YouTube「ANNnewsCH」より

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「これは絶対にテロだ、出番だ、と思ったんだが、完全に拍子抜けだね」

 今回の事件を受けて、警視庁の公安幹部が担当記者にがっかりしたようにこう語ったという。

 事件とは11月23日に起こった靖国神社爆発事件だ。この日の午前10時頃、千代田区九段北にある靖国神社内の公衆男子トイレで爆破音と共に煙があがった。パリ同時多発テロから10日というタイミングに加え、第一報ではトイレの天井に穴が開くほどの爆破があったと報じられたため、当初は警察関係者もみんなテロだといきりたったという。

 また狙われた場所が戦前の国家主義の象徴でもある靖国神社ということで、「過激派によるテロ」。警察関係者がその線で動き始めたのはもちろん、ネットでは事件直後から"犯人"についてこんな書き込みが溢れた。

「極左勢力の犯行」「左翼過激派のテロだ」

 しかし、現場は時限発火装置、中身が詰まった鉄パイプ、乾電池やタイマーなどが残されていたが、その構造は過激派が組織的に行ったものとは違い、ネットで簡単に調べられる程度のもので威力も弱いものだった。さらに中核や革労協といった過激派組織ならあるはずの犯行声明もないことから、警察内部でも「過激派ではなく、その手口を真似た模倣犯の可能性が高い」という見方が一般的になった。

 すると、間を置かずに出てきたのが韓国、中国人犯行説だった。

「今まで靖国で起こった放火事件は全て韓国人が犯人 今回も間違いなく韓国人が犯人」
「こういうことをやっておいて、朝鮮人はヘイトスピーチだなんだと騒いでいるんだよな おまえらが、原因をつくっているんじゃないかと」
「靖国神社ということは中国人によるテロだな」

 確かに、靖国神社を舞台にこれまで韓国人や中国人による事件が何度か起こっている。2008年には中国籍の男が日の丸を踏みつけ、11年12月にはやはり中国籍の男が神門の一部を燃やす事件があった。その後の13年には韓国籍の男が拝殿に放火しようとして逮捕されている。さらに2000年以降、靖国神社のホームページは断続的にサイバー攻撃にもあっている。

 しかし、これまでの中国人や韓国人の靖国攻撃で、爆発物などが使われたことはほとんどなく、今回はパターンがかなり違っている。実際、公安担当記者も政治テロとの見方を一笑に付す。

「もし本当に政治的に靖国神社を狙ったのなら、公衆トイレなどではなく本殿や拝殿を狙うはずですし、時限発火装置といっても幼稚な作りで爆発能力もほとんどないと見られています。当初、爆発でトイレの天井に穴があいたとされましたが、それは人為的に開けられたものだと判明していますし、トイレ内の壁や床もこげていなかったし、爆発による飛散物もなかったんですからね。警察も素人の愉快犯、しかも単独犯との見方を強めている」

 だが、真相は別にして盛り上がっているのが、過激派や反日外国勢力による"犯行説"。

 しかも、問題は、今回の事件を警察や政府、そして右派勢力がまたぞろ巧みに利用しようとしていることだ。なにしろ今回の事件のタイミングは絶妙だった。11月13日パリの同時多発テロが起こり、日本でもテロに対する警戒感が強まっていた最中に事件は起こったからだ。

また、本サイトでも報じたように政府はパリ同時テロで共謀罪を蒸し返し、また外務省ではNSAや内閣調査室と連携した新たな情報機関「国際テロ情報ユニット」を来年4月新設に向け動き出している。さらに、より広範囲で強固な"盗聴法"改正法案も国会に上程中だ。

「今回の事件で誰が得をするのか。テロもどきの手法で靖国神社を狙ったが、しかし場所は公衆トイレで、実際爆発の形跡もなく、音と煙だけで人的被害もない"なんちゃって爆弾"ですからね。愉快犯どころか、テロの危機を煽りたい右派の自作自演説まで流れている。どちらにしても、警察・公安にとっては損はなく、関係者からは「これで予算が取れる」という声さえ上がったようです」(同前)

 実際、警察、公安はこの事件を大いに利用している節さえあるという。たとえば、この間、現場にあった鉄パイプについて「油の匂いがする固形物が入っていた」「火薬が焼けたあとのようなものがあった」などと様々な情報を思わせぶりにリークしているが、これは明らかに事件を引っ張るために仕掛けているとしか思えないという。

「爆発に必要な火薬が存在したのなら、とっくに分かっているはずですが、それを公表していないのです。公安としてはとにかく事件を引っ張るだけ引っ張って、危機を煽りたいんでしょう。一方、容疑者については、いわゆる愉快犯的な事件にしては信じられないような規模の捜査をしています。この先、容疑者がもし安保反対運動に参加するなど、ちょっとでも政治的な活動に参加していれば、大々的に宣伝するでしょうね。逆に、もしただの愉快犯やネトウヨの自作自演だったりする場合は、事件そのものをフェードアウトさせてしまうかもしれません」(同前)

 いずれにせよ、公安にとって今回の事件は"歓迎すべき"出来事だったという。そう考えると、冒頭の公安関係者の歓喜の声がよく理解できるだろう。

 また安倍政権親衛隊メディアの「産経新聞」も11月25日には今回の事件を利用するかのごとく「テロと戦う法改正を急げ」と共謀罪や盗聴法改正の早期成立を声高に主張さえしている。

「靖国神社の事件は、いつ、どこにでも爆発物が仕掛けられる可能性があることを示している。警備に隙や穴がないよう、万全を期すことはもちろんだが、すべてを守りきることは難しい。だからこそ守りの警備に特化することなく、並行して攻めの警備態勢を整える必要がある。そのための法改正を、まず急ぐべきだ」

 パリのテロや靖国神社の爆発さえ自分たちに都合よく煽り、政治利用しようとする。これはまさに火事場ドロボーではないか。テロに対する備えはもちろん大切だが、その恐怖と同様に、人権を制限され、自由を奪われ、監視される恐怖、弊害を忘れてはいけない。
(野尻民夫)