7月下旬に5年半ぶりの安値となった金価格。これは米国利上げ観測を材料にしたファンドの売り攻勢によりもたらされたものだった。しかし、米国の利上げが先送りされる中で、底打ちの可能性が指摘され始めている。

利上げの方針を決めた
イエレン議長に
降りかかる市場の反乱

確実視されていた米国の9月の利上げが見送られた。金市場を見るうえでのひとつの転機は、7月15・16日に行なわれたFRBのイエレン議長による定例の議会証言にある。ここで議長は従来のスタンスを変えたのだ。

それまで利上げに慎重姿勢を示していた議長が、「利上げが遅れるリスク」に言及し、年内利上げへの意志を強く示した。この議会証言を受けた金市場は、爍昂遒陵上げ〞を一気に織り込んだ。金利を生まない金にとって利上げ環境は無条件で売りというわけだ。

その結果が、7月20日の1100ドル割れから直近の安値となる1072・3ドルに至る急落だった。売り方は金市場から資金を引き揚げるというより、ファンドによる先物市場でのカラ売りが主体。その結果、ニューヨークCOMEX(商品取引所)での投機筋のオプションを含む建て玉は、2006年のデータ公開以来初めて売り越しに転じた。期日には買い戻しで決済する必要があり、将来の買い要因はたまっていく。

ところが、FRBには次なる障害が生まれた。中国経済の大幅減速懸念に端を発した、世界的な株式市場の波乱である。結局、この金融市場の不安定さを前面に出し、利上げは見送られた。もともと8月から9月にかけての市場の波乱は、実体経済に悪化の兆しがあってのものでなく、(情報開示の不完全な)中国という捉えどころのない対象に対する不安心理がつくったもの。

さらに利上げを迷うFRBの姿勢は、先行きに自信が持てない証しとして株式市場では売り材料となり、金市場では買い材料となった。表現を換えるならば、利上げの見送りは、乱高下する株価など市場センチメントを配慮したうえでのこと。FRBはバーナンキ前議長の時代に果敢な緩和策を講じ、株価を押し上げて資産効果による景気の底割れ回避を図ってきた。つまり、市場センチメントに働きかける手法を多用してきたのだ。ところが正常化を図るうえで、その反作用とも言うべき市場センチメントに政策が縛られる状況が生まれている。

こうした時間を過ごすうちに次なる障害が出現し、利上げタイミングを逸する可能性も高まっている。実際に10月2日に発表された9月の米国雇用統計では非農業部門の就業者数の増加は市場予想を大きく下回る14万2000人となった。こうした不透明な環境が続くほど、金市場はすでに底打ちしているという認識が深まるのではないだろうか。次の展開はカラ売りの買い戻し、ショートカバーを原動力とした上昇となりそうだ。

マーケット・ストラテジィ・
インスティチュート代表
亀井幸一郎
KOICHIRO KAMEI
中央大学法学部卒業。
山一證券に勤務後、
日本初のFP会社であるMMI、
金の国際広報機関であるWGCを経て        
独立し、2002年より現職。
市場分析、執筆・講演など
幅広く活躍中。



※この記事は「ネットマネー2015年12月号」に掲載されたものです。