昨年12月、南アで世界初のペニスの移植手術に成功! Borna_Mirahmadian / Shutterstock.com

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 2015年3月、「南アで世界初のペニスの移植手術、成功!」のニュースが世界を駆け巡った。

 3月13日に発表されたリリースによると、2014年12月11日、ステレンボッシュ大学泌尿器科のアンドレ・ファンデルメルベ教授とタイガーバーグ病院の医療チームは、割礼による感染症が原因でペニスを失った21歳の男性に、脳死ドナーから提供されたペニスを移植した。手術時間は9時間。移植3カ月後の診断によれば、移植されたペニスは排尿機能と生殖機能を完全に取り戻し、正常に働いている。

 従来、ペニスを失った患者の外科的治療は、本人の腕の皮膚や筋肉を採取後、シリコンなどのプロテーゼ(支柱)を注入してペニスの形状に整形したうえで、患部に植え付ける陰茎再建術が施されてきた。再建されたペニスによる性交は可能だが、使用感の煩わしさに加えて、体内に異物を挿入するため、合併症が発症するリスクも避けられなかった。

 今回の陰茎移植は、どのような術式で行われたのか? 執刀したファンデルメルベ教授らは、実体顕微鏡(マイクロスコープ)で患部を目視しながら、提供されたドナーのペニスの切端部と患者のペニスの切端部に残存する微細な血管と神経を吻合(ふんごう)し、尿道と海綿体を繋いだ。吻合とは、血管や神経の切端部をピッタリと縫合することだ。このような手術用の実体顕微鏡下で行うマイクロサージェリーは、脳神経外科、血管外科、耳鼻科、眼科、形成外科など、非常に微細な患部の外科的手術に広く応用されている。

 ファンデルメルベ教授らは、ペニスの機能回復は2年程度かかると見込んでいたが、わずか3カ月で排尿機能と生殖機能が正常化。若い男性患者の未来に希望を灯した。

南アでは割礼による感染症で死者も続出

 今回、陰茎移植を受けた21歳の男性は、3年前に受けた割礼後にペニスが壊死(えし)する重篤な合併症を発症し、生命の維持が危ぶまれたため、ペニスを切除された。

 このような事態が起きたのはなぜか? 21世紀の現在も、東ケープ州など南アフリカ共和国の一部の種族は、伝統的な成人儀式として割礼(包皮切除)を行っている。これらの種族の男性は、18歳〜19歳になると約1か月間、人里離れたやぶや山にこもる。頭の毛を剃り、体に白い粘土を塗り、ペニスの包皮を切り取る割礼を受け、種族の長老から成人らしさや男らしさの規律を学ぶという。

 南ア政府は安全で衛生的な割礼を行政指導しているものの、不衛生な環境の中で未消毒の刃物を使って切除するため、切断した傷口の感染から合併症が頻発し、腐敗してペニスを失う若者も少なくない。2013年の保健当局の発表によると、割礼の失敗で男性30人が死亡、293人が脱水症、壊疽(えそ)、傷口の感染などで入院し、治療を受けた。森の中で救出された男性10人の中には、腐敗によってペニスを失った若者もあった。

 割礼が原因の陰茎切除は、年間にどのくらい行われているのか? 正式なデータはないが、東ケープ州(人口約656万人)では毎年55人、南ア全体では毎年250人程度の陰茎切除が実施されている。切除すれば、排尿機能と生殖機能が完全に失われる。しかも、下腹部の外見が毀損されるので、若者の心に深い傷を負わせる。思い余って、切除後に自殺を図る若者も後を絶たない。

陰茎移植の問題点はないのか?

 今回の陰茎移植を成功させたファンデルメルベ教授らは、2010年から陰茎移植の技術研究に傾注してきた。近い将来は、陰茎移植は陰茎がんの切除を受けた患者にも適用できる可能性があるという。

 陰茎移植の問題点はないのか? 陰茎移植された患者は、ペニスへの拒絶反応を防ぐために、生涯にわたって免疫抑制剤を服用しなければならない。免疫抑制剤は、腎臓や心臓の機能障害、糖尿病や高血圧などのリスクを高め、食欲不振、吐き気、下痢などさまざまな副作用を招く。しかも、免疫を抑制するため、感染症に罹りやすくなり、リンパ腫や肝炎ウイルスによる肝臓がんなどのウイルス性のがんを発症するリスクにも晒される。さらに、臓器移植後のウイルス感染とは別に、肺がん、腎臓がん、皮膚がん、甲状腺がんなどの発症リスクも避けられない。移植患者のがん発症リスクは、一般人の2〜4倍という報告がある。

 今回、陰茎移植を受けた若者のペニスが、拒絶反応もなく機能できるかどうかは不明だ。だが、2015年6月、ファンデルメルベ教授は米国CNNのインタビューに答えて、「患者のガールフレンドが妊娠4カ月で、11月には出産する予定だ」と話している。明るいトピックだ。

ペニスを失っても生命の維持に影響はないが......

 陰茎切除とは何だろうか?

 ペニスの喪失は、機能障害だが、生命の維持には直接、甚大な影響はない。機能障害を人に知られることも少ないかもしれない。だが、本人にとっては、心理的にも肉体的にも耐えがたい屈辱感や喪失感に苛まれることは想像に難くない。陰茎移植後に免疫抑制剤の服用でがんや感染症に侵されても、排尿や生殖の機能を正常に保ち続けたい、正常に働くペニスを失いたくない。それが、ペニスを奪われた若者の偽らざる本心だ。

 陰茎移植で享ける利益、免疫抑制剤がもたらすリスク。その危ういバランスを感じつつ、若者は一生を送る。そのような若者の人生を少しでも救う手立てはないのか?

 たとえば、がんの緩和ケアだ。疼痛管理を行う緩和ケア医、精神症状に対応する腫瘍精神科医、緩和ケア専門の認定看護師、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士など、複数の専門職が連携して、若者の身体的・精神的・社会的苦痛を和らげながら、QOL(生活の質)を改善する。

 南アの高い医療水準、患者志向の医療体制なら、十分に対処できるに違いない。遥かなるアフリカの異国、南アの大自然を想い描きつつ、ファンデルメルベ教授らの奮起を期待したい。
(文=編集部)