マーケット関係者の間では、FRB(連邦準備制度理事会)による年内利上げが予想されていますが、その判断材料となる雇用と物価は、それぞれ対立するデータとなっており、投資家を悩ませています。ただ、イエレン議長のことが書かれた書籍を読むと、あるヒントが浮かび上がってきました。
どうなる? 米国の利上げの行方

 10月2日に発表された9月の米国雇用統計は、非農業部門雇用者数が14万2000人の増加でした。景気判断の分かれ目になるのは20万人増です。このラインを継続的に超えない場合は、経済の回復が鈍化していると評価されます。一方、失業率は悪化こそしていなかったものの、製造業の労働時間が低下し、賃金水準も大きな回復には至りませんでした。米国経済は、厳しい状況に向かっているのかもしれません。
 FRBのイエレン議長は年内利上げを強調していますが、今回の結果を見て、考えを変えるのでしょうか? FRBが雇用以外に重要視しているのが物価。こちらは安定しています。つまり、雇用の面と物価の面で利上げに対する判断が対立しているわけです。これでは、利上げの時期を予想するのはとても困難です。
 そういうときほど、マクロエコノミストの私は、経済データではなくイエレン議長の人格そのものを調査します。
理論や経済データで説明できるものは議論の対象になりにくく、マーケットの悩みの種にはなりません。説明できないから騒がれるし、注目される。そして、理論で説明できない現状でも、FRBは決断を迫られるのです。そのとき、彼らは何をよりどころに決断するのでしょうか?
 それは、経験や生い立ち、時には価値観などを軸に判断する傾向にあるようです。イエレン氏の生い立ちや経験をまとめた書籍に目を通すと、「失業者は私にとって単なる数字ではない」と、データでわからない肌で感じる経済と、雇用の重要性をひたすら強調しているのが印象的でした。
 FRBの使命は、物価の安定と雇用の最大化です。しかし、彼女の思想を考えると、雇用に関する経済指標は物価以上の重みがあるようです。イエレン体制が続く限り、米国利上げの判断材料は雇用と割り切って投資戦略を練るのもありかもしれません。

Masumi Sai
崔真 淑
Good News and Companies 代表
神戸大学経済学部卒業後、大和証
券SMBC金融証券研究所(現・大和
証券)に株式アナリストとして入社。
入社1年未満で、当時最年少女性
アナリストとしてNHKなど主要メ
ディアで株式解説者に抜擢される。
債券トレーダーを経験後、2012年
に独立。現在は、日経CNBC経済
解説部のコメンテーターとしても活
躍している。



※この記事は「ネットマネー2015年12月号」に掲載されたものです。