○懐かしい若者ら

この夏以降、あちらこちらで「SEALDs(シールズ)とは何者か?」と尋ねられました。安保法制を巡る報道で、「SNSで集まった若者の代表」という紹介のされ方から、Webの専門家としての解説を求められたのです。

筆者は「懐かしい若者ですよ」と答えていました。その心は「恐れを知らない世間知らずな若者」であり、70年代安保における学生デモと同じだからです。そして、同世代の若者の代表などではないと注釈を加えたうえで、その理由を「SNSで集まっている」からと説明しています。

現代的なコミュニケーションツールである「SNS」。これを介して集まった若者が「70年代安保」と同じ。この理解には「SNS」に対する0.2な誤解を解く必要があります。

○アラブの春がもたらしたもの

圧政に苦しむ中東諸国で、SNSによりつながった国民が、独裁政権を打倒したとされる「アラブの春」。まるでSNSが政権を打倒したかに喧伝されたことが誤解の出発点です。アラブ諸国におけるSNSとは、携帯電話やスマホとの組み合わせにより誕生した、低コストの通信インフラに過ぎません。だから、民主化を求める市民も、混乱を望む連中も使っています。

さらに国内では、東日本大震災以後顕著となった「脱原発デモ」において、SNSにより多くの人が集まったことを「動員の革命」と高く評価する人がいました。そのとき「アラブの春」に重ねる主張が目立ったのは、脱原発を「正義」と演出する狙いがあったのでしょう。これが誤解を強化しました。

しかし、SNSに「民主化」や「正義」というオプションは搭載されていません。むしろその「動員」を促すSNSの特性が、「アラブの春」以後の中東世界で、IS(イスラム国)の台頭を許し、日本で70年代安保の喧噪を、現代に復活させたといえます。

○アイラブ異邦人

父親が創業した会社を継いだK社長ですが、もうすぐ50の声を聞く彼が今、もっともハマっているのがSNSです。当たり前の話ですが、SNSを利用するのは若者だけではありません。

K社長は、顧客や取引先とネット上で「交流」することにより、ビジネスチャンスを拡大すると豪語していました。SNS上での「接点」が、ビジネスに有利に働くという目論見です。

そして投稿すれば即座に、経営者仲間が「いいね!」をクリックし、一緒に飲みに行くほど親しい取引先がコメントを寄せます。この距離の近さに狙いは的中したとのめり込み、オフラインにおける日々の交流の一つ一つですら、SNSにアップロードするようになります。

ところがK氏にビジネスチャンスが巡ってくることはありませんでした。なぜなら、彼が積極的に交流しているのは、外国人パブを心から愛する「仲間」ばかりだからです。

当初は色んなテーマでSNSに投稿をしていましたが、反応が良かったのが外国人パブ探訪。多くの「いいね!」が寄せられます。そして類は友を呼び、パブに特化したコミュニティが完成するまでに時間はかかりません。

新しくできたお店や、入店したばかりの女性タレント、その誕生日プレゼントについて投稿していて、ビジネスに繋がるわけがありません。むしろ、外国人パブに特別な思い入れを持たない社員は、K社長と距離を置き始めているのですが、そう指摘する「仲間」はいません。みな、同じ穴のなんとやらだからです。

○そもそもネットは?

SNSは「同好の士」を集めやすい特性があります。K社長の周囲に、外国人パブマニアが集まるのも、SNSにおいて「脱原発」のコミュニティが大きくなるのも、構造的にはまったく同じです。そこには正義も悪もありません。「好きか嫌い」があるだけです。

そもそも論に立ち戻れば、インターネットは興味の対象に傾斜し耽溺しやすい媒体です。ネットサーフィンにしても「ググる(検索)」にしても、興味を持ったから行う行為で、Twitterにおけるフォローや、Facebookにおける友だちも同じです。

つまり、インターネットそのものが、興味や思想、好き嫌いにおいて「偏る構造」になっているのです。そこから「SEALDs」が、SNSを介して集まったのなら、まずは「特定の考えに共感した若者たち」と分析すべきなのです。

それを、「正義」や「民主化」、あるいは「若者の代表」とする主張は、「インターネットの性質」を知らない0.2です。残念ながら、Webの専門家を名乗る著名人にも、こうした残念な意見が散見されます。

なお、バラエティ番組で「SEALDs」について問われた、現役女子高校生タレントは「ひいちゃう(発言要旨)」と答えています。それがリアルの「若者の声」でしょう。

70年安保当時でも、熱心に「活動」していたのは「学生」であり、当時の大学進学率は20%前後。集団就職した若者を指す「金の卵」に代表されるように、額に汗して働いていた「若者」の方が多数派で、当時の勤労青年曰く「学生運動なんざ、ヒマと余裕がある学生の遊びだよ」とのことです。

○エンタープライズ1.0への箴言

SNSは情報の偏りを加速させる

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治〜ネット世論と幼児化と山本太郎〜」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

(宮脇睦)