Lytroのカメラで、人はVR映像のなかを動き回ることができるようになる

写真拡大 (全13枚)

現実が完全に再現された“もうひとつの世界”の映像に入って、そのなかで遊ぶ。こんなことができるVRカメラがLytroの新製品「Lytro Immerge」だ。この不思議な形をしたカメラの開発にかけた想いと未来への展望を、CEOジェイソン・ローゼンサルが語る。

SLIDE SHOW FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN 「Lytroのカメラで、人はVR映像のなかを動き回ることができるようになる」の写真・リンク付きの記事はこちら

2/6

3/6

4/6

5/6

6/6

Prev Next PAUSE EXIT FULL SCREEN

3年前、Lytro(ライトロ)社が初のライトフィールド技術を搭載したカメラを引っさげて突如現れてから、この世界は大きく変わった。

同社のイメージングテクノロジーは、常に画期的だ。彼らのライトフィールドカメラで静止画を撮ると、写真のどこにピントを合わせるか、被写界深度をどう調整するか、といったことを「撮影後に決める」ことができるのだ。突然、これまで静止画では不可能だったことができるようになったのだ(しかも、たった1台のカメラで)。

関連記事「カメラだけを売るつもりはない」〜LytroのCEOに訊く

ライトロの初代および2代目のカメラは大ヒットには至らなかったが、それには相応の理由があった。同社の最初のコンシューマー向け製品である万華鏡のようなカメラは、操作性は基本的なものでありながら、小さなファインダースクリーンが付いて400〜500ドルもし、極端に購買層が限られていた。また2番目のカメラ「Lytro Illum」 は、デジタル一眼レフに似ていてより充実した仕様だったが、これも1,600ドルと高かった。そしてどちらのカメラも革新的なテクノロジー「再フォーカス」という独自の技をもちながらも、高解像度画像をとらえることができなかった。

この2つのカメラにヴィデオ機能はなかったが、再フォーカス機能は動画でも可能である、と彼らはほのめかしてきた。ヴィデオが撮れるカメラをライトロが開発するのは時間の問題だった。

そしてそれが、ようやく登場した「Lytro Immerge」だ。ライトロはヴァーチャルリアリティ(VR)ヴィデオに狙いを定めたと語っている。その技術によって、VR業界全体を根本的に変えようとしているのだと。

世界の完全な再構築

Lytro Immergeシステムは、1年半にわたって開発されてきた同社初プロ用の製品である。これは、ただのヴィデオを撮るためのVRカメラではない。「センサーとそのシステムは完全に一からデザインされています」とライトロCEOのジェイソン・ローゼンサルは語る。

そのシステムの中心的存在であるLytro Immergeカメラは、5つの輪からなる球体で「ライトフィールドヴォリューム」をキャプチャーする。それによってこのカメラを使えば、ユーザーはヴィデオのなかを動き回ることができるという。

「想像してみてください」とローゼンサルは言う。「カメラは静止してますが、そのなかで頭を回したり、背景にあるものを遠くに離したり、あるいは近づけたりできるところを。このライトフィールドヴォリュームでは、あらゆる光を緻密にとらえます。高画質でプレイバックできるようなソフトウェアによって、人間が見る実際の世界の“完全なる再構築”をつくり出すことができるのです」

この機能だけでも、VR映像制作の分野では度肝を抜く話である。だがVRハードウェアという点でも、Lytro Immergeの発表はタイミングがいいようだ。「Oculus Rift」や「HTC Vive」、「SONY PlayStation VR」といったVR位置トラッキング用のヘッドセットのリリースが、すべて来年を予定されているからだ。「Immergeシステムは、これらのすべてのプラットフォームに対応するでしょう」とローゼンサルは言う。

これらヘッドセットはいままで、没入型ゲーム用として提案されてきた。しかし今回、ヴィデオ向けとしては初めて完全にコンピューター環境で、プレイヤーは実際にそのなかを動き回れることになる。映像を位置トラッキングヘッドセットで視聴し、そのライヴ映像のなかで自由に動くことができるのだ。

「カメラのそれぞれのレイヤーは、ライトフィールドセンサーのとても密に配置された波を表しています」とローゼンサルは説明する。装置の中には何百ものセンサーがあり、反射した光をとらえることができる。「レイヤー5つをそれぞれ重ねることで360度に対応し、大体1立方メートルのエリア内の光線を完全にキャプチャーすることができます。ユーザーはその範囲内で動き回ることができ、それに合わせて、周りの世界も変化するのです」

「将来的にはさまざまな撮影状況に合わせて、より広い領域を再現することができるでしょう。輪の外にも行けますが、背景を再現する画像データがないところでは質が落ちてしまい、隙間が出来たりします。これは現在改良している課題点です。でもこのカメラを使うことで、あなたの世界が少し広がることは間違いありません」

すべては始まったばかりだ

Immergeシステムはサーヴァーを備えており、大容量のSDカードを入れる必要はない。カメラひとつで360度のヴィデオ映像を、およそ1時間分保存できるとローゼンサルは言う。 そしてImmergeはプロ仕様であるため、NukeやFinal Cut Pro、Adobe Premiere、Avid Media Composerなどの制作ツールを使って作業ができるようにデザインされている。これらのソフトウェア用にプラグインが準備されており、Immergeヴィデオをインポートすることが可能だ。

「現在、クリエイターや映像制作者は、自らツールやテクノロジーをつくり出しています。それは、ハードウェアからソフトウェアへの制作ワークフローが実際何も存在していないからです」とローゼンサルは言う。「それを行うにはあまりに多くの時間やコスト、エネルギーが必要です。わたしたちは、もっといいかたちを提案したいのです」

もうひとつ、従来のVRカメラとは大きな違いがある。普通のVRカメラは360度全方向をとらえるので、撮影するカメラクルーが映ってしまう。しかしImmergeシステムは、タブレットやスマホで遠隔操作ができるようデザインされている。「これこそが、一度撮影してから編集・加工するためのシステムです」。ローゼンサルは言う。「どんなデヴァイスでも、レンダリングしたり、プレイバックしたりすることができます。ユーザーが興奮するポイントはここでしょう。いまは使用するデヴァイスによって、まったく異なる制作ワークフローをとらなければいけないのですから」

ライトロのパートナーには、VR界の大物もいる。このシステムは老舗VRプロダクションのVrse社Wevr社Felix&Paul社などの意見も聞きながら開発されたと彼らは発表している。ローゼンサルによると、2016年初めには、これらの会社がImmergeシステムで制作した映像が公開される予定だという。

スマホやコンシューマー向けカメラでも使えるのか、ということにはあまり期待しないほうがいい。Immergeシステムは高価で、物理的に大きい。ローゼンサルによれば、手で持って使うというよりは、三脚や台車に載せるようにデザインされているという。ドローンに搭載するには重すぎるようだ。

2016年前半の販売開始時には、価格は数十万ドルになるだろう。映像制作の世界では、ほとんどのプロ用装置はレンタルで使われており、Lytro Immergeのレンタル費用は1日数千ドルになるそうだ。

だが、すべてはまだ始まったばかりだ、とローゼンサルは言う。ヘッドセットの視線トラッキングによる再フォーカス機能、 瞬間的な3Dモデリング、ライヴヴィデオへのCGコンテンツ追加──これらのもっと驚くようなアプリケーションの登場が、未来には計画されているからだ。

「わたしたちの技術を使えば、現実世界の3次元空間すべてをとらえることができます。正確な奥行、陰影や明るさをコンピューター上に正しく調整して合成をすることが、いままであり得なかったくらい簡単になるのです。モーションキャプチャーやCGでレンダリングされた人の代わりに、写真の人物が、実際にヴィデオゲームに登場することを想像してみてください。それがいま、現実になりつつあるのです」

関連記事オキュラスの「アニメ制作工房」は、VRのストーリーテリングを定義する

TAG

CameraLytroVideoVirtual RealityVRWIRED US