安倍晋三首相のブレーンの間では2017年4月に予定されている消費税率10%への増税を再延期するべきだという声が強まり、官邸と財務省の間に緊張が高まっている。国民は消費税増税の再延期や凍結は歓迎だが、果たして安倍政権は本当にそこまで腹をくくっているのか。

 安倍首相は表向き増税実施の方針を変えていない。国会や記者会見で「リーマン・ショック級の国際的な大きな経済的ダメージがあるとの事態と判断する以外は、引き上げを行なうのが我々の考え方」(11月10日の衆院予算委員会閉会中審査)と何度も説明し、自民党と公明党は2017年4月の増税実施を前提に、食料品への軽減税率を導入する協議を進めている。消費増税を延期する気があるようには見えない。

 東京新聞論説副主幹でジャーナリストの長谷川幸洋氏はそれでも「増税延期は既定路線」と見ている。

「今年4〜6月期と7〜9月期のGDP速報値が2期連続マイナスとなり、景気後退がはっきりしている。この景気では消費増税は無理。もし強行すればアベノミクスで公約しているデフレ脱却ができません。

 最終的には国会で来年度予算案を成立させた後、来年5月に発表される1〜3月のGDP速報値を見て決断することになるでしょう」

 現段階でそれをいわないのは、財務省との全面戦争に突入することを恐れているからではないか。

 財務省は強力な予算編成権を武器に政界、財界、霞が関に隠然たる力を持つ。安倍首相が予算編成前に「消費税再延期」を打ち出せば同省を完全に敵に回し、「一億総活躍社会」や「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といった新たな看板政策のことごとくに「財源がない」と予算をつけてもらえなくなり、実行できなくなるからだ。そうなれば安倍政権の基盤そのものが危うくなる。

 すでに財務省は自民党に「増税実施圧力」をかけている。自民党政調幹部が語る。

「来年の参院選を睨んで農業関係にはTPP(環太平洋経済連携協定)対策の補正予算を組み、財界には公約の法人税減税を行なわなければならない。国土強靱化の公共事業の上積みも必要だ。

 しかし、財務省は『消費税を予定通り上げなければ、財源不足になるから予算をつけるのは難しくなります』と説明し、社会保障では医療費の診療報酬引き下げ、農水予算では水田の転作要求、文教予算では教員削減や大学予算削減など、各分野でとても飲めない予算カットを突きつけてきている。

 財界や建設業界、農業団体への公約が反故にされ、医師会の診療報酬がカットされるようなことになれば、党内から選挙を戦えないと官邸への不満が噴き出すだろう」

 予算を「人質」に取って地元や支持団体にバラ撒きたい与党議員たちを増税賛成へと切り崩し、政権を揺さぶるのはこの省の得意とする手法だ。

 過去、民主党に政権交代した直後の09年末の予算編成でも、財務省は「財源がない」と同党の公約だった子ども手当を半額に値切り、一気に評価を落とす原因となった。民主党政権は、最後は消費税増税へと突き進んで自滅に追い込まれていった。

 さらに財務省は今年10月に財政制度等審議会が提出した資料の中で、財政再建が進まない場合、増大する社会保障費を消費税でまかなうためには税率を「最高32%」まで上げなければならないという試算を公表し、安倍政権の増税先送りを牽制している。これも同省の得意な情報操作といっていい。

※週刊ポスト2015年12月11日号