FRB(連邦準備制度理事会)は最も大切な取材先のひとつであり、会見などへのアクセス権を持つ米国メディアがFRBを真っ向から批判することはめったにない。しかし、最近になって事情に変化が…。FRBの爐完匕〞が薄らいでいるようなのだ。

2012年10月と2013年4月に相次いでFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が発表前に流出した米国財務長官は、NY(ニューヨーク)連銀総裁だった2007年夏に利下げに関する情報を知り合いの金融機関幹部に漏らしたとされている。この事件もあまり掘り下げられなかった。
「セルサイド」と呼ばれる、売買を取り次ぐ金融機関の調査部門のエコノミストがFRBを批判することもほとんどない。市場調査と称したFRBによるオフレコ懇談会に出席することは、エコノミストの情報収集にとって不可欠だからだ。
GAO(会計検査院)によるFRBへの検査導入やNY連銀総裁の承認制度が議会で検討されたこともあった。だが、メディアやセルサイド経由で張った反対キャンペーンが功を奏し、FRBバッシングは鎮火した。
 著名投資家のスタン・ドラッケンミラー氏が年初に語っていたが、「相場を読むためにはFRBの動きがすべて」。ウォール街において、FRBは一種の爛▲鵐織奪船礇屮〞な存在なのだ。だが、最近になってFRBの爐完匕〞を否定するような発言を聞くようになった。せんだって話をする機会があった、グローバルに株式運用するファンドマネジャーも批判者の一人。いわく、「ジャネット・イエレン議長は市場との対話が下手だ」。
 このファンドマネジャーがやり玉に挙げたのが、9月中旬に開催したFOMC後の記者会見だ。結局、政策金利の現状維持を決めたが、利上げとなれば2006年以来となるだけに、注目だった。
 FOMC後の株価は低下の一途。FOMC後に相場上昇するこれまでのパターンから外れたのは、「『経済情勢が芳しくない』と言った一方で、『年内の利上げは可能だ。それを正当化する指標を確認できる』とイエレン議長は利上げ時期に言質を与え、市場は『どっちなんだ』と混乱したから。年内に利上げできなければ、市場参加者の不安が増幅する」(前出のファンドマネジャー)。
 建設機械メーカー最大手の米国キャタピラーが通期の売上高見通しを引き下げるなど、中国景気の後退が米国企業にも及び始めた。景気循環面で米国自体が後退期入りする可能性も出てきたが、英国バークレイズの調査部門のアジェイ・ラジャドヤクシャ氏は「市場はFRBが『次の一手』を持っていないことを見透かしている」と指摘する。
 9月24日、米国北東部マサチューセッツ州で、イエレン議長は講演の最中に苦渋の表情を浮かべ、昏倒しそうになった。「ライトが強く、脱水症状に陥った」とFRBは説明したが、口さがないブロガーなどは「政策判断、市場混乱、議会からの突き上げの三重苦に耐えられなくなったのだろう」と揶揄していた。

Hajime Matsuura
松浦 肇(まつうら・はじめ)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員
日本経済新聞記者などを
経て現職。
ペンシルベニア大学ウォートン校、
コロンビア大学法科大学院、
同ジャーナリズム・
スクールにて
修士号を取得。
ニューヨーク金融
記者協会(NYFWA)理事。



※この記事は「ネットマネー2015年12月号」に掲載されたものです。