙っていなければできない大儀見、宮間、阪口のトライアングルから生まれたものだった。大儀見はさらに、ここからサイドにいる有町をフィニッシャーにするパターンも狙っていたようだが、こちらは不発。

 この時間帯の波状攻撃はオランダを翻弄したが、与えられた時間は終了。ゴールという形に結びつけられなかったことが、佐々木監督のいう「足りない決定力」ということだ。このタイミングで現れた4−2−3−1は、前がかりになるため終始敷くことはできないが、先手を取りたい立ち上がりや、巻き返したいラスト10分など、勝負どころでは今後、最も期待できる布陣と言えるだろう。

 後半から入った菅澤優衣香(ジェフ)は、大儀見とのポジションをいつもと逆に取り、最前線を担当した。コンタクトスキルに長けた大儀見が下がることで起点は増えたが、そこから先のプレーに関わる枚数は限られてしまう場面も見られた。日本唯一の得点は菅澤が前線でキープし、DFを引き寄せて出したボールを阪口が決めたもの。最近はこの形もなでしこの得点パターンに入ってきている。

 好材料がありながら、敗戦となった要因は先に述べたチームの熟成度の他にもある。あまりにも安易にカウンターを食らいすぎた。失点はすべてミス絡みのカウンター攻撃によるもの。オランダは日本からミスを引き出すためにどんな場面でも必ずボールに対して素早くチェックに入る。それゆえ簡単にボールを流したり、トラップミスをしたりすればインターセプトされるのだ。

 その状況下、印象的だったのが最初の失点だ。宮間は宇津木瑠美(モンペリエHSC)の左足で届くギリギリのところにキツめのパスを出した。結果としてこれを奪われ、失点することになるのだが、その直後に2人は話をしている。「あの場所でいい」そう答えたのは宇津木だ。

 4分の失点の段階で少なくともこの2人は、簡単に受けられるパスではオランダを崩すことができないことを感じ取っていた。相手が取れない、そして自分が取れる"最大限"の位置を探っていたのである。おそらくそれは十数センチ単位の細かさだ。宮間も、「次に同じ場面が来たとしてもあのパスを選択する」と言い切った。

 この"最大限"の位置取りを何人の選手が意識していたか。敗因のひとつは間違いなくそこにある。この意識は攻守に共通して必要なものだ。これまでと同じようなパス回しでは、もはや日本は勝つことが難しいのだ。どれだけ受けにくい位置でボールを受け渡せるかが重要なのであって、受けやすさへの改善はそこからのこと。どうもこの順序が逆になっているような気がしてならない。

 この2失点があったことで、2月から始まるオリンピック予選は、カウンターを狙われるだろう。

「ミスはあったとしても失点は防げたはず」と悔しさをにじませたのは守備の要・熊谷紗希(オリンピック・リヨン)。最終ラインでもテストはされていた。けれど日本の誇る連係・連動は1週間で体得できるものではない。個の向上も必要だが、この時期でもう線引きをするべきだ。

 なでしこの代名詞である連係・連動のクオリティもこれまでと同じレベルではアジアでも通用しない。ワールドカップでは大会が始まってからも、個を引き出しながらのペアリング作業に追われていた。

 個人的には、メンバーが決まらないことで選手間の不安要素が取り除けず、なでしこらしさは半減したように感じることも多かった。これまでと同じ戦い方ではアジア予選を勝ち抜くことは困難だ。

 年明けのシーズンオフを活用してキャンプ実施を示唆している佐々木監督。ヨーロッパ組はシーズンまっただ中で、オリンピック予選までに招集できる期間はAマッチデー絡みに限られる。

 招集メンバーがたとえ計算できるベテラン中心になったとしても、そこからさらに積み上げることは可能なはず。逆に若手を起用して、徹底的に計算できる状態に叩き込むのもよし。要はここからは現実的なメンバー構成で、チームを熟成させる必要があるということ。

 それには指揮官の決断が大前提だが、選手側も多少のぶつかりがあったとしても、全員で目指すサッカーを追求する姿勢が必要だ。最終的にピッチで選手を支えるのは互いの信頼と、やれるだけのことはやり尽したという自信。今なでしこジャパンに最も必要なのはこの2つなのではないだろうか。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko