11月20日から行なわれた東京SC招待記録会。初日の男子100m平泳ぎで優勝した北島康介(日本コカ・コーラ)は、両手を大きく広げてガッツポーズをした。

「優勝というのは久しぶりだったし、泳ぎも前に比べてだんだんと良くなってきています。それにここの東京スイミングセンターは僕が育ったホームでもあったので。優勝回数はハム(萩野公介)が(あと)3回くらい出れば抜かれるだろうけど、出場回数なら一番だと自信を持っていますから。僕はここで強くなってきたし、当時はジュニアオリンピックの次に大きな大会だと思って頑張っていました」

 北島はガッツポーズの理由をこう説明した。記録は1分01秒95。タイムとしては遅いが、強化期間であるこの時期の1分02秒切りは久しぶりのこと。

 今年の10月28、29日のワールドカップ東京大会では50m26位で100mは31位、200m36位とすべて予選落ちだったが、今回は世界選手権代表の小関也朱篤(ミキハウス)を0秒28つき放す結果を残した。

「リオに出るためには、来年4月の日本選手権に向けて準備をしなくてはいけないけど、そのひとつの過程としてこういう記録会はたくさんあります。4月につなぐために、いい泳ぎをきちんと練習しなければいけないけど、その覚悟はできています」

 こう話す北島の泳ぎは、手の掻きと足の蹴りなどのバランスも取れたものだった。このまま積み上げていけば、派遣標準記録の59秒63も見えてくると表情は明るい。

 そんな泳ぎの良さを再確認できたのは、翌日の200mだった。決勝では全盛期を思い出させるような、大きく伸びのある泳ぎをした。ストローク数は最初の50mと100mまでが14で150mまでは15。ラスト25mは少し急いで18と増えたが、大きな泳ぎで2位以下との差をジワジワ広げると、最後は立石諒(ミキハウス)に1秒16差をつける2分13秒08で優勝した。

「今日は水の抵抗を少なくするために、きちんと伸びる泳ぎをしていこうと考えて、1ストロークを泳ぎました。今回の13秒で派遣記録(2分09秒54)切りも見えてきたと思う。ただ、200mは層が厚くて派遣記録を切ってくる選手がたくさん出ると思うから、リオ五輪に出るためにまずは、100mできちんと派遣突破のレベルに持っていく必要がある」

 こう話す北島は、今の泳ぎの良さを「まだまだだけどうまく泳ぎのタイミングが合ったし、うまく体を使えたというのもありますね。上半身の移動と蹴ったあとの体の形も、この時期にしてはいいポジションを保てていたと思う」と話す。

「調子が最悪だった」という10月末のワールドカップを経て、この時期で泳ぎがまとまってきたというのは、北島にとって大きなプラス材料だ。この泳ぎをベースに、11月27日からのスペイン・シェラネバダでの高地合宿に臨めるからだ。

「まだ、たいした練習はしていないですよ。スピードが出ていないのでいい姿勢が最後まで保てたのかもしれないけど、こういう泳ぎができるようになれば、もっとスピードも上がって、後半も耐えられるようになるので。この大会で体にきっちりと負荷をかけられたというのが、記録より一番大きいかなと思いますね。ここから強化をしていけると思うので、じっくりと焦らずに、持久力のベースを少しでも上げて戻ってきたいな、という気持ちになっています」

 そんな北島の泳ぎを見て、平井伯昌コーチは「派遣標準のレベルになるまでにはもう一山もふた山もあるだろうけど、今回は正直2分08秒前半も無理な感じはしない」と評価する。

「去年は200mに力を入れていたわけではないけど、今年は本人もリオデジャネイロ五輪に向けて200mも視野に入れていくと言っていたので。今日は175mくらいからはいっぱいいっぱいになって、終わってから座り込んでしまうほど力を出し切った2分13秒だったけど、泳ぎがきちんとしているからこそのガソリン不足かなと思いますね。これまでは忙しくて、練習に本腰を入れられない状態でしたが、高地合宿に納得して行けるというのは大きいし、今の康介なら高地でやることの全部が身につくだろうな、という感じです」

 北島は「(4月の)日本選手権も100mだけだと2日目で終わるから、200mもきちんと狙って大会を楽しみたい」と笑う。だがその心の内にあるのは200mで泳ぎを作り、それを100mにも活かしていこうという考えだ。

 それは彼と平井コーチが取り組み、58秒91の世界記録(当時)として結実した08年北京五輪まで道のりでもある。その後のロンドン五輪へ向けては新しい泳ぎも意識した。

 平井は「今は、きちんと基本に戻ろうとしている気持ちがある」と言う。

 彼らは今、"スイマー・北島康介"を作り上げてきた道を再びたどりながら、最後の五輪へ向けての戦いを始めようとしている。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi