戦車の疾走感、重量感、砲撃音に大興奮「劇場版ガールズ&パンツァー」

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人気アニメの劇場版『ガールズ&パンツァー 劇場版』について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが熱く語り合います。

藤田、またも萌えミリに警鐘を鳴らす!


飯田 ガルパン、めっちゃおもしろかった! 『マッドマックス』や『ワイルドスピード』と並べて語っているひとを見かけたけど、わかる! わかるよ! タンクアクションの傑作ですよ!

藤田 はい、どうも、右傾エンタメ批判でよく炎上する藤田です。笠井潔さんとの対談『文化亡国論』で、ぼくは「萌えミリ」に警鐘を鳴らしてるんですね!(宣伝)。そこで述べている危惧は、戦争のイメージが、「萌え」に上書きされて、軽いものと思われて、実際の痛みやえぐみを想像しにくくなるんじゃないかということです。今回も、自衛隊が協力しているんで、陰謀を感じ取っています!

飯田 そんなこと言ったら松本零士の戦場まんがシリーズのほうが問題だろ! 新谷かおるの『エリア88』や『ファントム無頼』を読んでたやつは戦争好きになってんのか! 『バルジ大作戦』とか実写の戦車映画だって観客のほとんどはポリティカルな要素とか「戦争とは」なんて重たいこと考えずに単なる娯楽として見ているわけですよ! とくにガルパンは政治や思想的な要素が皆無!w

藤田 辻田真佐憲さんが『たのしいプロパガンダ』で論じているのですが、現在のプロパガンダは洗練されていて、エンタメの形で来るから注意しないとね……というのは言っておきたい。エンタメは、政治とは無関係、というのは、根拠のない「思想」にすぎませんよ。ただし、エンタメを政治や倫理で切るだけというのも無粋なので、そこをうまく両立させて見ないといけませんね。
 さて、ツッコミからしていきますが(笑)、そもそも、女子のたしなみである「戦車道」というものがあり、女の子たちが部活で戦車で戦うわけですが、実弾使ってるじゃないですか。戦車に乗りながら顔を外に出してるし、「絶対死ぬじゃん」思うんですよ。その辺りが「フィクションだな」と思うんですが、今回は「枠物語」を使っているので、それが許容しやすかったですよ。
 つまり、クライマックスを、遊園地という「虚構性を強調した」場所に設定したのがよかったなと。
 元々、空母の中にある街という設定で、「フィクション」の要素を自己言及していましたが、今回、遊園地という場所を戦闘のクライマックスに使ったので、二重(アニメであることを含めると、三重)の虚構性みたいなのが生じて、荒唐無稽な展開への自覚性を感じられた。そもそも、高校の部活なのに、それぞれの高校が色々な国を象徴しているという「ヘン」さも、遊園地の中に色々な国がある――東武ワールドスクエアみたいに――ことで、意識化していたので、許せる感じになっていました。

飯田 戦車道が剣道や柔道のようなスポーツである(殺人術ではない)ことと、これがアニメであって実写ではないことの二重性がガルパンにはある。現実でやってたら死ぬだろ、っていうことでも死なないし、ほとんどケガもしない。デフォルメでありカリカチュアである。そのカッコつきのリアリティのなかでの快楽と迫力を追求したものとしては最上級の作品になっていた。ほんとおもしろかった。

藤田 戦車の動きや戦いは、セルルックのCGなどが上手く使われていて迫力があったし、音響も良かったですよ。戦車萌え、兵器萌えと、キャラ萌えが同時に楽しめる、お得な一品。その組み合わせは、冷静に見ると、とても異様なんですが。

飯田 劇場版になって戦車バトルの迫力がスケールアップしているので(3DCG使いまくりだし音も絵もすげえ)、よけいに二次元の絵とのギャップがすごかった。しかしそれをそんなに違和感なく見られているわれわれ日本人とは一体……という疑問も持たせられたw

藤田 3DCGを、手書きのセル調にするという美学は、不思議ですよね。

キャラ多すぎるのにドラマがシンプルすぎる件


藤田 あと気になったのは、キャラ多すぎw 自分の高校のキャラだけでも二十人くらいいるのに、ライバル校の人たちや、今回の相手役となる大学生のチームとか、あまりにもキャラの数が多い。いきなり見た人は混乱しないかな? 一応、あらすじ説明が本編の前にありますけれどね。

飯田 テレビ放映から3年、OVAからも1年以上だから、忘れてたひとはキャラの把握大変かもね。でもそれを識別させやすくするためのコテコテのキャラ設定だと思うんだけどね。イギリスだと紅茶飲んでる、とかさw キャラも敵サイドはそんなに掘り下げられてないけど味方陣営はみんな見せ場があって、楽しかった。

藤田 敵サイドのキャラは、隊長の愛里寿(アリス)ちゃんはきちんと描かれていましたけど、他の戦車の中の人たちがあまり描かれていないのは、物足りなかった。

飯田 敵チームの掘り下げが薄い点に関しては、それまで第二次大戦の参戦国でチーム分けしてたから、もう戦車の種類がないんでしょうがないw

藤田 キャラ同士の掛け合いや、お約束みたいなのは、結構定型化しているので、初見でも大丈夫と言えば大丈夫だと思いますが。劇場でも、そこで笑いが生じていました。その細部は、全体のドラマにあまり大きく影響しませんしね。
 物語の基本は、廃校になる自分の高校を存続させるために、戦車道の試合で勝たなければいけないというもの。目的はこれだけ。『ラブライブ!』と同じ動機なんですが、「最強を目指す」とかじゃなくて、廃校を防ぐが目的・動機なのは、現代的ですよね。全国の大学教員たちが、共感して見るんじゃないだろうか……(笑)
 しかも、この「目的・動機」がわかるのは、映画が始まってからけっこう経ってからで、それまでは淡々と戦車の戦いを続けているのが、シュールだし、引き締まっているとも言えます。戦車の戦いと女の子の魅力だけで魅せられるという自信を感じました。

飯田 構成としては、まずエキシビジョンマッチの戦車バトルがあって、それが終わると主人公たちの高校の廃校がとりざたされ、大学生選抜と対戦して勝ったら取り消しです、ということになって、エキシビジョンに参加していたチーム勢揃いで高校生オールスターで大学生とバトル……という、すごくシンプルなお話。ほぼ戦車同士の戦いで見せる映画。敵だったチーム同士が共闘するという往年のジャンプマンガ的展開がアツすぎるw

藤田 内容があまりにシンプルですごいw スピルバーグの『激突』とか、『戦闘機対戦車』ぐらいのシンプルさ。

飯田 戦車が走る! 撃つ! 作戦練る! ハメられる! でも巻き返す! それだけでとんでもなくおもろい。戦車の疾走感、重量感、砲撃音、すべてがテレビとは違う圧倒的な迫力! 戦車の主観視点で近距離戦を描くのってテレビ版ではやっていた印象があまりないんだけど、劇場版はうまく使っていてアクション映画として手に汗握る画になっていた。FPSの戦車ゲームを大スクリーンでやっているような感覚があって、こういうゲームやりてえ!(映画館で!) と思った。僕は全然ミリオタじゃないんですが、それでも相当興奮した。個人的には、今年観た映画のなかでも相当上位に入る。

藤田 テレビ版よりも、戦車の描写は格段に力が入っていましたね。主観とか、立体的なカメラワークが取り入れられていて、迫力ありましたよ。

飯田 『スプラトゥーン』もそうだけど、やってることはハデなのに暴力描写はミスマッチなほど薄いのが日本のサブカルチャーらしい点なのかな。洋ゲーとか洋画だったらガンガン人が死にそうだけど、そうしない。まああんな女の子に死なれた日には気分悪いけどw

藤田 実弾使っているのに、撃たれた戦車がやられたら「白旗が出てくる」だし、誰も怪我もしないし血も出ないし、そこはおかしいw ……まぁ、TVシリーズでは、戦車が川に落ちて、それを主人公が助けにいくというのが重要なエピソードとして描かれているので、設定として、絶対に死なないというわけではないと思うんですけどね。「頭を出していたら危ない」とかも、一応ちゃんと作中で触れている。街の損害(壊されたら保証されるし、縁起がいいことになっている)まわりも、気を使って工夫していますね。

「聖地巡礼したくなる画づくり」の大本命の面目躍如


藤田 主人公たちが通っているのは茨城県大洗の高校という設定で、なかなかリアリティのある地方都市描写があるのもよかったですよね。

飯田 あれはたしかに聖地巡礼したくなる街並みの描き方。大洗はロックインジャパンフェスティバルと『ガルパン』のおかげで相当キャラが立った町になったんじゃないかと。

藤田 あのせいで、「SFなんだから」みたいな一種の「言い訳」が効きにくくなって、現実にリアリティ的に近いものとして感じられるようになっているのが、わりとこれまでのアニメと違う部分かなと思いました。そのリアリティの在り方は、先ほどの「三重の虚構性」と合わせて、何か興味深いものです。
 個人的には、看板とか、地方都市のしょうもなさがきちんと描かれているところは、グッときました。

飯田 まとめますが、単純に戦車バトル映画としてすばらしい出来だし、若者が居場所を守るために仲間とともに、そして姉妹で戦う青春映画としても及第点だし、セーラー服着た女の子と戦車と日本の地方都市(遊園地)という異化効果はなはだしい組み合わせについて改めてメタ的に批評しても掘りがいがある、と。

藤田 エッジの効いた作品ですよ。こういう、ある種異様な突っ切り具合の作品が、商業原理によって成立するのが、日本のサブカルチャーの面白いところですよね。