大ヒット公開中の「映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!」。プリキュア史上初の3本立て企画の最後を飾ったのは、プリキュア史上初の「フルCGでのストーリー中編」に挑戦した「プリキュアとレフィのワンダーナイト!」。
宮本浩史監督と、CGプロデューサーの野島淳志Pにお話をうかがった。

夢物語のようだった「監督になりたい」という想い


──宮本監督は、「ハートキャッチプリキュア!」の前期EDからプリキュアシリーズに携わっていらっしゃいます。今回、初めて映画作品を監督するにあたって、どのような経緯があったのでしょうか。

宮本 もともと、6〜7年前から「監督になりたい」と言い続けていたんです。でも、自分は3DCGのキャラクターの造形まわりをやらせてもらうだけの1モデラーでしかなかった。そんな人間が監督という目標を抱くのは、夢物語というか……そう簡単ではありませんでした。

──モデラーから監督になるというルートは、東映アニメーションでは珍しいことなんですか?

宮本 そもそも3DCGサイドから監督になるということ自体が、あの当時はほとんど前例がありませんでした。演出助手をやって、演出になって、演出でキャリアを積んで監督に……という道が一般的だと思います。正直、監督への道は諦めかけていました。


──それが今回「プリキュアとレフィのワンダーナイト」で念願の劇場作品の監督に。どういったきっかけが……?

宮本 「スマイルプリキュア!」や「ハピネスチャージプリキュア!」のEDで、ディレクターや演出をやらせてもらうようになって、「宮本の映像が好き」と言ってくれる方が出てきてくれた。そういう中で、今年の3月にオープンしたテーマパーク「東京ワンピースタワー」のアトラクション映像(「ルフィのエンドレスアドベンチャー」内で上映)で、CGディレクターではなく監督として、絵コンテからすべてやらせてもらえたんです。そこでキャラクターのお芝居を描いたことが、今回の企画につながりました。

──今回の「ワンダーナイト」は、レフィという女の子に「パンプキングダム」に呼び出されたプリキュアたちが、国を救うために奔走するお話です。

宮本 「ワンダーナイト」は、もともと関係のないオリジナルの企画でした。ハロウィンをモチーフにしている、レフィを主人公にしたお話。その企画をうちの部署の氷見武士プロデューサーが覚えていてくれて、「今回プリキュアの秋映画がハロウィンものだから、合体させてみたら面白いんじゃない?」というアイデアを出してくれました。「ワンダーナイト」の原型のプロットと企画書を描いたところ、鷲尾天プロデューサーに氷見さんがプレゼンしてくれて、監督になるに至りました。

CGでドラマを描く、新しい挑戦


──その時にはすでに3本立て企画で?

野島 当初の企画の段階では、長編セルアニメーションと、CGの歌とダンスの短編アニメーションの予定でした。それを氷見さんが「デジタル映像部として新しい挑戦をしよう」ということで、サイレントアニメーション短編の「キュアフローラといたずらかがみ」、そして芝居をガチでやる台詞のある物語の中編「ワンダーナイト」の3本立てに。
宮本 氷見さんからは「大変だと思うけど、中編としてガッツリやっていくこともできる。どう?」と訊かれましたね。「ちょっと考えさせてください」とお返事しました。


──少し悩んだんですね。

宮本 期間的に、かなりきついだろうと思ったんです。用意されていた半年という時間でフルCGの映画を作るのは、正直現実的な話ではないし、前例もほとんどない。ただ、何日か考えて、「自分がずっとやりたかったのは、3DCGでドラマを描いて芝居をさせることだ」と。CGといえばダンスやアクションという印象があるけど、それだけではなくて、キャラクターの芝居を描いていきたかった。今回の中編では、それができるんじゃないのかなと思い、氷見さんに「やります!」と返事をしました。

──宮本監督が担当していた「スマイルプリキュア!」EDは、歌とダンスだけではなくて、ちょっとしたお芝居パートみたいなものがありました。昔からやりたいことが変わっていらっしゃらないということですね。

宮本 やりたいことが4年越しにようやくかなって、本編でドラマを描くことができるようになったイメージです。当初は、プリキュアはずっとかぼちゃを頭にかぶっている予定で(笑)、最後の最後の見せ場までは表情も髪の毛も動きを付けなくていいという企画でした。アニメーションスーパーバイザーの金井弘樹くんに相談して、「だったらいいんじゃない?」と後押しをもらったことも大きかったです。

──えっ!(笑)プリキュアたち、一度もかぼちゃをかぶってないですよね。

宮本 結果的にそうなりましたね……(笑)。でも、現場はこれまでアクションやダンスばかりをやってきたので、「本編の芝居を描ける」というところに対してモチベーションがすごく高く、みんな「自分の作品だ」という意識をもって頑張ってくれました。現場のモチベーションに押されてようやく完成までこぎつけられました。

半分は「鷲尾のレフィ」、もう半分は「宮本のレフィ」


──キャラクターについて聞いていきます! レフィは最初のオリジナルの企画のころからあまり変わっていないのですか?

宮本 等身や髪形は少し変わっているんですが、衣装のデザインはほとんどそのまま。内面については、もともと自分が考えていたキャラクターと、鷲尾Pからもらったアイデアが混ざり合って今のレフィになった感じです。

──鷲尾Pのアイデアはどのような?

宮本 最初のプロットでは、レフィの執事としてかぼちゃをかぶったフクロウが登場して、だいたいそいつが喋ってました。レフィ自体はほとんどしゃべらなくて、最後の最後ようやくプリキュアと絆ができて自分の言葉を言えるようになる、あまり自己主張のない感じのキャラクター。でも、鷲尾さんのアイデアは「元気のいいおてんばな女の子にしたい」。
野島 私はあとから気づいたんですが、おとなしいプリンセス像だと、長編のパンプルル姫と似たようなお話になってしまう懸念が鷲尾さんにあったのではないかと。そういう差別化をする意味でも、おてんばな性格をつけたかったんじゃないでしょうか。
宮本 レフィがフローラに強気に言う「質問はひとつにして!」というような台詞も鷲尾さんのアイデア。序盤の自分で身の上を説明して引っ張っていくようなレフィは「鷲尾さんのレフィ」で、中盤弱いところを見せて、終盤で心を開いて自分の言葉を言えるようになってくるレフィは「宮本のレフィ」が出ているなと思います。

──演じているのは子役の上垣ひなたちゃん。アニメに声を当てるのは初めてながら、好演していましたね。

野島 大人の声優が演じる子どもではなくて、プリキュアを知っている本当の子どもにレフィを演じてほしくて。どうしてもレフィの声優は子役にしたかったんですよね。
宮本 ひなたちゃんは、テレビ番組で彼女を知った鷲尾さんが「すごく歌がうまいし、お芝居もできる」と推してきてくれた子です。オーディションテープを送ってもらったんですが、演技が舞台演技寄りだったのもあり、当初は意見が分かれました。それで、音響スタジオのタバックにオーディションで来てもらいました。相手役は古城門志帆さん。やっていく中で、吸収率がものすごかったんです。

──吸収率。

宮本 自分の出す指示出しを吸収して、それに対してよくなっていく幅がすごかった。鷲尾さんや録音のベテランの川崎公敬さんにも立ち会っていただいていたんですが、みんな「これならいける!」とひなたちゃんで決定しました。収録のときも、アフレコの数時間のあいだでどんどん成長していく。キュアフローラ役の嶋村侑さんたちも驚いていました。ひなたちゃんの「自分のものにしていく力」にはすごく助けられましたし、心から「この子にしてよかった」と実感しました。

──途中、レフィが歌とダンスで敵を惹き付けるシーンは、ひなたちゃんの歌の力で説得力が増していたように思います。


宮本 プリキュアといえば歌とダンスというところがある。コンサートシーンは初期のアイデアからどうしても入れたいと思っていました。ただ、単に歌ってダンスするだけだとつまらないなというのも自分の中にあって。コンサートをしている裏で、プリキュアたちが突撃する演出になっていきました。
野島 コンサートのシーンは必要な要素ですよね。ひなたちゃんを起用したからには、ぜひオリジナル曲を歌ってほしいという思いもありました。

「悪役といえば中尾さん!」で決まったナイトパンプキン


──プリキュアたちとレフィを苦しめるナイトパンプキン。彼の存在も、オリジナルの企画からのものですか?

宮本 はい。ディテールを足したくらいで、デザイン自体はほぼ迷わずにそのままです。

──「ドラゴンボール」のフリーザ様で知られる中尾隆星さんの声がとてもハマっていました!

宮本 絵コンテを描いてるときって、キャラクターの台詞が自分の頭の中で再生されるんです。そのときにイメージしていたのが、「ワンピース」に出てくる中尾さん演じるシーザー・クラウン。東京ワンピースタワーの映像の際、シーザーの登場シーンの収録をしたんですが、中尾さんの演技は鳥肌が立つレベルの素晴らしいものだったんです! その感動が冷めやらぬまま「ワンダーナイト」の企画が始まったので、自分の中では「悪役と言えば中尾さん!」に。

──では、ナイトパンプキンのキャラクターは、かなりの部分中尾さんの演技をベースに考えている?

宮本 はい。鷲尾さんに「声は誰がいい?」と訊かれて、「中尾さんで!」とお願いしました。その要望が通ったのがありがたかった。ばっちりハマってくれました。


3Dの空間を生かしたバトルアクションを


──「ワンダーナイト」は、アクションシーンの気持ち良さと、ドラマパートの丁寧さが両立しているのが印象的です。先に、アクションシーンについて詳しくお聞きしていきたいです。

宮本 アクションは、3Dの空間を生かすことをすごく意識しました。美術監督の真庭秀明さんに背景デザインをオーダーしたときも、「縦の空間を意識できるデザインを描いてください」とお願いしました。平面的ではない、ただカメラを動かすだけじゃないバトルアクションを描ければと。

──3Dらしさのあるバトルアクションというと、たとえばトゥインクルが上から蹴ってくるシーンなどでしょうか。


宮本 それから、冒頭の追いかけっこのシーンや、レフィが階段を走るシーンなども。横の空間の奥行きだけではなくて高さもある、空間を生かしたアクションをするイメージです。

──特に気に入っているバトルシーンはどこでしょうか。

宮本 ナイトパンプキンとプリキュアのバトルですね。金井くんはすごく作画2Dアニメへのリスペクトを持っていて研究をすごくしている。3DCGとして空間を生かすアクションをやりながら、2Dの作画でやっている溜めや、嘘をついたパースの気持ち良さを積極的にやってくれるんです。2Dアニメが何十年かけて積み上げてきた技法と、3Dの技術的な良さが、いい意味で混ざり合ったアクションシーンだと思います。

──『CGWORLD』11月号によると、あのシーンの絵コンテは「おまかせ」とだけ書いて渡したとか……?

宮本 そうなんです! 基本的に全てのシーンで絵コンテを描いたんですが、あそこだけは金井くんにすべて任せました。今回は、アニメーターとしては人も育ってくれましたし、信頼関係も築けた。もし次回以降があったら、ああいう「おまかせ」シーンを増やして、楽をしたいですね(笑)。


──個人的にすごく好きなのが、プリキュアたちがスケートをしながら敵を倒していくシーンです。キュアマーメイド役の浅野真澄さんも好きなシーンに挙げていらっしゃいました。

宮本 もともとあそこのシーンは鷲尾さんのアイデアですね。「どうしてもフィギュアスケートがしたい!」と。
野島 フィギュアスケートはABCの西出将之プロデューサーからも「リアルな動きでお願いします」とリクエストがありました。作画で表現するには難しいので、CGでプリキュアにやらせてみたいという要望でした。
宮本 フィギュアスケートで説得力のあるアクションを作ろうと思うと、パースだけじゃなく、重心やタイミングをかなり研究しなければいけない。担当アニメーターの本岡宏紀くんはかなり資料をかき集めてやってくれましたね。本岡くんは「スマイルプリキュア!」でキュアビューティーのフィギュアスケート的なアクションカットを担当してくれたので、ある意味それが活きたとも言えるかもしれません。


泥臭い芝居を3Dで


──中編では、テレビシリーズ本編で使われている変身バンクや必殺技バンクが一切ないのも意外性がありました。

宮本 鷲尾さんとかなり初期の段階で決めたことです。そういうバンクは長編「パンプキン王国のたからもの」で使われるだろうから、中編はあえてなしで、泥臭い芝居で勝負しようと。たぶん、今までだったら逆だったんですよ。3Dといえば、派手なエフェクトをたくさん使ってカメラをばんばん動かすもの。泥臭いバトルは2Dの作画の仕事……。でも、今回の3本立ては、あえて泥臭い動きをCGでやって、華やかな必殺技を作画のほうでやってもらった。

──長編で描かれる「モードエレガント・ハロウィン」も、そういえばCGではなくて作画で描かれていましたね。

宮本 そう、テレビシリーズならCGでやるところですよね。長編と中編通して、普通だったら逆のところにあえて踏み込んだのが面白いと思います。

──これからのプリキュアシリーズが、そういう方向に向かっていくという予感はありますか?

宮本 それはないんじゃないですかね。映画だからできる、いろんな意味で「今回は実験的なことをやっていこう」という企画でした。でも、想像以上に大変すぎました(笑)。同じようなことをやるんだったら、次は相当やり方を考えないと続けられない。省力案を相当考えていかないと……同じ期間で同じようなことをやれと言われても、絶対に無理ですね!

──しかも、後期ED「夢は未来への道」の制作も同時進行という、本当にすごいスケジュールだったとか。

宮本 後期EDもうちのチームでやらせていただきました。普通だったらEDだけでも3〜4カ月かかるのに、中編の作業の佳境時期とばっちり重なって、相当しんどかったです……。自分だけじゃなくて、中編を手がけたみんな「働いたな〜!」という気持ちです(笑)。

──しかも、今回のEDは4人のプリキュアそれぞれにソロパートがあって、放送回ごとに入れ替わる仕掛けになっています。単純に、制作するカットも多くなっていますよね。

宮本 そうですね。あとは、あのEDが劇場のEDでもかかることを考えながら制作していて。中編本編のあとにかかることを考えると、質感のある華やかな見せ方をしないといけない。なので、テレビシリーズのEDとしてかかるときは、「情報量が多い」「質感を盛りすぎている」という違和感を持つ方もいたみたいです。でも、映画が公開されてからは、「こういう流れだったのか」と肯定的なことを言ってくださる方が増えて、面白い流れだなと思いました。

(青柳美帆子)

【CGで「ドラマ」を描くことについてさらに詳しくうかがった後編はこちら】