パトリック・カーンズ『セックス依存症 その理解と回復・援助(Out of the Shadows)』

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 先日、俳優のチャーリー・シーンさんが、HIV感染を公表した。以前から自宅に娼婦を何人も呼んで乱交パーティーを行い、性依存症ともささやかれていた。噂では5000人以上と関係をもったともいわれ、感染が判明してからも多くの女性と性交を重ねたという告白に衝撃が走っている。

 単にセックスが楽しいというだけではなく、セックスをしないではいられない、セックスなしには生活が送れないほど渇望するようになると、それは依存症だ。残念なことだが、シーンさんの場合、HIV感染という転機があってもセックス依存症から回復することができなかった。

 2004年に中央法規出版から邦訳が刊行された『セックス依存症 その理解と回復・援助』という本がある。原題は「Out of the Shadows」。巻末に書かれている情報によると、著者のパトリック・カーンズはアリゾナ州にある嗜癖専門の治療施設の性生涯部門担当の臨床ディレクターである。

 そのような現場に従事する専門家によって書かれた本書は、具体的な事例を多く紹介しており、アメリカでは広く読まれた。日本で出された翻訳版は、残念ながら現在は書店での入手は難しくなっているが、「セックス依存症とは何か」を知る上で重要な文献だと言えるだろう。

 この本の最後のほうに、嗜癖者(依存症者と言い換えてもいい)がしばしば持ってしまう、誤った4つの中核信念というものが書かれている。次のようなものだ。

〇笋聾詰茵⊆抂で、価値のない人間だ。
△△襪ままの私を誰も愛してくれない。
もし人に頼る必要があるなら、私の欲求は決して満たされることがない。
ぅ札奪スは最も大切な私の欲求である。あるいは、セックスは愛情の一番大切な印である。

 この誤った信念は、「12のステップ」という回復のための手段を経ることで、次のように変えることができるとカーンズ氏は書く。

〇笋聾悗蠅肪佑垢覯礎佑△訖祐屬澄
△△襪ままの私を知る人から私は愛され、受け入れられている。
自分の必要としているものを知らせると、私の欲求は他の人によって満たしてもらえる。
ぅ札奪スは私の欲求や他の人への心遣いの一つの表現にすぎない。

セックス依存症に変化をもたらす「12のステップ」

 このような変化をもたらす「12のステップ」とは、本来はアルコール依存症の自助グループのために作られたものをセックス依存症の人たちのために作り変えたものだ。その内容は以下のようになっている。

〇笋燭舛魯札奪ス依存症に対し無力であり、思い通りに生きていけなくなったことを認めた。
⊆分を超えた大きな何かが、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
私たちの意志と生きかたを、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。
ざ欧譴困法徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表につくった。
タ世紡个掘⊆分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質をありのままに認めた。
Δ海Δ靴神格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
Щ笋燭舛涼蚕蠅鮗茲蟒いてくださいと、謙虚に神に認めた。
┿笋燭舛傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった。
その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わせをした。
自分自身の棚卸しを続け、間違ったときには直ちにそれを認めた。
祈りと瞑想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージをほかの人に伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した。

 この「12のステップ」に書かれている言葉は、宗教的な色彩も強く、日本人にとってはやや抵抗を感じる人もいるだろう。だが、ここで重要なのは、自分の欲求や葛藤といった個人的な感情を、より大きな何らかの存在にゆだねるという姿勢そのものだと言える。

 性に関する強迫的な観念を、「もう一段上の視点」から眺められるようになったとき、セックス依存症からの回復の道は始まっている。


里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。