『論語』を読んで「これ、俺が書いたんじゃないの?」と思った蛭子能収

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先週おもしろそうだからとりあえず買ってみた新刊文庫一覧、2015年11月第4週!
先週は文庫・新書いっぱい買った!

『論語』蛭子能収remix!


今回の目玉はこれ。
蛭子能収『蛭子の論語 自由に生きるためのヒント』(角川新書Kindle)。


〈本を読むのも苦手だけど、それ以上に、誰かの頼みごとを断るのが大の苦手なんですよ〉
というあの蛭子さんが、儒教の正典である孔子言行録・『論語』にしぶしぶ挑む! いわば『論語』蛭子能収remixですよ。
初めて『論語』を読んで、蛭子さん、〈これ、俺が書いたんじゃないの?〉と思ったという。

生きかたの本でもう1冊。
教育プロデューサーでMENSAの会員でもある岩波邦明とCMディレクター押田あゆみの共著『岩波メソッド 学校にはない教科書 いま、必要な5×5の学習法』(岩波ジュニア新書)。


1990年代のベストセラー、赤瀬川原平『老人力』(ちくま文庫Kindle)以降、「〜力(りょく、ちから)」がつく本が大量に書かれ、とくに新書にはやたら多かった。

この本の目次を見ると、25の力が並んでいる。「散歩力」「1択力」「感動力」「「売れる」力」……など。
そして、それを開発するアクティヴィティ〈カギ〉が書いてある。ごくシンプルな、でもやってみると深いゲームのようなエクササイズ。

たとえば、「開発力」を開くカギは、
〈きょう覚えたこと、あるいはニュースなどで聞いたことを、友達や親など、だれかに話してください〉
高校生向けだけれど大人もやってみたくなる。

世界の半分は一神教徒。彼らを知らずにどうする?


社会学者・橋爪大三郎と、元外務省主席分析官・佐藤優。いま日本で宗教を語らせて、もっとも注目を集めるふたりの対談『あぶない一神教』(小学館新書Kindle)。出て2か月近く経ってるけど、まあ新刊あつかいさせてください。


中東での原理主義的過激派組織ISと先進諸国との対立は長期化し、今年はトルコから地中海・中欧を経て大量の難民がEU諸国や米国に流入し、パリでは1月と11月に大きなテロが起こった。

いま日本は自分たちとは違う「一神教」の思考を、最低限は押さえておく必要がある。
「話せばわかる」かどうかはともかく、ある程度先にわかっておかなければ話もできない、ということがあるのだ。

橋爪大三郎は仏教学者・植木雅俊との対談『ほんとうの法華経』(ちくま新書Kindle)を同時刊行。
また一神教関係では荒井献『ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』(2007→講談社学術文庫Kindle)と、


聖書のルーツも見て取れる杉勇+尾崎亨訳『シュメール神話集成』(ちくま学芸文庫)。
後者は『ギルガメシュ叙事詩』に続いて《筑摩世界文学体系》第1巻『古代オリエント集』の一部を文庫化した記念すべきものだ。

日本文学からは3点


今週の日本文学はまず、『ミイラになるまで 島田雅彦初期短篇集』(講談社文芸文庫)。『ドンナ・アンナ』(1986→新潮文庫)から3篇、『アルマジロ王』(1991→新潮文庫)から4篇の計7篇を収め、解説は青山七恵。〈青二才〉を自称していたころの才気煥発な作者20代の短篇集です。
『悪酒の時代 猫のことなど 梅崎春生随筆集』(講談社文芸文庫)は『馬のあくび』(1957)の文庫化。65篇収録で解説は外岡秀俊。


河合隼雄+立花隆+谷川俊太郎の講演と討議、そして谷川の自選作品を収めた『読む力・聴く力』(2006→岩波現代文庫)


ヨーロッパ文学の新訳3点


『カンタヴィルの幽霊 スフィンクス』(南条竹則訳、光文社古典新訳文庫)は、すでに『アーサー卿の犯罪』(福田恆存+福田逸訳、中公文庫)として出てた オスカー・ワイルド(1854-1900)の全短篇小説に加え、詩「スフィンクス」と、親友だった作家エイダ・レヴァーソン(1862-1933)の対話篇1篇、短篇小説2篇(これがすごく気が利いてる!)と「回想」を収録した。


僕の長年のお気に入りは表題にもなっている「カンタヴィルの幽霊」です。幽霊がいわくのある屋敷に出るが、新しい住人である米国公使一家に、どうやっても怖がってもらえない。 ギャグ多数。

これは、いまの日本でもありそうだ。いわくつきの古民家に150年前から憑いてる幽霊が
「うーらーめーしーや……」
と出てくるけど、そこを買った富裕な唯物主義的中国人一家がまったく怖がらない、みたいな。……切ない。

サマセット・モーム『片隅の人生』(1932。天野隆司訳、ちくま文庫)も新訳。作者の南洋を舞台とする一群の小説のひとつ。これはまだ読んでないけど、モームは適度に通俗なところが好き。ハズレがないので買いだ。


ドストエフスキー『白痴』(1868。亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫)の第1 巻が登場した。どうやら亀山先生はドストエフスキー後期5大長篇の全訳に挑んでいるようだ。
善人でおばかさんで無垢な(ホントか?)ムイシュキン公爵の、先の読めない言動が、亀山訳でどうなるか楽しみにしてます。

池内紀『カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり』(1985→講談社学術文庫Kindle)。迫りくるナチズムに批評精神で斬りこんでいった文筆家・編集者カール・クラウス(1874-1936)の評伝は、読むタイミングが改めて来たって感じの改訂・文庫化。


そのクラウスのファンだったヴァルター・ベンヤミンはナチに追われた先のフランスで自殺した。『パリ論/ボードレール論集成』(浅井健二郎編、ちくま学芸文庫)は1冊にまとまって便利。


言語科学の巨人のベスト版


『ヤコブソン・セレクション』(桑野隆+朝妻恵里子編訳、平凡社ライブラリー)は、ロシア出身の20世紀言語科学の巨人ロマン・ヤコブソンの論文を11本厳選してる。


ロシアフォルマリズムから出発し、レヴィ=ストロースに影響を与えて構造主義という思考法を広めさせた、ある意味で20世紀の知の仕掛人だ。
とくに「言語の二つの面と失語症の二つのタイプ」「言語学と詩学」の2本は、人間の思考のありかたをみごとにとらえた論文で、何度読んでも新しい発見がある。これを読み返しているうちに、僕は拙著『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)を書くことができた。

人文科学系ではアルフレート・シュッツ+トーマス・ルックマンの『生活世界の構造』(1973)の新訳、大森荘蔵の『思考と論理』(1986)(以上ちくま学芸文庫)、以前『益田勝実の仕事』第2巻(ちくま学芸文庫)に収録されてた『火山列島の思想』(1968→講談社学術文庫Kindle)、《再発見 日本の哲学》からは「え、もう文庫化しちゃうの? 速!」と思った菅野覚明(かくみょう)の『吉本隆明 詩人の叡智』(2013→講談社学術文庫Kindle)が気になった。


以上、ほぼ週刊「千野帽子のむくどり文庫速報」でした。お買物のご参考になれば幸甚です!
(千野帽子)