姫野カオルコさんの作品の人物や風景が曲作りに影響している ------アノヒトの読書遍歴:吉澤嘉代子さん(後編)

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 昨年、念願のメジャーデビューを果たした、シンガーソングライターの吉澤嘉代子さん。9年前から作詞作曲を始めるなどして音楽活動をする傍ら、私生活では多くの本を手に取って読んできたそう。物語を好んで読み、三島由紀夫さんの小説『女神』には特に思い入れがあるんだとか。そんな吉澤嘉代子さんに、前回に引き続いて日頃の読書の生活についてお話を伺いました。

------吉澤さんが影響を受けた本は、その他にどんな作品がありますか?
「志賀直哉さんの小説『剃刀(かみそり)』は私の中でも影響を受けた一冊です。六本木・麻布にある床屋さんのご主人・芳三郎って方のお話で、この人は癪(しゃく)が強くてすぐにプンプンしちゃう人。"日本男児"みたいな人なんですけど、髭剃りに関してはかなりの名人なんです。そんなある日、芳三郎さんはお店が繁盛している時に体調を崩しちゃって寝込んじゃったんですね。でもお店にはお客さんがいっぱい来ちゃって、奥さんが心配するなか無理やり起き上がって仕事に行くんですけど、何を間違ったのかお客さんの喉にカミソリを突き刺してしまって。殺人または殺人未遂をしてしまう、というようなお話です」

------どんなところが印象深かったですか?
「そもそも『剃刀』が何を表しているものなのかなって考えた時に、これは"男性器"なんじゃないかなと思って。それで芳三郎さんは、疲労しきっている中で仕事を全うしていかなきゃいけないという責任感を持っていたわけですが、その狭間に立たされて、奥さんの事が何だか悩ましく写っていたりするんです。これってもう"ギリギリ"の状態で『自分の命を守りたい』ってことだと思うんですけど、その休みたいっていう状態が一緒に性欲も引っ張っていたんじゃないかな。それで最終的に、若い兵隊であるお客さんの喉にカミソリを突き刺すっていうことで"犯す"っていう結末。それによって欲望放出するってことだったんじゃないかなって思いました」

------この本を読んで、どんな感想を持ちましたか?
「読後感は爽快でした。おぞましいお話なのに、なんだかすごく爽快感があって、それも性欲に結びついているんじゃないかなって。志賀直哉さんがどんな気持ちで書いたのかはわからないですけど、私がすごく志賀直哉さんの小説から感じるのは、いつもどこかで裏切られる瞬間があるということなんですね。それでその裏切り方がものすごく人間らしいなって思って。そこが魅力的で素敵だなと」

------ほかに何か影響を受けた本がありましたらご紹介ください。
「『ツ、イ、ラ、ク』という姫野カオルコさんの小説を紹介します。この本は14歳の若い女の子と先生の禁断の恋愛の物語で、この本に出会った時、ちょうど私も14歳だったんですね。その時私には『大恋愛をした』みたいな経験はなかったんですけど、しっくりきたというかなんというか、すごくリアリティがあって。内容的には結構過激な表現もあって、そういうところはよくわかりませんでしたが......。その中で私が読んでいて思ったのは、主人公と先生の出会いは偶然じゃなくて運命。この主人公が出会うべくして出会ったのがこの先生だったんだなと感じました」

------印象に残っているシーンがあれば教えてください。
「先生の名前は川村先生っていうんですけど、『十四歳をいたわる余裕が川村にはなかった。認めた快感で目一杯だった。隠しごまかし否定し、否定したからにはさらに否定し、否定し続けていた感情を容赦なく破壊して認める快感で』という部分が特に好きです。これは女の子と先生が関係を結んだ後のシーン。川村先生はロリコンなわけではなくて、女の子も先生に憧れたから好きになったのではなくて、この二人だったから、どんな年齢でも結ばれてしまったんだろうなって読んでいて思いました」

------こういった作品は、今の音楽活動にどのように影響していますか?
「そうですね、この作品の中に出てくる学校の風景だったり部活の雰囲気というのが、私の中ですっぽり抜けている青春時代を埋めてくれています。だから姫野カオルコさんは私の青春を作ってくれた人なんです。それで、曲を作る時は、姫野さんの描いた学校の雰囲気とか女の子のやり取りの感じとかを取り入れています。なので『ツ、イ、ラ、ク』には本当に感謝です。私が書いている曲にも影響があるんじゃないかなと思っています」

<プロフィール>
吉澤嘉代子 よしざわかよこ/1990年生まれ。シンガーソングライター。
埼玉県川口市出身。父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。川口駅前などでストリートライブなどを行い、20歳の時にヤマハ主催のコンテスト「The 4th Music Revolution」に出場、グランプリとオーディエンス賞をダブルで受賞した。2013年、23歳の時にインディーズ で1st mini Album『魔女図鑑』を発売し、翌年5月にはミニアルバム『変身少女』でメジャーデビュー。現在は、全国のライブ会場などを中心に音楽活動を続けている。