日本株や為替、世界経済に潜む闇を白日の下にさらけ出し、明快かつ独特な視点で切り込む刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」。今回はバブル期の仕手の大物が相場操縦容疑で逮捕された事件の"不可解な経緯"を斬る!

 東京地検特捜部は11月17日、株式市場で特定の銘柄に大量の買い注文を出すなどによって相場を不当に吊り上げたとして、加藤繊覆△ら)氏と親族2人の計3人を金融商品取引法違反の疑いで逮捕しました。

 本紙は関係先に強制捜査が入った3月12日、一部マスコミが同氏の容疑が固まり逮捕が近いことをにおわせた10月1日、そして逮捕の報道を受けた11月19日で記事を掲載しています。

 マスコミは「強制捜査→容疑が固まる→逮捕」とスケジュールに従って当局から提供される情報通りに、見事に同じような報道を繰り返しているだけで、見るべき内容がありません。

逮捕容疑が「風説の流布」から「相場操縦」に変わった理由

 加藤氏は、バブル時に巨額資金を動かしていた仕手集団「誠備グループ」を率いていた仕手の大物です。1981年に所得税法違反で逮捕され実刑判決を受けますが、最後まで頑として資金源を明らかにしませんでした。もしその時に氏が口を割っていれば戦後の一大疑獄事件となっていたでしょう。

 さて、今回の事件は「強制捜査」「容疑が固まった時点」では、いつも「被疑者」の段階から容赦なく実名・呼び捨てで報道するマスコミが、なぜか加藤氏の名前も手掛けた銘柄名も伏せていました(もちろん本紙では最初から言及していました)。

 また、容疑についても加藤氏が代表を務める「般若の会」のサイト『時々の鐘の音』に「(過去に自分が手掛けたのと)同じような大相場になる」と書き込みをしたことが「風説の流布」に該当するのだという報道をしていました。

 しかし、そのような書き込みは、毎日あちこちのサイトで山のように目にします。なぜ「般若の会」だけが問題視されたのか。その内容ではたして「風説の流布」が成立するのか、本紙は疑問を呈してきました。

 ところが今回の「逮捕」報道で、初めて加藤氏とその親族の名前、仕掛けた「新日本理化」の銘柄名が明らかにされ、容疑も(同じ金融商品取引法ではあるものの)「風説の流布」ではなく「相場操縦」となっていました。

 裏を読めば、これまでの「強制捜査」「容疑が固まる」段階でほぼ断定的に報道されていたにも関わらず、加藤氏の容疑については固められていなかったことになります。今回ようやく「大量の買い注文などによって相場を不正に吊り上げた」容疑で逮捕に踏み切ったようですが、正直「えっ!?」といいたくなる容疑です。

すっ天井まで買い上げ一部売却で逮捕なのか?

 報道によると加藤氏は「2012年2月15日〜同年3月2日の間に、親族の口座を使って20億〜30億円をかけて新日本理化株を296万株買い、同時に280万株の買い付けを委託して同社の株価を871円から1297円まで吊り上げ、一部を売却して利益を得た」容疑となっています。

 新日本理化の株価は2011年10月の200円台から上昇し、2012年3月2日に1297円の高値を付け、そこから急落して同年4月には400円台になっていました。本日(11月18日)は191円です。

 つまり、加藤氏らは自己資金を20〜30億円もつぎ込み、顧客にもほぼ同額の金額をつぎ込ませ、新日本理化の「すっ天井を買ってしまった」容疑で逮捕されたことになります。

 実際に売買を成立させているのですからいわゆる「見せ玉」にはあたらず、また買い付けた株数全てを高値で売り抜けていたわけでもなく、その一部を売却できただけだったようです。

マスコミ報道「60億円の利益を上げた」はどうなった?

 マスコミは「容疑が固ま」った段階から「60億円の利益を上げた」と報道していましたが、すっ天井まで買い上げた挙句に一部を売り抜けただけで、どうやったら60億円もの利益を上げることができるのかまったく理解不能です(一部マスコミは今回の逮捕報道においてもなお「60億円の利益」と書いているところがあります)。

 要するに「風説の流布」だと加藤氏を直接逮捕するにはハードルが高いので、無理やりにでも高値まで買い上げたことをとらえて「相場操縦」としてしまったようですが、無理筋すぎます。加藤氏自身も「えっ」と驚く容疑だったでしょう。

 それでも「どこが金融商品取引法に違反しているのか」を議論することは、全く意味がありません。証券取引等監視委員会の特別調査課と東京地検特捜部が「違反している」と決めたら最後、何が何でも関係者は逮捕・起訴され粛々と裁判では有罪となります。何しろこのように起訴された事件は、現在裁判中の数例を除いて160事件以上が連続して有罪となっているのですから。

 なぜ、東京地検特捜部が(今さらバブル時代の仕手師である)加藤氏に目を付けたのか。考えられる可能性は――闇の入り口までをご紹介する本連載で書けるのはここまでです。

 それにしても、いつも危惧することですが、証券取引等監視委員会と東京地検特捜部(地方なら各地の検察庁)は金融商品取引法に「えっ」と言いたくなる斬新な解釈を加えて判例化し、いつでも誰でも好きなように逮捕できる「万能の武器」に仕立て上げているのは気になります。

 それでも(ボロがいくら出てきても)東芝の「不適切会計」は絶対に刑事事件化しないようですが…。