自由民主党HPより

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 案の定だ。パリ同時多発テロ事件を契機に、自民党=安倍政権が共謀罪の新設を口にし始めた。

「テロ撲滅で資金源対策を含む国際条約ができているにもかかわらず、日本はまだ(共謀罪などの)国内法が整備されていないので批准できていない」(高村正彦副総裁)
「来年、日本はサミットがある。テロ対策には相当、意を用いなければならない状況になった」(谷垣禎一幹事長)

 このように、副総裁と幹事長という自民党の最高幹部が今月17日、そろって現行の組織犯罪処罰法を改正し、"テロ対策のために"共謀罪を新設する必要について言及。さらに、閣僚である石破茂・地方創生担当相も「共謀罪は必要」と明言している。

 共謀罪はかつて3度国会に提出され、すべて廃案になっているが、このままいくと4度目の上程が確実な情勢と言っていいだろう。

 しかし、この共謀罪は、特定の犯罪が実行されていなくとも、2人以上の人が話し合うなどし、犯罪を行おうと合意するだけで適用され、人権を侵害する可能性の高いきわめて危険なシロモノだ。

 その危険性、問題点について、日弁連で刑事法制委員会事務局長をつとめる山下幸夫弁護士に聞いてみた。

「そもそも、共謀罪はなんの危険も発生していない段階で成立する犯罪なんです。会合等で直接話し合うほか、電話やメールによるやりとりであっても"犯罪をやろうとする合意"があれば共謀罪と解釈されうる。ですが通常、そもそも誰が何を話し合ったかということ自体、なかなか外部から見えづらいですよね。しかも、それが犯罪に関する合意なのかについても非常に判断が難しい。逆に言うと、この曖昧さがゆえに、捜査機関にとっては恣意的な運用が可能になります」

 山下弁護士は、こう指摘する。つまり、長期4年以上の法定刑を定める全ての犯罪について警察が強引に「犯罪に合意した」と見なせば、検挙できるのだ。しかも、目配せやジェスチャーなどで口外していない場合や、あるいはいつも一緒にいて行動をともにしているなど、そうしたことですら"暗黙の共謀"と見なされる場合がありうるという。また、共謀罪は「○○罪の共謀罪」などのかたちをとるが、第一次安倍政権下で国会に修正案が提出された2006年当時では、600以上の犯罪に適用されようとしていた。そして、厳罰化が進む現在では、実に700近くの犯罪が対象になると山下弁護士は言う。

「つまり、非常に幅広い犯罪について共謀罪がつくられることになります。想像しやすい例をあげましょう。たとえば、いわゆる万引きは窃盗罪ですから、万引きをしようと話し合ったが実行はしなかった場合でも、共謀罪として検挙されうる。他にも、たとえば、公園の公衆トイレに落書きしようとし話し合っただけで、逮捕されてしまう可能性もあります。以前、イラク戦争に反対する男性が、公園の公衆トイレに『戦争反対』と落書きをして、その落書きが建造物損壊罪にあたるとみなされ、有罪判決をうけた判例があるんですね。これまでの法案では建造物損壊罪は共謀罪の対象になっていますから、これも実際に落書きしなくても話して合意したと見なされただけで、逮捕されてしまうということになります」

 そもそも通常の法概念では、犯罪の実行度に関連して「既遂」「未遂」「予備」に区別され、とりわけ予備罪はごく一部の重大犯罪に限られるが、さらに「共謀」は「予備」よりも段階が低いとされている。にもかかわらず、共謀罪が一般的に制度化すれば、非常に広範囲に、しかも捜査当局の恣意的な判断で検挙が可能となる。

「こんなものまで?と思えるものにまで共謀罪がつくられますから、警察としては摘発をしようと思えば、こうした犯罪のいずれかに当てはめればいいわけです」(山下弁護士)

 当然、懸念されるのは言論の萎縮だ。今年9月、安倍首相のポスターの顔写真に落書きをしたとして、男が器物損壊容疑で逮捕されたことがあった。が、たとえば、ある人物Aが国会議事堂の壁に落書きをしたい旨をツイッターに書き込んだ場合。別の人物Bが、そのツイートに「面白いね」「いいじゃんそれ!」などという好意的な文言を添えてメンション(ユーザー名を含めたツイート)、あるいは文章を引用した上でリツイートしたらどうなるか。AとBはお互いの文章を認識しているはずだが、そこで犯罪を行う合意が成立しているかどうかの判断は極めて困難と言わざるをえないだろう。

「一方的に書き込んでいるだけならともかく、何人かの人がやろうやろうというふうに反応しているということがあれば、合意が成立していると見なされるかもしれません。冗談ということもありえますから、それがどれだけ具体的な犯罪の計画に関する話し合いなのかということをある程度問われるとは思いますが。しかし、たとえば日頃からよく国会前のデモに行っている同じグループの人たちの間での会話、しかも今度行ったときにやろうというような内容と見なされれば、それは共謀が成立するというふうにも考えられますね」(山下弁護士)

 繰り返すが、共謀罪のキモは、実行されていないにもかかわらず、"話し合いと合意"だけで逮捕されるということだ。とりわけ、政権批判のデモや言論活動が幅広い適用によって共謀罪に問われるというのは、安倍政権の独裁的な傾向を考えれば十分に現実的なシナリオだろう。

 総合すると、共謀罪は、その範囲の広さや曖昧さから、国家権力による恣意的な運用を招き、人々の思想や言論、表現の自由を脅かす恐れがあるデタラメな代物なのである。こんなものを決して認めるわけにはいかないだろう。

 だが一方で、今回自民党が共謀罪の新設の必要性を説く一番の理由は"テロ対策"だった。国際テロの防止と、実行されていない万引きや落書きの取り締まりがどう接続するのか理解に苦しむが、その理屈はこうだ。

 国連は00年、各国共通の処罰法整備を目的とする「国際組織犯罪防止条約」を採択し、03年に発行した。日本は、現在にいたるまでこれを批准していないが、法務省は、そのためには国内法で共謀罪をつくらねばならないと主張(外務省HP「組織的な犯罪の共謀罪に関するQ&A」より)しており、冒頭の高村副総裁の発言はこれを指している。

 しかし、これはまったくの詭弁と言わざるをえない。山下弁護士は「たしかにこの条約自体は国連加盟国のほとんどが批准しているものです」と前置きしつつ、こう解説する。

「ですが、国際組織犯罪防止条約自体はもともと本来テロ対策のための条約ではありませんでした。これはマフィアや日本でいう暴力団など、経済的な利益の獲得を目的とする組織犯罪に対応するためにつくられたものです。アメリカの同時多発テロが2001年におこりましたが、条約はその一年前の2000年12月に署名されています。つまり、9.11の前。アメリカは"実はこの条約は組織犯罪のための条約だけれども、実はテロ対策のためのものでもある"と条約を読み替えていますが、本来、これは"テロ対策"のための条約ではないです」

 安倍政権もこのアメリカの考えを踏襲し、その上で共謀罪の国内法が必要だと主張しているのだ。第一次政権下での修正案の提出についてはすでに述べたが、他にも13年に成立した特定秘密保護法のなかには秘密漏洩に関する共謀罪が組み込まれており、その直後にも一般的な共謀罪の成立を目指す声が自民党内から噴出していた。以降、国会ごとに法案提出の議論が続いているが──。

「テロ対策は、ほとんどの国際条約を批准し、日本はそれに対して法律もつくっています。国際組織犯罪防止条約について批准していないから、合わせてテロ対策と言えば共謀罪をつくることができるであろうという考え方だと思います。もうひとつの問題もあります。本当に、先に述べた700近くの共謀罪をつくらなければ条約を批准できないのか。実は、世界的にはそんなことをやっている国はどこにもない。日本はあきらかに"外圧"を利用して法律をつくるために、ここまで批准に時間がかかってしまっているということ。批准しようと思えば、いまでもできるはずなんです」(山下弁護士)

 つまるところ、自民党は条約を曲解し"テロ対策"と喧伝するが、それはまさに名目で、本丸は共謀罪の新設そのものなのだ。

 パリ同時多発テロを利用し、極めて危険な法律をつくりだそうとする安倍政権。その目的は、監視社会の構築と憲法の破壊にある。共謀罪はそのパズルのピースのひとつだ。次回も、さらにこの問題を追及していきたい。
(梶田陽介)