遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第84回】

 沖縄県で行なわれた『ツール・ド・おきなわ』への参戦で、2015年シーズンを終了させたTeamUKYO。このレースには、TeamUKYOを率いる片山右京監督も、市民レースの部で参戦した。走行距離は210km。プロライダーと同じ距離に、今年で52歳になった彼はなぜ挑んだのか。本人に話を聞いてみた。

 11月8日に沖縄県本島北部で開催された『ツール・ド・おきなわ』に参戦した片山右京は、6時間00分46秒435で完走した。このレースは、プロフェッショナルライダーたちが競う国際レースと市民レースがあり、片山が参戦したのは市民レースの部門だ。「市民レース」とはいっても、総レース距離は国際レースと同じ210kmで、上位選手のレベルは国際レースに参戦していてもおかしくないくらい競技水準は高い。

 6時間に及ぶ長い戦いを終えた片山の順位は「74位」。参加294人中、完走を果たした143名のちょうど真ん中だ。

「まあ、なにを言っても"たら・れば"になってしまうし、反省することも多いけれども、8月に参戦すると決意してからしっかりした走り込みを行なえたのは1ヶ月半だったことを考えれば、『俺はよくがんばったなあ』と思いますよ」

 そう言いながら少し照れたような表情を見せ、レース本番までのトレーニングを振り返った。

「SUPER GTのレースでスポーツランドSUGOに行ったときは、空いた時間に蔵王に登って35km往復してきたり、鈴鹿のF1に行ったときでも夜に走れる場所を探してひたすら登りのトレーニングをして、メタボ化していた体重を10キロ落とした状態で臨んだから、(ツール・ド・)おきなわのレースでも登りはすごく快調だったし、楽に走れたんですよ。

 でも、練習量はやっぱり嘘をつかない。6時間のレースは自分にとって未知の領域だったけど、まあとにかく長くて暑くて、脚もつりっぱなしでした。だから走っている最中には、『自転車、パンクしねえかな』なんて言い訳を探している自分も、正直、いましたしね(笑)」

 だが、実はそうやってつらい思いを自らに科すことが今回の参戦の目的のひとつだったのだ、とも片山は話す。

「フェイスブックにもレース前に、これは自分に対する禊(みそ)ぎだとか、修行だとか、何回か書いたりしたんですが、要するにどういうことかというと、ツール・ド・おきなわに出る少し前のころ、実は自転車が少し嫌いになりかけていたんですよ。いろんなことが起こるたびに、スタッフに愚痴をこぼすようになってたり......。

 たしかに今年のTeamUKYOは、Jプロツアーで個人と団体の両タイトルを獲得したし、全日本(選手権)でも1−2フィニッシュできたし、活動4年目で経済産業大臣旗(輪翔旗・りんしょうき)を獲得できた。でも、いつも言うように、本当に大事なのはここから先じゃないですか。そこで待ち受けているものが今までと比べものにならないくらい大変で、厳しくつらいのはわかりきっている。

 自分は果たしてそれを我慢できるだろうか。これからいくつもやってくる難関を乗り越えていけるだろうか。今までいろんな人たちに支えてもらい、応援してもらっていた立場から、今度は自分が応援する側の立場に回ったとき、社会人として大人として人間として、苦しくても逃げずに皆を支えていけるだけの情熱が自分のなかにあるだろうか......。

 でも、今回完走してわかったのは、『うん、大丈夫だ』と。

 自分のなかにエネルギーは十分に残っているし、たとえたったひとりになったとしても、ツール・ド・フランスに行くまでこの事業を継続していける――という覚悟をあらためて再確認できました。今回、おきなわに参戦したことで、気持ちのなかでその線をビシッと引くことができたと思います」

 6時間で完走を果たしたツール・ド・おきなわを終えて、すでにしばらくの時間が経過したが、今でも毎日1時間は必ず自転車に乗っているという。今後も機会があれば、大きなレースに参加する意思や予定はあるのだろうか。そう訊ねると、片山は、少し考えるような表情を見せながら口を開いた。

「ケガや体調を損なうリスクの可能性を考えると、自分が長時間のロードレースを走るのは、もうひょっとしたら難しいかもしれないですね。でも、ヒルクライムなら(競技の)時間も短いし、万が一、落車して転んでも、鎖骨を折るなんてよっぽどのことがないかぎりあり得ないだろうから、そういうのに参戦するのは悪くないのかなあ......なんて思ったりね。

 心の張りとか、コンディションの維持とか、年齢への挑戦とか、そういったことを考えると、『マウント富士ヒルクライム(富士スバルラインを5合目まで駆け上るサイクルイベント)』なんかに出てみるのは面白そうかもなあ、と思っています」

 そして、こうも付け加えた。

「逃げるのはラクで簡単だけど、僕の立場では、それをやってはダメなんですよ」

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira