テレビ朝日『報道ステーション』HPより

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 パリの同時多発テロに関する古舘伊知郎の発言が波紋を呼んでいる。11月16日放映の『報道ステーション』(テレビ朝日系)で古舘はパリへのテロは許せない残忍なものだとした上で、しかし有志連合やロシアによるシリアへの空爆についてこう発言した。

「一方で有志連合のアメリカのロシアの、あるいは、ヨーロッパの一部、フランスも含まれますが誤爆によって無辜の民が殺される。結婚式の車列にドローンによって無人機から爆弾が投下されて、皆殺しの目に遭う。これも、反対側から見ると、テロですよね」

 現在、IS掃討を目的とした有志連合、そしてロシアの空爆作戦が続いている。その回数は7000〜9000回という膨大な数になる。しかもいくらISの拠点や施設をピンポイントで狙っているといっても、空爆という性格上、誤爆や周辺の民間人が巻き込まれないわけはない。

 実際10月29日、「シリア人権監視団」の発表によれば、ロシア空爆開始から1カ月で亡くなった595人の死者のうち、3割以上にあたる185人が民間人だったとされる。またアメリカの国防総省でさえも昨年11月には子ども2人が、そして今年3月には子どもを含む民間人4人が空爆によって殺害された可能性を認めている。

 しかも、実際の民間人死者は、公表された数を大きく上回るであろうことは容易に想像できる。

 そう考えると「シリアの民間人からすれば有志連合の空爆もテロ」との古舘発言は至極まっとうな視点での発言だ。

 しかし、日本ではこの古舘発言について大きな批判が巻き起こっている。

「誤爆事故とテロは違うだろ」「テレビで無責任に好き勝手言ってる古舘も見かたによってはテロだ」「日本を貶めたいとしか思えんわ、ほんとに」「テレ朝の報道もテロ テロ朝日」「炎上商法をやってるだけ」

 毎回毎回、本当に嫌になるが、悲しいかな、こんな意見がネットでは大手をふって横行しているのだ。

 確かに今回のパリの同時多発テロは、欧米を中心とした世界のメディアで大きな衝撃を持って伝えられた。同時にその瞬間を捉えた生々しい映像も多く存在する。9.11もそうだが、こうした映像は人々の脳裏に焼きつき、恐怖を植え付ける。同時にISやテロリスト、さらにはイスラム社会に対する憎悪も容易に持ちやすい。

 しかし一方で、連日のように行われているシリアへの空爆で、どんな悲惨なことが起こっているのか。人権団体の報告からも、パリの同時多発テロで犠牲になった人々以上の子どもを含む民間人が犠牲となり、悲惨な現実が起こっているのだ。彼らは決してテロリストでもなれば、殺される理由すらない。なぜ、そうした想像力を持たないのだろう。

 もちろんこうした空気を生み出しているのは、メディア報道が大きな原因だ。シリアやイラクの民間人が有志連合の空爆によって殺されているような都合の悪い映像は、日本を含む欧米メディアではほとんど報道されることはない。
 
 実際、シリアではないが3年前のパキスタンで、米軍の無人偵察機に襲撃され、ケガを負った13歳の少女ナビラ・レフマンちゃんの存在を、欧米メディアの多くは無視し続けている。

 欧米という、自分たちの側にいる人々が犠牲になったテロにのみ激しい憤りをみせる一方で、中東の人たちが空爆で犠牲になっても自分たちには関係のない話として無視してしまう。それが現在行われているテロ・IS報道の実態なのだ。

 古舘の発言はこうした隠されたテロ報道、もうひとつの現実に目を向けただけであって、何の問題もないどころか、むしろジャーナリズムにとって絶対に必要な視点と言っていいだろう。
 
 こんな程度の発言にまでいちいちクレームをつけ、総攻撃をするというのは、いったいこの国の世論というのはどうなっているのか。

 こうした圧力の背後には、もちろん、安倍政権と自民党の扇動がある。

 実際、自民党は例の文化芸術懇話会での言論弾圧発言で反省したと思いきやまったく逆で、安保法制報道を契機に、さらに放送局への圧力を強めている。今年9月末には、自民党「放送法の改正に関する小委員会」の佐藤勉委員長が、テレビの安保法制報道を問題にして、「公平・公正・中立は壊れた。放送法も改正したほうがいい」と、露骨な恫喝発言をしている。

「自民党は党内でテレビ番組を徹底チェックするシステムを敷いています。とくに、テレビ朝日とTBSについては、ものすごく細かいところまでチェックしていて、少しでも問題だと思ったら、即、抗議、同時に、ネトサポを使ってネットに情報を拡散するんですよ」(政界関係者)

 実際、『報道ステーション』に対しても、20日、マリで起こった立てこもり事件についてコメントした古舘に対し、自民党の佐藤正久議員がTwitterで噛み付いている。

「報道ステーション、日本人が巻き込まれた事件、遺族のことも考えて数字は正確に」

 番組で古舘がマリの事件に関し、邦人が殺害された2年前のアルジェリア人質事件に触れているが、その際「日本人7人が死亡」とコメントしたが、実際は10人だったというものだ。しかし、これは当初の政府発表が7人であり、その後10人と訂正されたもので、まさにイチャモンの類と言っていいだろう。

 また、こうした安倍政権、自民党と連動する形で、右派の圧力も活発になっている。『報道ステーション』だけでなくTBS『NEWS 23』にも、例の安倍礼賛本を書いた小川榮太郎らが中心になって、読売、産経新聞に全面広告を打つなど、大々的な抗議行動を展開しているのは周知の通り。

 おそらく、今回の古舘発言の炎上もこうした自民党・右派勢力のテレ朝・TBS狙い撃ちの延長線上で出てきたものと考えて間違いないだろう。

 ますます追い詰められるリベラル報道だが、しかし、古舘にはこうした圧力に屈することなく、これからも正論を発し続けて欲しい。

 右派勢力がどれだけヒステリーを起こそうとも、国家による暴力がテロ根絶にはまったく結びつかず、それどころか新たな憎しみを生み、テロを助長することは、歴史が証明している事実なのだから。
(伊勢崎馨)