■福田正博 フォーメーション進化論

 日本代表は11月12日のシンガポール戦を3−0、続く11月17日のカンボジア戦を2−0で勝利し、W杯2次予選グループEの首位に立った。

 公式戦である以上、どんな相手であれ結果を残すことが重要だ。しかし、試合内容について言及すれば、手放しで喜べないものだったと言わざるを得ない。

 その要因は、ハリルホジッチ監督が格下相手の2試合で計20人の選手を起用し、チーム内に競争をもたらそうとしたものの、その狙いが裏目に出たからだ。「来年からは選手を絞っていく」と公言しているハリルホジッチ監督としては、多くの選手の適性を見きわめるために20人も起用したのだろう。

 シンガポール戦は、まだ収穫はあった。1トップに金崎夢生、トップ下に清武弘嗣、ボランチに柏木陽介を起用し、3選手ともにリーグ戦で見せる特長や好調さを存分に発揮した。

 鹿島で好調を維持する金崎は、もっと早く代表に招集してもよかったと思うが、前半20分に均衡を破る代表初ゴールを決めて招集即スタメンで一発回答。決定力不足に悩む日本代表にとっては光明になりうる可能性を見せた。

 柏木も左足からワンタッチ、ツータッチでパスを散らし、チャンスと見れば果敢に縦パスを入れて攻撃のアクセントをつけた。左利きの柏木が日本代表にもたらすものは大きい。左利きの選手はパスを出すときに独特の懐の深さを持っているため、体の向きよりもパスが出せるアングルは広く、敵DFがパスの方向を予測しにくい。柏木はこの持ち味を生かしてDFとDFの間にパスを出していた。

 清武も前線を縦横無尽に動きながらテンポのいいパス交換で攻撃にリズムを生み出し、トップ下としての存在感を見せていた。それだけに、シンガポール戦後に再び足を故障したのは残念でならない。

 ただし、彼らの活躍を額面どおりに評価できるかと言ったら、そうでもない。これは基準をどこに置くかで変わってくる。

 アジアでの戦いを勝ち抜くには彼らのアピールは心強いものだが、その先に待つ「W杯本大会で世界の強豪国に勝利する」という観点に立つと、彼らにはまだまだ足りない部分もある。強豪国と対戦した場合に、金崎は1トップとして、レベルが数段上のDFを背負いながら持ち味を発揮できるのか未知数だし、柏木も守備の時間が増えた時にフィジカルを含めてどれだけボランチとして通用するかという課題が残る。それだけに、彼らが今後どういった成長を遂げるのかを見守りたい。

 一方、シンガポール戦から8人を代えて臨んだカンボジア戦は、スタメンとしてピッチに送り出された選手たちは見せ場をつくれずに終わった。ボールがバウンドするたびに人工芝に撒かれた黒いチップが跳ね飛び、ボールの勢いが削がれる不慣れなピッチに苦しんだ部分を差し引いても、課題の多い内容だった。

 メンバー構成でも疑問に感じる部分はあった。それは、ボランチに遠藤航と山口蛍を並べたことだ。守備の時間が増える強豪であれば、ふたりが先発するのは理解できるが、引いて守るカンボジアをどう崩すかがポイントになる試合に、守備が持ち味の彼らを並べたら、攻撃が手詰まりになるのは予期できたはずだ。

 この連載で以前にも書いたが、選手をテストするにはチームの根幹を成すメンバーがいる状況で試さなければ意味がない。なぜなら、新戦力がチームにどういった効果をもたらすかがわかるからだ。

 これに加え、日本人特有のメンタリティーも関係する。日本人選手の場合、経験値の豊かな選手と一緒に起用して、新戦力に安心感を与えると、より溌溂としたプレーをする。しかし、反対に安心できる環境でなければ、新戦力は萎縮して、与えられたポジションをそつなくこなすことに徹してしまう傾向にある。

 これが南米やアフリカなど海外の選手なら、チャンスを与えたら「無難なプレー」という選択肢はないだろうが、日本人はミスを恐れてリスクを冒さない傾向があるため、それをふまえて力を発揮しやすい環境を整える必要がある。

「和を重んじる」日本人、「自己主張を重視する」欧米という環境の違いによるところも大きいのかもしれないが、このあたりの日本人特有のメンタリティーを、ハリルホジッチ監督はまだつかみきれていないのかもしれない。

 いずれにしろ、シンガポール戦は中盤のボランチに長谷部誠がいて、前線の右サイドには本田圭佑がいた。この存在が、日本代表に約5年ぶり復帰の金崎、約3年半ぶり復帰の柏木が、普段とおりのプレーができることにつながった。

 一方で、カンボジア戦は岡崎慎司や香川真司はいたものの、新戦力が安心してプレーできるベテランや中堅が中盤から後方に存在しなかったことで、チーム全体が無難なプレーに終始することになってしまった。

 たしかに、チームを成長させるために、競争や世代交代は必要なものだ。しかし、場当たり的に各ポジションを競わせても、チーム力の底上げになりにくいのも事実。新戦力をテストするにしても、フィールドプレーヤーの割合を若手、中堅、ベテランで「3:4:3」または「2:6:2」とある程度バランスを取らないと、ゲーム運びが難しくなってしまうことがある。

 また、最近気になることがひとつある。それは、現在の日本サッカー界の若手選手の多くが、スマートなプレーをする傾向が強いことだ。つまり、日本代表の試合でもJリーグの試合でも、若者特有の「がむしゃらさ」や「ひたむきさ」が、ピッチ上であまり見られない。

 本田圭佑にしろ、長友佑都にしろ、彼らが若手だった頃は自分の存在感を示すために、がむしゃらにプレーしていた。ひいてはそれがチームに活気をもたらし、チーム力の向上につながっていった。

 現在の日本代表でも、原口元気が荒削りながらも野心的なプレーを見せるものの、他にはそういった存在があまり見当たらない。先に述べたように、若手が育ちやすい「土壌」を作れていない一面もたしかにあるが、それでも、怖いもの知らずにチャレンジする若手がもっと台頭してきてもらいたいと切に願っている。

 そうした選手が現れてこそ、日本代表に「本当の競争」が生まれる。日本代表の活動は来年3月のアジア2次予選までないが、それまでの間に、若手選手には牙を研ぎ澄ましておいてもらいたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro