スポンティーニのピザ

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イタリアのピッツアというと、ナポリピッツアを思い浮かべる。縁が厚いナポリピッツァとは一味も二味も異なる、ミラノピッツアを食べさせてくれるピッツェリアが10月30日、原宿にオープンした。1953年に創業し、現在ミラノで8店舗を展開する「スポンティーニ」のカスケード原宿店だ。

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「これがピッツアか」と思いたくなるほどの分厚さ!

スポンティーニのミラノピッツアは、ナポリピッツァとどこがどう違うのか。

ナポリピッツァには、ベーシックなマルゲリータをはじめ、アンチョビが載ったり、生ハムをあしらったタイプなど、いろいろな種類がある。けれど、スポンティーニには、「マルゲリータ」と、トマトソースの上にオレガノをふりかけた「マリナーラ」のみ。ちなみに、スポンティーニのマルゲリータには、バジルのトッピングなし。

料理の出し方にも特徴がある。ナポリピッツァは、ナイフとフォークを使い、ひとりで1枚食べるのが一般的だ。スポンティーニでもナイフとフォークで食べるのだが、直径50センチほどのピッツアを専用カッターで8枚に切り分け、一切れずつ供する「ピッツア・アル・トランチョ」のスタイル。しかもその1枚がかなり厚い。「これがピッツアか」と思いたくなるぐらい分厚いというのである。

ピッツェリア「パルテノペ」の総料理長、渡辺陽一さんの『至福のナポリピッツァ』によれば、もともとイタリアにはピッツアという言葉はなく、フォッカッチャ、つまり平たくのばして焼いたパンに由来するという。ナポリにピッツアのようなものが登場したのは1660年頃。トマトを使わず、ラード、バジリコ、チーズだけで作った簡素なものだった。

トマトソースにオイルをかけただけのシンプルなマリナーラが登場したのは1750年頃。しかも考案したのはピッツア職人ではない。「早朝、海から戻った漁師たちがパン屋に立ち寄り、ありあわせの材料で作らせた」のが、マリナーラの始まりだったという。

ピッツアの元祖、フォッカッチャにも薄いものもあれば、かなり厚いものもある。ローマでは薄くて、カリカリに焼いたピッツアが好まれているようだけれど、ピッツアらしきものが登場した1660年頃、スポンティーニのピッツアのように、分厚いものが食べられていた可能性も高い。

直径50センチもあるピッツァをどう焼くのか。ミラノのスポンティーニで小麦の配合から生地のこね方、焼き方など、すべてのレシピを2ヵ月間みっちりと学んできた田中正志店長に、ミラノピッツアの焼き方を教えてもらった。

本格的なナポリピッツァ同様、スポンティーニでも薪窯を愛用している。けれど、その焼き方はまったく異なる。前者は1分少々で窯から取り出すのに対し、スポンティーニでは優に5分かけて焼くのが特徴となっている。

カウンターの真後ろにあるオープンキッチンで作っているので、どうやって焼いているのか、料理をオーダーする前に、しばらく眺めていたい。料理好きならば、きっとワクワクするひとときを愉しめるに違いない。

まずは数時間発酵させた生地に、ホールトマトとタマネギで作った自家製トマトソースをかける。ここまではナポリピッツァのレシピとほぼ同じだけれど、ここから先がスポンティーニの真骨頂。現オーナーであるマッシモ・イノチェンティさんの父が、1953年に考案した焼き方を踏襲している。

パテッラと呼ばれる鉄鍋にトマトソースを塗った生地を載せる。その上に、大豆油をたっぷりとふりかけた後、パテッラをヘラに載せて、薪窯に入れる。

ピッツアを置く位置も、ナポリピッツァとはかなり異なる。ヘラの上に生地を置き、薪窯の一
番奥に直置きするのがナポリピッツァのレシピだ。ところが、スポンティーニでは、手前でチョロチョロと燃えているおき火の上にパテッラを置くのだ。

「ある程度焼けたところでピッツアを一度取り出します。ナイフで生地を数か所切ったら、再びおき火の上に載せます」(田中店長)

ふんわりと焼けつつある生地を、なぜナイフで傷をつけるのか。それには深い理由がある。大豆油が穴から流れ落ちることで、ピッツアの底も揚げるような感覚で焼くというのだ。底を揚げるように焼くのが、ナポリピッツァとの一番の違いかもしれない。

数分後、再び取り出し、薄く切ったモッツアレラを載せる。チーズはモッツアレラ・バッカと呼ばれる乳牛の乳で作ったイタリア産だ。オーダーによっては、1枚の一部をマリナーラにするため、チーズを載せず、オレガノをふりかけることもある。

最後にもう一度焼く。置く場所は一番奥。温度帯がもっとも高い薪窯の一番奥にパテッラをセットする。モッツアレラ・バッカが溶け出し、おいしそうに焼き上がったら、取り出す。専用カッターで八等分に切り分けば、スポンティーニ特製のマルゲリータとマリナーラの完成。

とろけたチーズをナイフで切りつつ、トングで1枚ずつ皿に持ってくれる。

焼きたてをさっそく注文した。
カステラの半分ぐらいの厚みがある。その上でモッツアレラ・バッカとトマトソースが雪崩を起こし、皿の上に流れ落ちている。

白と赤が入り混じったピッツアにナイフを入れた。フォークで持ち上げようとすると、チーズが餅のようにのびる。とろけるチーズをナイフで切り分け、ピッツアをほお張った。チーズが濃厚そうだが、さほど脂肪分が高くないのか、酸味がきいたトマトソースのおかげなのか、意外とあっさりしている。パリッと焼けた部分と、ふかふかでやわらかい部分があり、食感が愉快だ。

男性でも1枚食べれば、けっこうお腹がいっぱいになる。カップルで1枚をシェアすれば、おやつ代わりにいいかもしれない。

ナポリピッツァ専門のピッツェリアは敷居が高いイメージがある。片や、スポンティーニはファストフード感覚で、本場ミラノピッツアを気軽に堪能できるのが魅力だ。ただし、ランチ時はミラノのスポンティーニのように、行列を覚悟しなければならない。でも、午後3時以降なら、並ばずに本場ミラノの味を賞味できるはずだ。

マルゲリータは1ピース896円、1ホール(8ピース)は5184円。
マリナーラは1ピース842円(価格はすべて税込)。
ソフトドリンクの他、ビールやイタリアワインなどの用意もある。
11月19日、原宿店に続き、渋谷モディ店がオープンした。

【店舗情報】
SPONTINI

カスケード原宿店
〒150-0001東京都渋谷区神宮前1-10-37 カスケード原宿2F
03-6434-5850
11:00〜23:00(LO22:30)

渋谷モディ店
〒150-0041東京都渋谷区神南1-21-3 渋谷モディ 1F・2F
03-6416-4323
11:00〜23:00(LO22:30)