しみじみと語ってくれた俊輔の言葉を借りれば、香川がアシストやゴールなど代表でゴールに直結するプレーを出し切れないカギは、やはり「周囲との連動性不足」ということになるのだろう。ただ、今の代表活動日数の少なさを考えた時、そこまで息の合ったハーモニーを構築するのは簡単ではない。実際、次に日本代表として活動できるのは来年3月。それまでの4カ月間はそれぞれが所属クラブでのプレーに専念することになる。

 俊輔が代表の大黒柱だった時代は国内組の比率が現在より高く、Jリーグの試合日程が比較的緩やかだったこともあって、定期的な短期合宿でチームコンセプトを徹底し、選手同士のコンビネーションをすり合わせる時間を持つこともできた。環境の変化も、背番号10の苦悩を深める一因になっているのだ。

「それでも香川はすでに代表で23点取ってるでしょ。この数字に彼の活躍ぶりが表れている。そのことは忘れちゃいけない」と俊輔は自らの代表通算ゴール数24にあと1と迫った後継者へのリスペクトを忘れなかった。確かに、最近の日本代表の停滞は、決して彼だけの責任ではない。

 日本は自分たちよりレベルの下がるアジアのチームと戦いながら、ワールドカップ基準を視野に入れたチーム作りを進めなければならない。欧州トップクラブにいる香川は、日常的に世界基準に身を投じながら、急にアジアとの戦いにギアチェンジすることを求められる。それがいかに困難なのかは、代表で10年間戦い抜いてきた男が誰よりもよく理解している。

「日本代表が一番難しいのは、アジアと戦う時は相手が引いてくるのに、ワールドカップ本大会になると真逆になること。結果として、自分たちの力ををすべて出そうとして惨敗するか、岡田(武史=現FC今治代表)さんの時のように、しっかり引きつつカウンターを狙う攻撃を有効的に使うしかない。その方向づけをするのはやっぱり(日本サッカー)協会だと思う」と彼は今後に向けて重要な提言をしてくれた。

 アジアでの戦い、世界への挑戦という二面性を求められるのは日本代表の常。だが、代表の方向性をしっかり模索すると同時に、俊輔が言うように重責を背負いすぎている香川の役割をもう少しシンプルにさせられないものか。アジアを、世界を、そして日本代表を知る中村俊輔の言葉は非常に重い。現役選手だけに直接のアドバイスすることが難しいのは理解できる。だが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督や日本サッカー協会は先駆者の声を真摯に受け止め、2016年以降に生かすべきだ。それだけの説得力が、中村俊輔にはある。

文=元川悦子