NHK公式HP「NHKについて 会長あいさつ」より

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 NHKの看板番組のひとつ『クローズアップ現代』が"存立危機事態"だ。背後には、やはり官邸と籾井勝人NHK会長の影が──。

 『クロ現』といえば、今年3月に「週刊文春」(文藝春秋)が報じた"やらせ問題"で、先日BPOが「重大な放送倫理違反があった」と断じたばかり。これまでも"打ち切り""番組改編"の噂が絶えなかったが、このところ週刊誌報道が加熱し、現実味を帯びてきた。

 たとえば「週刊現代」(講談社)11月14日号は、「スクープ NHK人気番組『クローズアップ現代』3月で打ち切り決定!」と題して、"幹部間での打ち切り方針が大筋合意した"というNHK職員によるコメントを掲載。また、当の"やらせ問題"をスクープした「週刊文春」は11月19日号で、ジャーナリスト・須田慎一郎氏による"時間枠変更が既定路線で現在は国谷裕子キャスターの処遇をめぐって調整されている"という説を紹介した。さらに「週刊朝日」(朝日新聞出版)11月27日号の記事では、NHK幹部のこんな談話が掲載されている。

「打ち切りという話もあるし、籾井会長ら経営陣の本音はそうでしょう。ただ、今回の問題でやめたとなればイメージに響くという声があり、可能性は減っている。放送枠を遅い時間にしたり、週4回の放送回数を2回に減らしたりすることもあり得る。『報道番組の枠、時間が減れば、政府に文句を言われるリスクが減る』という消極的な理由です」(「週刊朝日」より)

 打ち切りではなく時間帯変更にしても、いずれにせよ『クロ現』の内容大幅改編はさけられないわけだが、しかし、これは"やらせ問題"が直接の原因ではないという。

 籾井会長は、『クロ現』の"やらせ問題"について、「反省してもしきれない。今後はこういうことが起こらないよう対策を講じる必要がある」(5月14日の会見)と述べて謝罪したが、前述の「週刊文春」ではNHK編成幹部がこう証言している。

「自分のことでは絶対に頭を下げない会長が、『反省してもしきれない』とコメントし、調査委員会まで立ち上げた。というのも、籾井会長はプライベートのゴルフにハイヤーを使い、その代金をNHKに支払われていた問題で、国会で火だるま状態だったからです」

 つまり、むしろ"やらせ問題"をきっかけにして、安倍政権に批判的な報道をする『クロ現』を葬り去り、加えて私的な経費使い込み問題等への批判をうやむやにしたい籾井会長の意図があるというのだ。

 とりわけ官邸と籾井会長には、『クロ現』と国谷裕子キャスターに関して"前科"がある。昨年、「FRIDAY」(講談社)が報じた"土下座謝罪騒動"だ。

 昨年の集団的自衛権閣議決定の直後、7月3日放送の『クロ現』に菅義偉官房長が生出演したときのこと。国谷裕子キャスターは「他国の戦争に巻き込まれるのでは」「憲法の解釈を簡単に変えていいのか」など、キャスターとして至極当然の質問をしたのだが、番組終了後に官邸は激怒。「君たちは現場のコントロールもできないのか」などと恫喝し、籾井会長をはじめ上層部が"平身低頭"となって謝罪したという。

 公権力によるあからさまな圧力だが、ここで問題にすべきは籾井会長の"資質"だ。NHKは元来、運営資金を国家権力に依存しないために受信料制度をとっているはず。だが、籾井会長といえば、就任会見後の「政府が右というものを左とは言えない」「(従軍慰安婦は)どこの国にもあった」などという発言に表れているように、安倍政権の圧力にへこへこと頭を下げ、権力への追随を隠そうともしない。そして、NHK内では、この自身の"忖度体質"に批判的な幹部や職員を制裁する"恐怖政治"を敷いてきたのだ。

 2014年度までNHK経営委員長代行を務め、3年の任期を終えて退任した上村達男早稲田大学教授は、新刊『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社)で、「組織のガバナンス」の観点から、籾井会長の性格をこう喝破している。

〈籾井会長は、非常に単純と言えば単純で悪人ではありません。しかし、これは経営委員として選出の責任がある以上は忸怩たるものがありますが、巨大組織のトップを担うにふさわしい素養・知見といったものがそなわっていないだけでなく、気に入らないとすぐに怒鳴り出す等、そうした欠陥を徳で補う側面も欠落しています。文句を言われて怒鳴るだけでなく、普段から理事に対しても「お前なー」という言葉遣いです。別に君子の交わりでなくても良いのですが、人格を尊重し合う人間関係そのものがありえず、常に上下関係で物事を捉えます。〉
〈議論しないで済む生き方が、何でも敵味方に分類して、自分に対して批判的なのは敵だからだと思うというあり方なのだと思えます。〉

 実際、籾井会長は、自分に楯つく物に対し、露骨な"報復人事"を見舞っているという。

〈籾井会長は着任早々の二〇一四年三月に、秘書室長を交代させています。
 NHKでは秘書室長は局長並みの幹部扱いで、秘書室長だった大槻悟さんは、前年の二〇一三年六月に報道局編集主幹から秘書室長に昇格したところでした。
 一年足らずでの交代の理由は、籾井会長が秘書室からの情報漏れを疑ったからだと聞いています。「会長に就任して以来、どうも身近な情報が漏れる。ボルトを締め直す必要がある」と口にしていたそうです。
 また大槻さんは籾井会長の就任後、会長が専用車をプライベートなゴルフに使おうとしたので注意したことがあり、「それが気に触ったのではないか」という人もいます。そういう人事を平気でやるので、職員はみんな怖がって、何も言えないわけです。いきなりハイヤーの運転手を交代させたもの、そうした背景があるようです。〉(前掲書より)

 物事を"敵と味方"に分け、気にいらなければ粛清する──。実際、〈籾井会長にとっては目の上のたんこぶ〉だったという専務理事の塚田祐之氏、吉国浩二氏は、今年2月、国会で籾井会長が就任時に理事全員に日付が白紙の辞表を提出させたことを追及された際に、参考人として「私は辞表を提出しました」と事実を認めた。すると、その後籾井会長は、塚田氏と吉国氏に辞任を迫ったという。上村教授は同書で〈理事は経営委員会の同意人事ですから、任期中に、辞任を迫ること事態がありえないことなのですが〉と嘆いているが、さらに籾井会長は国会の前に、理事たちに「『そんな事実はなかった』と口裏を合わせるように」と圧力をかけていたらしい。ようは、虚偽答弁まで指示していたというのだ。

 呆れてものも言えないが、結果として、塚田氏は新放送センター建設プロジェクトという大事業の担当から降ろされ、吉国氏とともに、「ターゲット80統括補佐」という〈名ばかりの閑職〉に籾井会長によって追いやられたのだという。上村教授はこう指摘している。

〈専務理事という重要な職位のある人材に、それなりの報酬を支給している人材に、それにふさわしい職務を与えないことは、それ自体が会長としての職務違反ではないでしょうか。(略)
 これは、会長がどういおうと自分の意に従わないことに対する報復以外の何物でもないと思います。〉(前掲書より)

 こうした籾井会長の"敵と味方"に分ける性質が、安倍政権との結びつきを強めている要因であることは想像に難くない。本サイトでも何ども指摘してきたが、現に籾井会長就任以降、『ニュースウオッチ9』や党首討論番組など、NHKのニュース番組が露骨に安倍政権寄りになっていった。上村教授も同書でこう分析している。

〈籾井氏は物事を徹底して敵味方で考えるタイプでもあり、政党でいうなら、自民党は味方で民主党は敵。新聞なら産経、読売は味方で、朝日、毎日、東京は敵という感覚です。そして自分が「敵」だと思った相手は、どんな正しいことを言おうと、「あいつはおれの敵だから言っているのだ」という論法で全否定します。〉(前掲書より)

 籾井会長を経営委員として傍から見てきた上村教授によるこうした証言を踏まえると、やはり、籾井会長から見れば、"味方"である官邸に頭を下げさせた『クロ現』と国谷キャスターは、まぎれもなく"敵"であろう。"やらせ問題"にたいするBPOの報告を機に、いっきに始末してしまおうというのもうなずける話だ。

 上村教授は前述の「週刊朝日」の記事のなかで、籾井会長と安倍政権の共通項は「反知性主義」だとして、こう述べている。

「安倍政権は、いったん権力を握れば、何でもできると思ってしまっているのではないか。権力をチェックし、けん制する機能が必要だということが、理解できていない。自分と考え方が違えば『左翼だ』とレッテルを貼って、排除してしまう。法やルールをベースにものを考えられるセンスのある人がいない。籾井会長の特徴は、そのまま安倍政権にも当てはまるのです」(「週刊朝日」より)

 NHKが"安倍チャンネル"と揶揄されて久しいが、それは、単に政権寄りの放送を繰り返しているということだけでなく、籾井会長と安倍政権の性格的相似性に起因しているのかもしれない。

 そして、まさに安倍首相をバックにつけた籾井会長の"恐怖支配"によって、NHKは報道機関どころか、放送局としての倫理さえ失ってしまった。国民が自分たちの手に公共放送を取り戻すためには、もはや安倍政権を倒すしか方法は残されていない。
(小杉みすず)