一・二軍/年齢別割り当て打席(セ・リーグ・2015)

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ベテラン偏重の巨人、阪神、中日…連覇途絶えた巨人は転換のチャンス

 前回のパ・リーグに続いて、今回はセ・リーグ各球団の野手育成戦略を打席の割り当てから推測していく。グラフは「各球団が一軍と二軍の試合において、どの年齢の選手にどれだけの打席を割り当てたか」を示している。

 パ・リーグのグラフと比較すると、セ・リーグは全体的に一軍における右側への偏りが目立つ。実際に打席数で重み付けした加重平均を取ると、野手の平均年齢はセ・リーグの方がおよそ1歳高くなっており、パ・リーグと比べ野手の世代交代がやや遅れているようである。

 特に巨人、中日、阪神は主力野手のベテラン化が著しく、リーグ野手平均年齢を大きく引き上げる結果になっている。この3チームのここ10年は優勝争いに多く絡める状況にあり、目の前の成績を優先しがちだったようで、近年は応急処置的に他球団のベテラン選手を獲得する補強が目立った。そのため若手にチャンスを与えにくく、現時点では中堅の年齢帯で主力化している野手が少ない。痛みのともなう世代交代が迫っていると言えるかもしれない。

 ただし、いずれのチームも一軍がベテラン化しているという共通点を持ちながら、二軍については異なる形のグラフを示している。3チームの二軍の運用方針の間には大きな差異があるようだ。

 巨人は二軍においても30代以上に多く打席を割り当てており、若手野手を育てる場所というよりは、一軍主力野手の調整場所としての色合いが特に強くなっている。V9以来となるセ・リーグ4連覇が懸かっていたため、実績から数字の読みやすい相川亮二と金城龍彦を補強してシーズンに臨んだこともあり、ベテランが過剰に存在する状態だったことも影響している。

 しかし結果的に巨人は優勝を逃した。連覇が期待される状況ではなくなったため、来シーズン以降は若手野手に打席を割り当てる余裕が生じると考えられる。また、高橋由伸、井端弘和、金城らベテラン勢の引退も続いており、二軍の運用方針を変化させるタイミングが来ている。

 2015年のドラフト会議では、巨人は三軍の設置を見据え育成契約も合わせてセ・リーグ最多となる16人の選手を指名し、育成のスピードと精度を促進させる狙いが見て取れる。巨人における二軍の位置付けは間違いなく変化しつつあると言えるだろう。

じっくり育てる中日は停滞、若手に厚み出つつある阪神

 次に、同じくベテラン化が進行する中日に注目する。特徴として25歳前後の大半が二軍の試合にしか出場しておらず、一軍に定着できていない様子が確認できる。これは、主力になれないまま中堅層に当たる年齢を迎える野手の多さを示している。

 中日の落合博満GMは監督時代から、「20代の間は土台を作る時期」という寛容なスタンスで知られており、そうした野手育成に対する姿勢が目に見える形になっているようだ。しかし、そうしたスタンスで育てた中日の野手が、以前のような貢献を生み出せなくなっているのも事実であり、落合GMの方針は行き詰まりを見せていると言える。

 27歳頃に働き盛りを迎える一般的な野手の成長曲線から考えると、20代後半以降はあまり成長が期待できないため、この年齢を迎えても一軍に定着できない野手には見切りをつけ、より若い選手に入れ替えていくべきなのかもしれない。

 阪神の一軍は、打席数で重み付けした平均年齢が12球団で最も高くなっている。打線の中軸を担った鳥谷敬、福留孝介、ゴメス、マートンの4人は30代を迎えており、一刻も早い世代交代が必要な状況だ。

 しかし、阪神首脳陣は打つべき手は打っているようである。ベテラン化の著しい一軍とは対照的に、二軍の年齢分布はセ・リーグの中では左に寄っており、積極的に若手野手を起用する方針がうかがえる。世代交代の準備は着々と進められていると見てよいだろう。

 二軍における個人成績を見ても、既に一軍に定着しかけている梅野隆太郎と江越大賀、ウエスタンリーグで規定打席に到達し、4位の打率を残した中谷将大など、20代前半で優秀な成績を残している野手も目立っている。ベテラン化の進む3チームの中では、阪神が最も早く世代交代を完了させるのではないだろうか。

少し心配なヤクルトの次々世代の野手、結果が求められるピーク間近の広島

 ヤクルト、広島、DeNAの3チームは25歳前後に主力選手が多く存在することから、既に世代交代を完了させたと見てよいだろう。この3チームは直近10年間で下位に沈むことが多かったため、目先の成績にとらわれることなく野手育成を行えたという事情もあるのかもしれない。次の10年間は巻き返しの時代にしたいところだ。

 山田哲人、中村悠平、川端慎吾ら2010年前後に獲得した高卒野手の育成に成功し、ヤクルトは世代交代を上手く完了させたばかりの状態だった。チームが14年ぶりの優勝を決めた背景には、彼らの活躍があったことは周知の通りである。

 ただし、二軍では若手野手が枯渇状態となっているようだ。相次ぐ若手野手の台頭を受け、首脳陣はドラフトの方針を近年では投手中心に切り替えており、そのしわ寄せが来ている状態になっている。加えて夏頃は故障者が続出したため、昨年引退した阿部健太が育成選手登録され、野手として二軍数試合に出場する事態も発生した。

 育成する場所として二軍をとらえたときに、こうした事態が及ぼすチャンスロスの大きさは計り知れない。パ・リーグにおける西武と同じく、野手を重点的に指名する年をそろそろつくってもよいのではないだろうか。

 広島の一軍は、ヤクルトと同じように世代交代を完了させたばかりの状態になっている。ただし、働き盛りの年齢に主力選手が集中している点が異なっており、これはチーム全体の力が頂点に近づきつつあることを意味している。

 野手育成の観点から見ると、現在は言わば「収穫期」に当たる期間であるのに加えて、他球団が世代交代でつまずいている状況は大きなチャンスと言える。チームは四半世紀にわたり優勝から遠ざかっているが、そろそろ負の歴史を断ち切りたいところだ。

 DeNAは全打席の3割以上を25歳以下の若手選手に割り当てており、若手を中心とした戦力編成への切り替えを推し進めるチームの方針が確認できる。近年では金城龍彦、多村仁志、中村紀洋、鶴岡一成ら高齢選手の退団が目立つのも、この方針と連動していると考えられる。

 若い選手で構成されるチームの脆さが出たのか後半戦に打線が大きく得点力を落とし、結果的にこれがチームの低迷に繋がってしまったが、今シーズンは「目先の勝利は狙わず、育成に徹するフェーズ」だったことを考えれば、前半戦を首位でターンできたことは大きな意味を持つと言える。

 チームの年齢層を考えると、まだまだチーム力の上積みが期待できる状況であるのは間違いない。筒香嘉智、梶谷隆幸ら次世代を担う強力な若手野手も台頭している。チームが「収穫期」を迎える数年後に期待したいところだ。

DELTA・竹下弘道●文 text by DELTA TAKESHITA,H

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1〜3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。算出したスタッツなどを公開する『1.02 - DELTA Inc.』(http://1point02.jp/)は現在ベータ版を公開中。