『日本の奨学金はこれでいいのか!奨学金という名の貧困ビジネス』(奨学金問題対策全国会議編/あけび書房)

写真拡大

「借金が500万円もある女性と結婚するなんて嫌だよね。もし順調に返せても40代まで借金返済が続くなんて」

 これは大学を卒業した20代の女性がつぶやいた言葉だ。彼女は消費者金融などから借金をしたのではない。大学進学時に奨学金を利用しただけだ。

 住み込み派遣、年金受給者向けの無料低額宿泊所、ネットカフェなど、社会的経済的困窮者をターゲットとしたビジネスを"貧困ビジネス"と呼ぶ。しかし近年"貧困ビジネス"のなかに学生を対象とした「奨学金制度」が含められるようになり、大きな衝撃とともに社会問題となっている。

 現在、日本学生支援機構の奨学金を借りる学生は激増している。平成24年度「学生生活調査」によると4年生大学昼間部の半数以上の52.5%が何らかの奨学金を受給しているのだ。これは15年前の約9倍にあたり、しかもそのほとんどが有利子という"借金"だ。そして多くの学生たちが卒業後この借金返済に苦しんでいるという。

 これに対してよく言われるのが「借りた金を返すのは当然」「今の若者は甘えている」といった、自己責任論だ。しかしそれは現在の若者、学生を取り巻く環境、そして異常なまでの授業料高騰を知らない"無知"によるものだ。

 この問題を検証した『日本の奨学金はこれでいいのか!』(奨学金問題対策全国会議・編/あけび書房)には、奨学金とはサラ金と同様であり、様々な事情を一切考慮することのない非情なまでの取り立ての模様が描かれている。

 まずは、そのシステムを見てみよう。例えば月に10万円を借りると、4年間の貸与総額は480万円になり、利率を3%とすると返還総額は645万9510円。そして毎月の返還額は2万6914円で、返還年数は20年間となる。

「結婚を考えてみましょう。大学卒業後の5年間、毎月満額をしっかり返しても、返還残額は484万4670円です。スタート時に500万円弱の借金を背負っていることが、結婚生活に与える影響は少なくないと思います」

 その後、子育て費用も捻出しなければならないし、両親ともに同額の奨学金という"借金"を背負っている場合もある。大学を卒業しても正規雇用されないケースが増えており、それを考慮すれば負担は増大だ。しかも問題は延滞者への回収やペナルティの強化が進んでいることだ。

「延滞が3カ月に達すると、延滞者の情報を個人信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター)に登録します。一度登録されると、延滞が解消してからも5年間は登録されたままとなります。登録された期間はローンやキャッシング、クレジットカードの審査には通らない可能性が高くなります」

 それだけではない。延滞した場合、救済措置はほぼない。返済猶予や延長はあるが、それは基本、延滞金付きだ。そして支払いは延滞金、利息、元本の順となり、延滞金は10%で、元本の10%以上の金を支払わなくてはならなくなるという。

 サラ金と指摘される所以だが、本書では難病を患い貧困状況にあるL子さん(26歳 2010年卒業)のケースが紹介されている。L子さんは大学4年間で480万円の奨学金を借りた。ところが卒業と同時にバセドー病を発症して収入が減り、9カ月延滞してしまう。

「ところが支払いが滞り、返済開始から1年も経たない2011年9月1日に一括請求されます。未払い元金はこの時点で19万円。元金だけをみれば9か月分の滞納です。その状況で、月末の27日までに500万円以上の金を一括で払え、という内容です」

 もちろん支払えないL子さんだったが、日本学生支援機構はすぐに裁判所に支払督促を起こす。L子さんの困窮状況を知った上でだ。しかも裁判で日本学生機構はほとんど歩み寄る姿勢さえみせなかったという。

 このように、滞納者に対して一切の事情を鑑みず一括返金を求める。それが日本学生支援機構なのだ。

 日本学生支援機構には、経済苦や病気の事情がある場合、利息や延滞金を免除したり、支払いの一時猶予制度や卒業後に専門学校などへ行く場合の在学猶予がある。だが、こうした制度さえ知らされず、督促裁判を起こされるケースも多い。そして、とことん延滞金にこだわるという。こうした姿勢について同書にはこう記されている。

「サラ金などの返済が困難になった場合、債権者と債務者が裁判所で話し合うという費用が安く、比較的穏やかな手続きがあります。特定調停です。ところが、日本学生支援機構は、この特定調停でも歩み寄りの姿勢がないのか、現状ではほとんど活用されていない模様です。件数すら集計していません。そして、問答無用といった調子で支払い督促や差し押さえを繰り返しているのです」

 一度滞納すれば、容赦ない取り立てを行う。それは生活保護を受けていても例外ではない。本書では奨学金のため苦境に立たされた人々の声がこう紹介される。

「病気のため非正規職で働きながら生活保護を受けています。卒業後、しばらく奨学金の請求がありませんでしたが、突然、支払うように言ってきました。もう18年くらい、月に1000円〜2000円ずつ支払っています」
「うつ病になって仕事を辞めました。返済猶予の5年を使い切り、減額返還制度を利用するようになりました。最長10年間月々の返済額を半額にしても54歳までかかります。パートの手取りは9〜10万円。減額後の返済額は1万6000円ですが、延滞すると減額が認められなくなります。とても結婚や出産は考えられません」
「失業中です。返還額猶予の年数を使い切り、連帯保証人である父のところに請求が来ています。おじも保証人になっており、迷惑をかけたくありません。自分が死んで支払いを免れるなら死んでしまいたい」

 実態はまさにサラ金以上のブラックぶりだが、しかし一方で、そこまでして大学に進学しなくても、との声も存在する。先日ホリエモンこと堀江貴文がツイッターで「奨学金を貰ってまでいく価値のある大学とかどれだけあんの?」とつぶやき物議を醸したが、もちろん無理してでも大学に行く理由が現代にはある。それが高卒求人の激減で就職が厳しく制限されていることだ。

「(1992年をピークに)高卒求人数は急速に減少していきました。1995年には64万7000人とピーク時の半分以下となり、2011年には19万5000人にまで減っています」

 これは景気の変動とは別に、非正規雇用の増大や業務の複雑化など構造的な問題があるという。高校を卒業しても正規雇用されず、求人も少なくては無理をしても大学に行くしかない。

「2011年度の高校新卒者の求人倍率は0.68倍、なかでも北海道は0.29倍、東北では0.32倍、山陰地方で0.46倍、北九州で0.45倍、南九州で0.33倍と極めて低くなっています。この状況では、家計が厳しくても、就職するためには大学に進学せざるを得ないと考える人々が増加するのは当然でしょう」

 こうして何重もの社会の構造的問題が存在し、自分ではどうしようもない理由で、卒業後も奨学金に苦しめられるのが現在の若者なのだ。では奨学金問題の解消のためにはどうすればいいのか。

 本書では大学授業料の無料化や貸与ではなく給付型奨学金の充実、延滞金撲滅などの指摘がなされている。

 しかし根本的な問題解決には、国や政府の政策転換が絶対に必要だろう。1億総活躍社会を謳うなら、まずはこうした若者の教育、育成にこそ金を使うべきだ。
(伊勢崎馨)