リアルな政治運動世代の作るガンダム! 「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」

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安彦良和のコミックが原作のアニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。富野由悠季の描くキャラクターや世界観との違いとは。

飯田 『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』第2話「哀しみのアルテイシア」がイベント公開(劇場公開)&Blu-ray発売ということで。ORIGINアニメ化第一弾である第1話「青い瞳のキャスバル」を観たときには、CGで描かれたモビルスーツがぐりぐり動くので「安彦さんの原作とちげえ! もっと丸みのあるやわらかい描線で機械を描かなきゃ!」とかって違和感を覚えたんだけど、さすがに2作目ともなると観慣れまして。見どころはアルテイシア(幼女)の「スク水やべえええ」ってところと「モビルワーカーかっけええ」の2点だと断言したい。
 お話的にはORIGINアニメはファーストガンダムの前日譚で、サイド3がなんでジオン公国として独立したのか、ジオン・ズム・ダイクンが死んじゃってザビ家に権力掌握されちゃったときって具体的にどうだったの? 等々を描いた、シャアの貴種流離譚ですね。追放されたジオンの王子が帰還して……という流れ。

藤田 一応、基本としては、シャアが、『スターウォーズ』で言う、ダースベイダーになるまで的な、ファーストに繋がるキャラクターたちの前日譚ですよね。シャアと、妹のアルティシアが中心。意外と、ミライさんとかも、ちょこちょこ絡んでくる感じで出てくるのが驚くと言えば驚きますね。
 まずぼくはいわゆる「宇宙世紀」の設定などにはあまり関心がない、というエクスキューズをつけた上で、現代の一本の作品として観ての感想なんですが、『ORIGIN』のIはかなりいい作品だなと思いました。相対的に、IIはちょっと退屈しました。でも全体は、安彦良和さんの映画だなと思って、かなり楽しんでいます。

飯田 富野由悠季のキャラクターと比較すると安彦キャラはウェットだよね。ORIGINに出てくるランバ・ラルがのちにファーストのハードボイルドなオッサンになるふうには見えない。アルテイシアも、あれが毅然としたセイラさんにどうやってもならないと思うんだよ。

藤田 Iの冒頭のモビルスーツ戦は、CGで作られた板野サーカスで、むちゃくちゃよかったですね。絵コンテも安彦さんがやっているからか、作品全体のカットに意味と緊張感がみなぎっているし、CGも手書きでも、いい動きしていますよ。気持ちいい。
 キャラの性格はウェットですね。でも、世界観は、軍事的にも政治的にも、『オルフェンズ』よりエグい部分もあるんですよ。「ガンタンク」が、もろに戦車と同じような「兵器」として描かれているところとか。何故か、軍事っぽさとかキナ臭さのリアリティが、このガンダムは高いんですよ。

新左翼経験者の描くガンダム!


藤田 そして、さすが新左翼経験があるだけあって、暴動とか、大衆蜂起の描き方や、組織同士の謀略の描き方、心理戦などがうまい。『虹色のトロツキー』の作者だけありますよ。

飯田 安彦さんは学生時代、弘前大学でのちの連合赤軍メンバーの近くにいた人だからね。

藤田 安彦さんはべ平連(ベトナムに平和を!市民連合)に参加して活動していたわけですよね。ベトナムへのアメリカの攻撃に怒って、独立を求めた。その心境は、アメリカに支配されていた当時の日本の「占領」「独立」の心情と重なっていたというのは、笠井潔さんの著作などを読むと感じるのですが、ORIGINにも若干、アメリカ・日本の占領・独立の要素が混じっている感じがしますね。

飯田 なんたって1968年を思わせる「宇宙世紀0068」からスタートだから、全共闘華やかりし(?)ころの時代は意識しているだろうね。帝国主義・資本主義に抵抗する運動がこじれて独裁国家になっちゃうっていうジオンの描き方は、カンボジアとかミャンマーとかあたりのことが頭にあるのかな。

藤田 政治運動をやってみて、その内部からの腐敗や裏切りを見てきた人の書く作品、という印象を受けます。ジオンの運動をザビ家が乗っ取るのを、シャアが苦々しく見ているあの顔。グッときます。
 崇高な理念が政治的謀略で横取りされ、腐敗していく。そのプロセスを見させられる映画ですね。心情的に、ぼくはすごくグッとくる。

歴史感覚の違い?


飯田 70年代〜80年代には四方田犬彦『貴種と転生』や笠井潔『物語のウロボロス』で論じられたように「偽史」を描く伝奇小説が流行り、その担い手には団塊世代(笠井潔『ヴァンパイヤー戦争』など)も多かったわけですが、『ORIGIN』にもその手つきを感じた。正史のウラの歴史を描く手法。……そもそもファーストガンダム字体が「宇宙世紀」というある種の偽史を扱っているんだけど、そのもう一回ウラを描いている。
 安彦マンガには『ヤマトタケル』みたいな古代史を描いた作品と、満州国を描いた『虹色のトロツキー』みたいな近代史を描いた作品の二系統があって、どっちも「国がどうやって勃興したか」という歴史の発生(しかも通説とは違うもの)を描き続けてきたひとなので、そのやり方で宇宙世紀を扱ったと。
ただ『ORIGIN』のみならず、富野(『∀ガンダム』)も福井晴敏(『ガンダムUC』)も宇宙世紀を総括しようとした作品をつくっているわけだけど、個人的には宇宙世紀にケリをつけてまとめようとするその気持ちがよくわからない。直線的な歴史に回収しようとしている気がして、違和感がある。

藤田 「歴史」というものが「勝者が作ってしまう」ということが、敗戦とGHQの政策などの影響が強かったので、皮膚感覚にある世代なのかもしれません。スガ秀美さんも、『1968年』の中で、「疑史的想像力」と68年を結び付けた話をしていたので、政治運動が生み出した感覚かもしれません。
 しかし、ファーストから、それぞれが、それぞれに「宇宙世紀」の歴史を語り始めて相対化が始まる現象は、結構面白い感じがしています。『スター・ウォーズ』でも似た現象が起きていますが。
今や、「並行世界で」って処理しちゃって終わりになりますからね。その辺りの歴史への感覚は違うかな、と。ループしてやり直すとか、そういう話には絶対にならなそうじゃないですかw やはり何かの感覚は違う気がします。

飯田 『UC』のオチは、最初は「おー、ラプラスの箱ってそういうことか」って思ったけど改めて最初から観返したら「うーん……こんなのであんな大きな戦争になっちゃったの?」って疑問で。歴史をすべて総括しようとすると話が大きくなるから、自然と観る側の評価も厳しくなるせいもあるだろうけど。
あと『UC』終盤はシャアのパチモンみたいなフル・フロンタルが仏様みたいに後光(日輪)を背負っての時空の旅に突入して「いやあ、やっぱガンダムは宗教アニメ」って白目になった。

藤田『逆襲のシャア』の時点で、結構宗教アニメじゃないですか? ニュータイプ周りの設定が、ニューエイジの宗教じみていて……

飯田 ファーストからそうだよw ララァが死ぬあたりなんて完全にサイケアニメ。

藤田 ララァはインド系の少女として描かれていましたよね。あれはニューエイジ的な匂いがしましたね。ニュータイプによる理想郷を作ろうとするのも、ヒッピームーブメントの夢に似ている感じがしています。その挫折した夢を諦めきれないのが『逆襲のシャア』。

独立した作品として見よう!――前日譚モノの難しさ


飯田 富野が描くシャアはヤリチンのはずなのに妙にマザコンというか女々しいやつという感じだけど、安彦さんのシャアは母体回帰願望とかなさそうというか、そもそもあんまセックスしなそうじゃないですか。

藤田 それはわかりませんがw 
 政治劇とキャラクタードラマを重ねると、「え? こんな世界を巻き込んだ大戦争が、お前ら数人の感情的な因縁?」ってなる展開が多くなるんですよね。初めて明らかになったときは驚くんですけど、冷静に考えると、途中で死んでいる雑魚兵とかかわいそうになってくるし、腹立ってきますねw
 たとえばORIGINも、シャアがどんなに苦労しても、あとで、ララァという少女に母を見出して、その私怨でコロニー落とそうとするのか…… と思うと、なんかバカらしくなってきますからw 独立して観た方がいい気がします。

飯田 独立した作品として描いてると思う。「ファースト以降の宇宙世紀ものは、自分は関わってないから知ったこっちゃない」みたいなこと言ってたもの。なお安彦さんは『宇宙戦艦ヤマト2199』のデスラーが「え、そんな個人的な動機なの?」って造形になっていたことに対してちょっと苦言を呈していたw

『ガンダムORIGIN』アニメシリーズへの期待


藤田 安彦さんは、割と、個人よりも、状況とか政争を書くのが上手いと思いますね。一つの組織の中にも、色んな意図の個人がいるとか、その機微の描き方がうまいなと思いましたよ。

飯田 かっこいいはずの脇をみんな三枚目にしちゃうのは気になる。ドズルもラル家親子もマヌケにしちゃうでしょう。女キャラはみんなジメッとさせるし。キシリアでさえウェットなところつくっちゃう。ギレンくらいかな、絶対悪として君臨しているのは。
 最初に言ったけど、原作の絵はメカメカしくないので、モビルスーツ/モビルワーカーの戦闘シーンはアニメ独自のかっこよさだなと思って、3話目以降には期待しています。

藤田 メカニカルデザインは、オリジナルの大河原邦男さんを含めて、五名もいるので、メカには期待できそうですね。ガンタンクと、モビルワーカーの時点で、相当いいですよ。

飯田 冷静に考えるとジオンの政争をわざわざアニメで見たいかっていう気もするんだよねw むしろアムロが主人公の本編を今の技術で見せてよって。今回のシリーズが当たったらそっちもやるかもしれないらしいけど。

藤田 ぼくは、ファーストからZまでの間にやさぐれていくアムロを見たいw