実力と人気の比例しない世界がアイドルのよう「ワンパンマン」

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集英社のサイト「となりのヤングジャンプ」で連載中のマンガが原作の『ワンパンマン』について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

俺TUEEEのパロディかつジャンプマンガのパロディ


飯田 『ワンパンマン』は俺TUEEEのパロディであり、ヒーローもののパロディであり、ジャンプのバトルマンガのパロディだよね。ユーモアがありつつ、でも「ヒーローとは」という主題にまじめに取り組んでいる作品。

藤田 『ワンパンマン』、アンパンマンのパロディの一発ネタかと思いきや、意外といい展開していますね。一発のパンチで敵をやっつけてしまう強すぎるヒーロー・サイタマが主人公の、ギャグマンガと言えばギャグマンガ。
 マンガは『となりのヤングジャンプ』に掲載されているのですが、ONEさんがネットに連載しているものを原作に、村田雄介さんがツイッターで声をかけて共作して、それで『となりのヤングジャンプ』に掲載が決まったとか。ネット時代のリアル『バクマン。』的な経緯の作品なんですね。

飯田 オリジナルのONE版村田版もウェブでほぼ読める。村田版は最初の10話くらいは読めないけど。
 原作のONEさんの味のある絵だとサイタマの最強感が適度に中和されてイヤミにならないんだけど、村田さんとかアニメ版みたいにあんまり絵をすごくしすぎるとただの俺TUEEEに見える。まあ、それが気になるのは序盤だけだけど。

藤田 TUEEEへの皮肉と、「最強」を目指すとか「世界征服を目指す」とか、そういう昔ながらのヒーローや悪人の「動機」に共感できない感覚を表しているマンガですね。シニカル。でも絵柄は緻密でカッコよくて躍動感もある。

飯田 だんだんサイタマよりも他のヒーローたちを描くほうに軸足が移っていくんだよね。サイタマは最終的に「ごちゃごちゃうるせーボケ」的な感じで解決するときに出てくる水戸黄門的な立ち位置になる。

藤田 他のヒーローたちの物語を入れていかないと、話が持たないですからね…… パンチ一発で勝っちゃう、「最強」は虚しい、という一発ネタを引き立て、同時に物語を持たせるには、「普通のヒーロー」を出すしかないかと。

飯田 最初は主人公のハゲマント(サイタマの通称)が一撃必殺のパンチを持つ最強キャラで「おいおい」っていうギャップで見せていたマンガが、だんだんスーパーヒーロー大戦になっていく。アベンジャーズ的なというか……大量に出てくるヒーローたちが、最初はテキトーに作っているように見えるんだけど、いちいちちゃんとキャラ立ってるのがすごい。

藤田 いい加減な名前と設定の、ヒーローと敵役を無造作にたくさん出して次々死なせるというのは、なかなか大胆ですよね。重要なヒーローに関しては、割と長持ちさせるようになっていますが。
 後半の内容は『アベンジャーズ』とか『ウォッチメン』とか『コンクリート・レボルティオ』に近いですね。ヒーローがいっぱい乱立して、内ゲバすらしてくる展開も。その中で、『ワンパンマン』は、気の抜け方、突き放し方では、一歩抜きんでていますね。

飯田 ヒーローとかアイドルとか、20世紀後半には一回人気が落ちていたように見えたものが21世紀に入って復活しているのがふしぎっちゃふしぎだね。もちろん、かつての形態とは変わっているんだけど。

ヒーローとアイドルの復活! やたら数が増えて……


藤田 「数がやたらいる」に形態を変化して復活してくる、というのが、不思議ですね。
 読者のキャラ萌え(あるいは推し)のエコノミーとしては、沢山のバリエーションがある方が、選んで好きになれるから、メインがかっちり決まっているよりもいい、っていう、単純なそれだけの要因で「ヒーローやアイドルが、沢山いる」タイプの作品がこれだけ増えたのかもしれないですが、時代も関係あるかもですね。

飯田 「数が多すぎていちいちみんな世間で認識されてるわけではない」「実力と人気は比例しない」「派閥があってめんどくさい」等々が最近のアイドルっぽい。『ワンパンマン』の世界は。

藤田 怪人などをやっつけたことを報告するか、メディアの前などでアピールするとか、周辺の住人に報告してもらうとかしないと、ポイントが上がらないというシステムですよね。
 ヒーローがランク制なのは、なんかソーシャルゲームとかのレベル上げ感覚で面白いですね。主人公は、それを結構どうでもいいと思っているのも。

飯田 「実績=認知」なんだよね。知られてないと存在してないのといっしょ。

藤田 でも、主人公のハゲマントは、ある意味でメディアイメージの中で作られる「人気」がどうでもいいと思っているから、どうやらそれに痛い目に遭うような展開になりそうなのを匂わしていますね。それも『ダークナイト』で、バットマンが市民の支持を得られなくなるとか、ありがちな展開なので、もうちょっとひっくり返してくれるかな。

飯田 月光仮面とか初期の仮面ライダーみたいに「ヒーローは正体を知られちゃいけない」存在じゃなくて、ワンパンマンワールドでは積極的に露出しないといけない。

藤田 むしろ、カメラの前で、カメラを意識しながら敵を倒さなきゃいけないヒーローですよ。なんかそこ、同時代感あるなって思いましたよ。なにしてもネットに書かれたり写真とか動画撮られて風評に影響する。
 助けたのに悪者扱いされるとか、ランクが上昇するとズルをしているのではないかと疑われるとか、デマを流されるとか、そういうことと戦う展開になっていますからね。だからこそ、気の抜けたあの主人公の造型が、生きてくるというか。それを気にしない精神力が大事というか。

飯田 ランク制を導入すると目的と手段を混同する(人々を守ったり救うために戦うのではなくて、ランク上げるためにヒーローをやる)やつがいるのも、すごいあるある感。

見た目の人気と実力の違いを、マンガの絵で表す!


飯田 「ハゲマントは実力があっても不人気」「イケメンだと実力以上に世間では人気」って、画力があると話に中身がなくても人気が出てしまうマンガ家の比喩みたいでおもしろい。
『ワンパンマン』はONE版の味のあるポンチ絵(※僕は大好きですが)でも全然おもしろい、つまり「マンガは絵よりもネーム!」と思わせる作品だから。「マンガは画力!」「絵がヘタだと読めない」とか言ってるのどうでもよくない? 本質そこじゃなくね? って言っている話だと思って読むといいと思う。もちろん、絵も大事だけど。

藤田 その通りですね。ワンパンマンだけが、『ちびまる子ちゃん』のおじいさんみたいな絵柄ですからね。他は、カッコイイ絵柄なのに。
 しかし、絵がうまいのは、いいですよ。あの絵柄でこういう内容をやるっていうののギャップがいいなって思いました。まさに才能の無駄遣い感があって。コマ割りとかも、うまいなと思いましたよ。躍動感があって、漫画として読んでいて気持ちいいんですよ、ハゲマント以外の部分も。

飯田 村田版は『となりのヤングジャンプ』(ウェブ)連載ということを活かして、紙だと許されないような見開き連発とかをいろいろやっていて、もちろん絵の見せ方という点でもすごい作品なんですが。

藤田 確かに、そう読むと、非常によくできた自己言及ですね。

ウェブ出身だからこその奇跡的なバランス



藤田 『バクマン。』が、かつてあったジャンプマンガ的な遺産を、別種の形で現在に蘇らせようとしているとしたら、『ワンパンマン』は、過去のマンガの蓄積が大量にあるのを、スーパー無駄遣いしている感じがします。最初の方の一話でやられる怪人一人で、『寄生獣』全巻のテーマみたいなこと言ってますからねw

飯田 少年マンガに対する自己言及とか脱臼をしつつ、少年マンガ的なことをやって、かつちゃんとおもしろくするという七面倒くさいことをよくこんなにもやれるなあ、って本当すごいと思う。
 だいたい新人とかが「かっこよくないヒーローを主人公にしよう」とかって「お約束外し」をすると、全然気持ち良くない作品になって「もっとストレートにやったほうがよくない?」ってことになりがちだけど、『ワンパンマン』はエンタメに仕上げていて、うまい。

藤田 よくこんな絶妙なバランスができましたよね。ウェブだからこそできた冒険、アイデア勝負って感じがしますね。いきなりこれを『ジャンプ』で連載は難しいだろうって気もします。

飯田 ここまでキャラ増やして広げちゃって、かといってラスボスとか最終目的を設定してないっぽいから、畳むのは大変だと思うけど……

藤田 マーヴェルのヒーローものでは、敵のインフレがハイパーありえないレベルまでいくらしいので、『ワンパンマン』もそっちまで行ってほしいですね。宇宙と戦うとか、全平行世界と戦うとか、時間を操る相手とか、神とか、全部ワンパンチでやっつけてほしい。

飯田 懐かしのRPG『魔界塔士Sa・Ga』で「ラスボスの神は実はチェーンソー一発で殺せる」みたいな話だけどw

藤田 映画『ピクセル』もそうでしたけど、ネットに「アイデア」を出して、それが人気になったり、気に入った人たちが出て、大きなプロジェクトになるという流れは、意外と好循環なようですね。意外性のある作品が、ちゃんと出てきている。

飯田 ウェブのいいところと、集英社のマンガのいいところが幸福な出逢いをした作品。

藤田 主人公が強い理由がよくわからないのもいい。似たもので言えば、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』かな、と。でも、あれは絵柄が完全にギャグなので、ちょっと味が違う。

飯田 力の由来をくだくだ説明しはじめたらやばいかもしれない。つまんなくなる可能性が……。そこは伏せといてほしいなあ。ゴルゴだってなんで強いのか、断片はあれこれ描いているけど結局わかんない。そうしないと神秘性が薄れちゃう。

藤田 個人的には、とても爽快、かつ、今まで読んだことのないタイプのマンガで、アニメ化されるだけのことはあるなと思いましたよ。もっとキワモノかと思っていたら、キワモノなんだけど、基本的に美味しい寿司の中に、異様な味のわさびが入っている感じ。

飯田 僕もワンパンマン文句付けるところないですね。

藤田 今後が心配になるぐらいでしょうか(笑)

飯田 うん。

藤田 なんか、番外編のいくつかを読むと、「いい話」っぽい方向にも流れつつある感じもするんですよね。毎日筋トレとランニングしようよ、とかw
 「そっちに着地しちゃうか?」と、読みながら、色々とドキドキしています。今後も楽しみです。

飯田 全国のハゲに希望を与える作品です。クリリンのことかー!!!